英国の Titan Publishing Group Ltd. の Titan Books 部門から2010年に出版された バリー・ロバーツ作「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 地獄から来た男」の表紙 |
(1)事件や背景の設定について ☆☆☆☆半(4.5)
本作品では、「吸血鬼ドラキュラ伯爵(Count Dracula)」や「ジキル博士 / ハイド氏(Dr. Jekyll / Mr. Hyde)」等のような他作品の登場人物や「切り裂きジャック(Jack the Ripper)」等のような実在の人物がシャーロック・ホームズの敵役として関与することはなく、純粋な意味でのホームズシリーズの続編と言うか、ホームズシリーズの一編となっている。この場合、他の要素には一切頼らないで、ストーリーを面白く構築する必要があるが、本作品は、事件や背景の設定について、ホームズシリーズを十二分に研究した上で創作されており、ある意味、聖典であるホームズシリーズよりも重厚な感じがして、本当のホームズシリーズよりも、ホームズ作品らしい。
(2)物語の展開について ☆☆☆☆☆(5.0)
物語の冒頭は、「バスカヴィル家の犬(The Hound of the Baskervilles)」(1901年-1902年)によく似た展開で始まった後、物語は徐々に、「緋色の研究(A Study in Scarlet)」(1887年)や「四つの署名(The Sign of the Four)」(1890年)等のように、過去における因縁話を根底にして進み、非常に本当のホームズ作品らしい展開をする。本作品の場合、「緋色の研究」や「四つの署名」とは異なり、過去における因縁話は、物語の後半 / 最後に別箇独立した長い話のように展開されるのではなく、物語の中盤に程よい短さで挿入されており、物語の雰囲気を壊さないままで、物語の冒頭から最後まで、常にホームズを主役たらしめている。過去における因縁話が、物語の後半 / 最後に別箇独立した長い話として展開される場合、残念ながら、蛇足めいた感じとなり、往々にして、読者の興味を削いでしまう傾向が強い。
(3)ホームズ / ワトスンの活躍について ☆☆☆☆☆(5.0)
本作品に登場するホームズは、物語の冒頭から最後まで、推理主体のホームズであって、全くブレがない。他の作品に出てくるホームズの場合、冒険活劇風のホームズであったり、あるいは、事件ものであっても、あまり推理の要素が出てこない等、読者としては、やや不満を感じるが、本作品のホームズは、推理に推理を積み重ねて、事件を解決に導く。前述の繰り返しになるが、ある意味、本当のホームズシリーズよりも、ホームズらしい活躍をする。本当のホームズシリーズを超えたと言っても、過言ではないと思う。
(4)総合評価 ☆☆☆☆☆(5.0)
他作品の登場人物や実在の人物、更に言えば、本来のホームズシリーズの登場人物(例えば、ジェイムズ・モリアーティー教授(Professor James Moriarty)等)にも一切頼らないで、純粋な意味でのホームズシリーズの続編と言うか、ホームズシリーズの一編を創作している。また、本作品は、本当のホームズシリーズよりも、ホームズ作品らしい仕上がりとなっている。事件は、「バスカヴィル家の犬」風の雰囲気で始まり、「緋色の研究」や「四つの署名」等のように、過去における因縁話を根底にして進み、ホームズによる推理によって、「本格推理小説」として見事に完結するので、文句の言いようがない。
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