Faber and Faber Limited から出版されている P・D・ジェイムズ作「女の顔を覆え」の表紙 (Cover design by Faber and Faber Limited / Cover illustration by Ms. Angela Harding) |
フィリス・ドロシー・ジェイムズ(Phyllis Dorothy James:1920年ー2014年)は、英国の女流推理作家で、一般に、「P・D・ジェイムズ(P. D. James)」と呼ばれている。
彼女は、1920年にオックスフォード(Oxford)に出生した後、ケンブリッジ女子高校(Cambridge High School for Girls)を卒業し、1949年から1968年まで国民保健サービス(National Health Service : NHS)に勤務。その後、内務省(Home Office)において、Police Department や Criminal Policy Department 等で働き、それらの経験が、彼女の小説に生かされている。
彼女は、それまでの功績が評価され、1991年に一代貴族として、「ホーランドパークのジェイムズ女男爵(Baroness James of Holland Park)」に叙された。
「女の顔を覆え(Cover Her Face)」は、1962年に発表されたP・D・ジェイムズの処女作で、アダム・ダリグリッシュ(Adam Dalgliesh)シリーズの第1作である。
アダム・ダリグリッシュは、初登場時、スコットランドヤードの主任警部(Chief Inspector)であるが、シリーズが進むと、警視(Superintendent)へと昇進する。
Faber and Faber Limited から出版されている P・D・ジェイムズ作「女の顔を覆え」の裏表紙 (Cover design by Ms. Angela Harding) |
古き良き田舎の屋敷マーティンゲール邸(Martingale manor house)には、サイモン・マクシー(Simon Maxie)を家長とするマクシー家が住んでいた。サイモンには、妻のエレノア(Eleanor)、長男のスティーヴン(Stephen)と長女のデボラ(Deborah)が居たが、病気のため、寝たきりの状態が長く、エレノアやメイドのマーサ(Martha Bultitaft)の看護を受けていた。
マクシー家が住むマーティンゲール邸に、未婚の母で、幼子を抱えた若くて美しいサリー・ジェップ(Sally Jupp 本名:Sarah Lillian Jupp)が、新米のメイドとして派遣されてくる。
7月のある午後、マーティンゲール邸において、マクシー家が園遊会を開催。園遊会が終わったその夜、残った人達を前にして、サリーが、「(マクシー家の跡取り息子で、ロンドンの病院で外科医(surgeon)として働いている)スティーヴンからプロポーズを受けた。」と突然発表して、多くの者の反感を買ってしまう。婚約にまでは至っていなかったものの、スティーヴンと交際していたキャサリン(Catherine Bowers)も、サリーによる突然の発表に、衝撃を受けるのであった。
その翌朝、いつまで経っても起きてこないサリーのことを不審に思ったマクシー家の人達がサリーの部屋をノックするが、彼女の赤ん坊の声は聞こえるものの、サリーからの返事が全くなく、ドアには鍵がかかっていた。スティーヴンと、そして、デボラとの結婚を考えている出版社の経営者であるフェリックス(Felix Georges Mortimer Hearne)の二人が、梯子を使って、建物の外から、窓経由、サリーの部屋へと入ると、サリーは、ベッドの上で何者かに絞殺されていた。彼女のベッドの傍らには、ココアの残りが入ったカップがあり、彼女が前夜飲んだココアには、睡眠薬が入っていたことが、後になって判明する。
前夜、サリーが突然行った発表が、事件の引き金となったのか?
マーティンゲール邸に、スコットランドヤードのアダム・ダリグリッシュ主任警部とマーティン部長刑事(Sergeant Martin)が派遣される。
現場に到着次第、捜査を開始したダリグリッシュ主任警部は、絞殺されたサリーの生い立ちや彼女が今まで秘密にしてきたこと等を突き止めると、事件の裏側に潜む醜悪な人間関係が見えてくるのであった。
本作品は、P・D・ジェイムズの処女作ということもあり、ページ数 / 分量は300ページ弱と、弁当箱のように分厚い後の作品と比べると、割合とコンパクトである。
アダム・ダリグリッシュ主任警部が登場するのは、約60ページが過ぎた辺りからで、そこからダリグリッシュ主任警部による捜査がメインで進むかと言うと、必ずしもそうではなく、サリーの生い立ちや彼女が今まで秘密にしてきたこと等が判ってくるにつれて、マーティンゲール邸に住むマクシー家の人々およびその関係者達の人間関係が少しずつ明確になる場面等が並行して描かれていて、ダリグリッシュ主任警部が主人公として活躍すると言う体裁にはなっていない。どちらかと言うと、サリーが何者かに絞殺された事件を契機として明らかになるマクシー家の人々とその関係者達のドラマを描くことが、作者であるP・D・ジェイムズの主たる意図で、ダリグリッシュ主任警部は、そのドラマを進めていくための駒だったのではないかと思われる。
本作品の冒頭、メイドのサリーが、彼女が働くマクシー家の長男であるスティーヴンから、プロポーズを受けた前提から、物語が既に始まっているが、その後の展開の中で、スティーヴンの言動から受ける印象から言うと、何故、また、どういった経緯で、彼がサリーにプロポーズすることに至ったのか、その辺りのことが全く見えず、物語の設定上、やや唐突な感じが否めない。たとえ、推理小説であっても、人物設定をもう少しキチンとした上で、物語を初めてもらわないと、読んでいる間中、ずーっと違和感が続いて、仕方がない。
物語のラスト、事件解決後に、ダリグリッシュ主任警部が、マーティンゲール邸を訪れて、デボラに再会する場面が出てくる。ダリグリッシュ主任警部とデボラの間に、今後の展開を匂わせる雰囲気を残したまま、物語は終わりを迎えるが、物語の中で、両者の間に、今後の展開を予想させるような場面や会話等はなく、これに関しても、唐突な感じを否めない。
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