大英図書館(British Library)が発行する British Library Crime Classics の一つに加えられている ジョーゼフ・ジェファーソン・ファージョン作「7人の死体」の表紙 |
ジョーゼフ・ジェファーソン・ファージョンは、1883年6月4日、ロンドンのハムステッド地区(Hampstead→2018年8月26日付ブログで紹介済)内に出生。彼は、母方の祖父に該る米国人の俳優であるジョーゼフ・ジェファーソン(Joseph Jefferson)から、名前をもらっている。彼の父親であるベンジャミン・レオポルド・ファージョン(Benjamin Leopold Farjeon:1838年ー1903年)は、ロンドンのホワイトチャペル地区(Whitechapel)出身の小説家、戯曲家、画家、ジャーナリストで、俳優でもあった。
ジョーゼフ・ジェファーソン・ファージョンは、新聞社 / 出版社に10年程勤務した後、フリーになり、1920年代から1950年代にかけて、60作を超える推理小説を発表している。
彼の作品のうち、特に有名なのは、戯曲「ナンバー17(Number 17)」(1925年)で、1932年に、英国の映画監督 / プロデューサーであるサー・アルフレッド・ジョーゼフ・ヒッチコック(Sir Alfred Joseph Hitchcock:1899年ー1980年)により、「Number Seventeen」として映画化されている。
大英図書館(British Library)が発行する British Library Crime Classics の一つに加えられている ジョーゼフ・ジェファーソン・ファージョン作「7人の死体」の裏表紙 |
ある土曜日の朝、コソ泥やスリを生業にしているテッド・ライト(Ted Lyte)は、ベンウィック(Benwick)という町の近くにあるヘイヴンフォードクリーク(Havenford Creek)界隈をうろついていた。最近、彼はついていなかったが、邸宅ヘイヴンハウス(Haven House)が、彼の目にとまった。ある窓には、シャッターが下りており、邸宅は無人か、あるいは、長期間の留守であることに間違いなかった。テッドは、コソ泥人生で初の押し込み強盗をするべく、裏窓から邸宅内へと侵入する。邸宅内に置いて、金目となる銀食器等を漁っていたテッドであったが、鍵がかかったドアを見つける。どうやら、外から見た際、シャッターが下りた窓がある部屋のようだった。ドアにささっていた鍵を開けて、その部屋の中に入ったテッドは、更なる戦利品を得るどころか、非常に恐ろしい出来事に遭遇する。
なんと、シャッターが下りた窓がある部屋の中には、7人の死体(男性:6人+女性:1人)があった。男性の死体のうち、2人は水夫のような格好をして下り、女性の死体は男性の服装をしていた。
7人の死体を見て、恐怖に襲われたテッドは、銀食器の戦利品を抱えたまま、慌てて邸宅内から外へと逃げ出した。ところが、ちょうどそこに通りかかったヨット乗りの青年トマス・ヘイゼルディーン(Thomas Hazeldean)によって捕えられるのであった。
その場に居合わせた地元の警察官からの通報を受けて、スコットランドヤードのケンダル警部(Inspector Kendall)とワード巡査部長(Sergeant Wade)が、事件現場へと派遣される。
地元警察によると、ヘイヴンハウスには、ジョン・フェナー(John Fenner)という男性が、姪のドーラ・フェナー(Dora Fenner)と2人で住んでいるとのことだったが、現在、二人の行方は不明だった。また、7人は、前夜の午後8時半から午後9時の間に死亡したようだが、彼らの死因はハッキリとしない上に、彼らの身元を示すものは何もなかった。更に、ある死体の下から「WITH APOLOGIES FROM THE SUICIDE CLUB」と大文字で書かれた紙片が見つかる。その紙片の裏側には、Particulars at address「59・16S 4・6E G」という意味不明の文字が、鉛筆で書かれていた。謎は深まるばかりだった。
