2021年9月11日土曜日

コナン・ドイル作「サセックスの吸血鬼」<英国 TV ドラマ版>(The Sussex Vampire by Conan Doyle

ストランドマガジン」の1924年1月号 に掲載された
コナン・ドイル作「サセックスの吸血鬼」の挿絵(その3)
<ハワード・ケッピー・エルコック(Howard Keppie Elcock:1886年 - 1952年)によるイラスト> -
シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンの二人が
ファーガスン家に到着した後、
ワトスンが後妻のファーガスン夫人の寝室を訪れた場面が描かれている。
画面左手前の人物がワトスンで、画面右手前の人物がファーガスン夫人。
そして、画面左手奥の人物が、
ファーガスン夫人付きのメイドであるドロレス。


サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作「サセックスの吸血鬼(The Sussex Vampire)」は、ホームズシリーズの56ある短編小説のうち、48番目に発表された作品で英国では、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1924年1月号に、また、米国でも、「ハーツ インターナショナル(Heart’s International)」の1924年1月号に掲載された。そして、ホームズシリーズの第5短編集である「シャーロック・ホームズの事件簿(The Casebook of Sherlock Holmes)」(1927年)に収録された。


本作品は、英国のグラナダテレビ(Granada Television Limited)が制作した「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」(1984年ー1994年)において、TV ドラマとして映像化された。具体的には、第5シリーズ(The Casebook of Sherlock Holmes)と第6シリーズ(The Memoirs of Sherlcok Holmes)の間の長編3部作の第2エピソード(通算では第34話)として、1992年に撮影の上、英国では、1993年1月27日に放送されている。



主な配役は、以下の通り。


(1)シャーロック・ホームズ → ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett:1933年ー1995年)

(2)ジョン・ワトスン → エドワード・ハードウィック(Edward Hardwicke:1932年ー2011年)


(3)ジョン・ストックトン(John Stockton:作家) → Roy Marsden

(4)ロバート・ファーガスン(Robert Ferguson:紅茶仲買商) → Keith Barron

(5)カルロッタ・ファーガスン(Carlotta Ferguson:ロバート・ファーガスンの後妻) → Yolanda Vasquez

(6)オーガスタス・メリデュー(Augustus Merridew:牧師) → Maurice Denham

(7)ジャック・ファーガスン(Jack Ferguson:ロバート・ファーガスンの長男で、先妻の子供) → Richard Dempsey

(8)ドロレス(Dolores:カルロッタ・ファーガスン付きのメイド) → Juliet Aubrey

(9)メースン夫人(Mrs. Mason:ファーガスン家の家政婦) → Elizabeth Spriggs

(10)マイケル(Michae:メースン夫人の息子で、ファーガスン家の廐務員) → Jason Hetherington



グラナダテレビは、短編である本作品の内容を2時間近い長編「最後の吸血鬼(The Last Vampyre)」として映像化し、新キャラクターとして、謎多き作家のジョン・ストックトンを登場させ、かなりの改変を加えている。


作家ジョン・ストックトンがペルーからサセックス州(Sussex)ランバリー村(Lamberley)を訪れた以降、村人達は非常に不安な日々を送っていた。


まず最初に、ジョン・ストックトンが、彼の馬車の修理について、鍛冶屋(blacksmith)のカーター(Mr. Cater)との間で諍いを起こした。その後、ジョン・ストックトンが馬車でその場から立ち去る際、彼が振り向きざまにカーターを睨み付けると、カーターは突然血を吐いて即死してしまった。

次に、ジョン・ストックトンが、同じくペルーから帰国したファーガスン家の晩餐に招かれた際、彼がロバート・ファーガスンの次男の赤ん坊に触れると、その後、赤ん坊は亡くなってしまったのである。


検死の結果、鍛冶屋のカーターの死は、肥満と過度の飲酒による脳内出血(haemorrhage)が、ロバート・ファーガスンの次男の赤ん坊の死は、肺炎(pneumonia)が原因とされた。

