2020年12月19日土曜日

P・D・ジェイムズ作「ヤドリギ殺人事件他」(The Mistletoe Murder and Other Stories by P. D. James) - その1

英国の Faber & Faber Ltd. が発行する
P・D・ジェイムズ作「ヤドリギ殺人事件他」のペーパーバック版の表紙
(Cover design by Faber Cover Illustration Ms. Angela Harding)

P・D・ジェイムズ作「ヤドリギ殺人事件他(The Mistletoe Murder and Other Stories)」は、2016年に英国の Faber & Faber Ltd. から出版された短編集で、2017年にペーパーバック版が刊行されている。

フィリス・ドロシー・ジェイムズ(Phyllis Dorothy James:1920年ー2014年)は、英国の女流推理作家で、一般に、「P・D・ジェイムズ(P. D. James)」と呼ばれている。

彼女は、1920年にオックスフォード(Oxford)に出生した後、ケンブリッジ女子高校(Cambridge High School for Girls)を卒業し、1949年から1968年まで国民保健サービス(National Health Service : NHS)に勤務。その後、内務省(Home Office)において、Police Department や Criminal Policy Department 等で働き、それらの経験が、彼女の小説に生かされている。

彼女は、それまでの功績が評価され、1991年に一代貴族として、「ホーランドパークのジェイムズ女男爵(Baroness James of Holland Park)」に叙された。


本作品のタイトルにもなっている「ヤドリギ(mistletoe)」とは、林檎(リンゴ)や樫(カシ)等の広葉樹に寄生する低木のことを指し、花言葉は「困難を克服する」で、不滅や豊饒を象徴する。また、英米では、クリスマスに、ヤドリギの小枝を家の戸に飾る習慣がある。


本短編集には、4つの作品が収録されている。


(1)「ヤドリギ殺人事件(The Mistletoe Murder)」(1995年)


結婚後2週間で、英国空軍のパイロットだった夫を亡くした18歳の主人公(女性)は、母方の祖母からの招待を受けて、1940年のクリスマスを、祖母の邸宅において過ごすことになり、クリスマスイヴ(12月24日)の夕方、現地へと向かった。

彼女は、亡くなった夫と同じく、英国空軍に所属している従兄弟(母の兄の息子で、6歳年上)であるポール(Paul)に初めて会えることを楽しみにしていた。ポールには、兄のチャールズ(Charles)が居たが、何年か前に亡くなっており、彼女にとって、ポールが生存する唯一の従兄弟だった。


現地に到着した彼女は、出迎えたポールから、彼の同僚であるロウランド・メイブリック(Rowland Maybrick)を紹介され、自分以外にゲストがあったことにやや驚くとともに、一目見て、ロウランドに対して、生理的な嫌悪感を抱いた。


翌日(12月25日)、クリスマスのイヴェントは何事もなく過ぎ、夕食後、彼女は、ポールと一緒に、ワグナーやベートヴェン等のドイツ音楽を鑑賞しながら、夜中の2時近くまで、カードゲームに興じた。


そして、ボクシングデー(12月26日)の朝、密室となった図書室内において、ポールの同僚であるロウランドが頭を殴られて殺害されているのが発見される。

そして、地元のジョージ・ブランディー警部(Inspector George Blandy)が、現場に派遣される。


検死の結果、前夜の午後10時半頃が、ロウランドの死亡時刻と判定された。彼女は、ポールのことを少し疑うものの、前夜、カードゲームが終わるまでの間、ポールは彼女の元を3分と離れていなかったのである。


(2)「非常に平凡な殺人(A Very Commonplace Murder)」(1969年)


アーネスト・ガブリエル(Ernest Gabriel)は、入院中の年老いた伯母に会うために、16年ぶりにロンドンへと戻ってきた。病院へ向かう途中、カムデンタウン(Camden Town)において、見覚えのあるフラットが目に入った。そこは、16年前、彼が働いていたオフィスの向かいにあるフラットにおいて、ある金曜日の夜、そこに住む Mrs. Eileen Morrisey が刺殺されたのであった。


その後、彼女の元に逢い引きに通っていた肉屋のアシスタントの少年 Denis John Speller が、犯人として警察に逮捕されるが、アーネストには、彼が犯人でないことが判っていた。

しかし、彼が事件を目撃した金曜日の夜、オフィスに残っていたことを公にはできない事情があった。そのため、Denis John Speller は有罪になり、死刑が執行された。


そして、16年が経ち、66歳で仕事を引退したアーネストは、問題のフラットに空き家の表示が架かっているのを見て、興味を覚え、不動産エージェントからそのフラットの鍵を借り出して、内覧することにした。


0 件のコメント:

コメントを投稿