食堂の壁には、白いドレスを着た11歳位の少女が描かれた絵が架けられていたが、白いドレスの上には、絵を描いた画家が予定していないものが加えられていた。少女の心臓に該る白いドレスの箇所を、銃弾が貫いていたのである。
スコットランドヤードが捜査を進めた結果、以下のことが判明する。
(1)姪のフェナー嬢が、前日の朝、ヘイヴンハウスを出て、午前9時50分発の列車で、ベンウィックからロンドンのリヴァプールストリート駅(Liverpool Street Station)へと向かった。
(2)フェナー嬢と思われる女性が、ロンドンのヴィクトリア駅(Victoria Station)において、午後4時15分過ぎに、フランスのブーローニュ(Boulogne - ドーヴァー海峡を臨むフランス北部の町)との往復の三等切符を購入。午後4時半発の列車に乗車する予定だったのではないかと推測。
(3)午後4時42分に、ヴィクトリア駅からヘイヴンハウス宛に、若い女性による電話が取り次がれたが、誰も応答しなかった。
(4)フェナー嬢は、午後4時半初の列車には乗らず、ヴィクトリア駅からリヴァプールストリート駅へと戻り、午後5時57分発の列車でベンウィックへと向かった。
(5)フェナー嬢は、午後8時16分にベンウィック駅に着くと、ヘイヴンハウスへと急いだ。
(6)フェナー嬢は、ベンウィック駅に戻って来ると、午後9時12分発の最終列車で、ロンドンへと再度向かった。
(7)フェナー嬢は、午後11時15分にロンドンに着くと、当日、リヴァプールストリート駅ホテル(Liverpool Street Station Hotel)に宿泊。
(8)翌朝、フェナー嬢は、ホテルを出ると、午前9時発のフォークストン(Folkestone)行き列車に乗車。
(9)そして、フェナー嬢は、フランスに入国。
事件の内容に興味を覚えたトマス・ヘイゼルディーンは、スコットランドヤードのケンダル警部に対して、自ら協力を申し出ると、フェナー嬢の行方を捜索するべく、自分のヨットに乗り、フランスのブーローニュへと向かうのであった。
非常に魅力的な事件で始まった「7人の死体」であったが、フランスのブーローニュにおいて、トマス・ヘイゼルディーンがフェナー嬢と出会った後、彼女が滞在しているペンションで、
(1)フェナー嬢
(2)ポーラ夫人(Madame Paula - ペンションの経営者)
(3)フェナー氏
(4)マリー(Marie - ペンションのメイド)
(5)ピエール(Pierre - ペンションの使用人)
とのやりとりが、第7章から第15章までの約70ページ以上にわたって、延々と続くものの、話が全くと言って良い程、遅々として進まない。70ページ以上と言うと、物語全体の約 1/3 に該当し、果たして、これだけのページ数を割く必要があったのか、甚だ疑問である。これだけのページ数が割かれているとは言え、スリルやサスペンス感が増す訳では、全然ないのである。もっと少ないページ数で、簡潔にした方が、遥かに良かったと思う。
また、事件の真相についても、論理的な推理で突き止められるものではない。物語の後半から、スコットランドヤードのケンダル警部による本格的な捜査が始まるが、残念ながら、探偵役としての活躍と言うところまでには至っていない。
ケンダル警部が、事件の跡を追って、ペンションまで辿り着き、捕らわれていたトマス・ヘイゼルディーンとフェナー嬢の二人を救出するところまでが、物語の醍醐味のようで、事件の真相は、残り30ページ弱で、やや唐突に示される。
言い方はあまり良くないが、ケンダル警部と民間人であるトマス・ヘイゼルディーンの二人による事件捜査が、うまくシンクロしておらず、物語の展開がバラバラに見えて、あまり印象が良くない。
本作者の場合、ケンダル警部シリーズにおいて、このような展開が、前回の13人の招待客(Thirteen Guests)」(1936年)を含めて、見受けられるが、正直ベース、どれもあまりうまくいっていない感じがする。
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