ところが、村人達はこの検死結果に納得できず、ジョン・ストックトンは吸血鬼であるという噂が、村中に広まりつつあった。


吸血鬼の噂で動揺している村人達のことを案じたオーガスタス・メリデュー牧師は、モリスン、モリスン&ドッド法律事務所(Morrison, Morrison & Dodo)経由、シャーロック・ホームズに対して、事件の調査を依頼した。

吸血鬼の存在を信じないホームズとジョン・H・ワトスンであったが、メリデュー牧師の話を聞いた結果、依頼を引き受けることになった。


メリデュー牧師によると、ジョン・ストックトンは、ランバリー村の大地主であるセントクレア卿(Lord St. Clair)の子孫とのこと。

セントクレア卿は非常に残酷な性格で、彼に逆らう者に対して、惨たらしい死を与え、村人達から恐れられていた。しかし、彼の若いメイドが身籠ったまま、教会に捨て置かれたことが発端となり、村人達の怒りが頂点に達して、セントクレア卿は、怒り狂った村人達によって、屋敷ともども焼き討ちに会うことになった。100年程前のことである。

ジョン・ストックトンによると、彼の先祖の墓を探すために、ランバリー村に来たということだった。セントクレア今日のメイドが身籠った子供は生き延びて、今でもその子孫達がランバリー村に暮らしているという。メリデュー牧師は、ジョン・ストックトンが、彼の先祖の復讐のために、ランバリー村にやって来たのではないかと疑っていたのである。



英国 TV ドラマ版の人物設定は、概ね、コナン・ドイルによる原作をベースにしているが、以下のような相違点がある。


・作家ジョン・ストックトンとオーガスタス・メリデュー牧師は、英国 TV ドラマ版用の新キャラクターである。

・モリスン、モリスン&ドッド法律事務所経由、ホームズに対して、事件の調査依頼をしてきたのは、コナン・ドイルによる原作では、ロバート・ファーガスンであるが、英国 TV ドラマ版では、メリデュー牧師に変更されている。

・コナン・ドイルによる原作では、ロバート・ファーガスンの後妻は、ファーガスン夫人(Mrs. Ferguson)としか呼ばれていないが、英国 TV ドラマ版では、「カルロッタ」という名前が与えられている。

・メースン夫人は、コナン・ドイルによる原作では、ロバート・ファーガスンの次男の赤ん坊の乳母となっているが、英国 TV ドラマ版では、ファーガスン家の家政婦という設定に変更されている。

・ファーガスン家の廐務員であるマイケルについて、コナン・ドイルによる原作では、メースン夫人との関係は全く言及されていないが、英国 TV ドラマ版では、メースン夫人の息子という設定になっている。

・ロバート・ファーガスンの次男の赤ん坊について、コナン・ドイルによる原作では、性別や名前は全く言及されていないが、英国 TV ドラマ版では、次男で、「リカルド(Ricardo)」という名前も与えられている。また、コナン・ドイルによる原作では、赤ん坊は亡くならないが、英国 TV ドラマ版では、検死上、肺炎が原因で亡くなってしまう。



グラナダテレビとしては、コナン・ドイルの原作を忠実に映像化した場合、退屈な内容になってしまうであろうと考えて、かなりの改変を加えたものと思われるが、


(1)短編だった内容を2時間近い長編に引き伸ばしていること

(2)人物設定は、概ね、コナン・ドイルによる原作をベースにしているものの、物語自体は、コナン・ドイルによる原作から大幅に改変されていること

(3)全編を通じて、ホームズが受動的 / 非活動的であること

(4)物語は、オカルトめいた内容のまま進み、最後もハッキリとしない結論のままであること

(5)そのため、ホームズによる推理の冴えが全く見られないこと


等から、視聴しているうちに、途中から非常な退屈感を覚えてしまう。正直ベース、二度三度と繰り返して視聴するには適さない作品であり、グラナダテレビによる原作改変は、逆に、失敗だったのではないかと、個人的には考える。


0 件のコメント:

コメントを投稿