堤豊秋の未発表原稿の余白に書き込まれた 足が生えた魚の絵と 「星が月になる?」という奇妙なメッセージ |
話を進めるライターくずれの何でも屋で、自称よろずジャーナリストの飯田才蔵(いいだ さいぞう)は、法月綸太郎に対して、堤豊秋(つつみ とよあき)の未発表原稿コピーの最後のページに示された参考文献リストの余白にある書き込みを見せる。その余白には、足が生えた魚の絵と「星が月になる?」という奇妙な書き込みがあった。これらの書き込みに興味を覚えた法月綸太郎は、飯田才蔵から堤豊秋の未発表原稿コピーを一旦預かると、中野坂下のファミレスを後にした。
何の進展もないまま、1ヶ月が過ぎた頃、法月綸太郎は、九段社(出版社)の阿久津宣子(あくつ のぶこ)から、ヤングアダルトのファンタジーを訳している翻訳家の浅山志帆(あさやま しほ)監修の下、最近新訳が相次いで、再評価の気運が高まっている「G・K・チェスタトン」のムック本への原稿執筆を依頼された。阿久津宣子によると、法月綸太郎を指名したのは、浅山志帆自身とのこと。以前、九段社の月刊誌「小説アレフ」の座談会において、誤った発言をしてしまい、別の雑誌のコラムで、浅山志帆から事実誤認の指摘を受けて、真っ青になった法月綸太郎は、浅山志帆から名誉挽回の機会を与えられたと考え、阿久津宣子からの依頼を快諾する。
そして、ムック本「逆説の達人 チェスタトンの名言」への原稿を執筆するために、G・K・チェスタトン作短編集「詩人と狂人たちーガブリエル・ゲイルの生涯の逸話」(1929年)の第3話「鱶(ふか)の影」を読み始めた法月綸太郎は、驚きを禁じ得なかった。「鱶の影」は、サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作シャーロック・ホームズシリーズのうち、短編の「白面の兵士(The Blanched Soldier)」と「ライオンのたてがみ(The Lion’s Mane)」の両作品との類似点が多いと言うよりも、両作品を継ぎ足したような物語になっていたのである。
念の為、法月綸太郎がウェブのデータベースにアクセスして、書誌データを確認してみると、予想に反する事実が判明した。G・K・チェスタトンが「鱶の影」を発表したのは、「ナッシュ誌」の1921年12月号である一方、コナン・ドイルが「白面の兵士」と「ライオンのたてがみ」を発表したのは、「ストランド誌」の1926年11月号と同年12月号であり、G・K・チェスタトンの作品の方が、コナン・ドイルの作品より5年も早かったのである。
類似点が多いG・K・チェスタトン作「鱶の影」とコナン・ドイル作「白面の兵士」/「ライオンのたてがみ」の背景には、一体何があったのだろうか?
法月綸太郎は、シャーロック・ホームズシリーズの中でも異色の2作品である「白面の兵士」と「ライオンのたてがみ」が持つ謎に、ブラウン神父シリーズの作者であるG・K・チェスタトンと「脱出王」と呼ばれた米国の奇術師で、当時最強のサイキックハンターと目されたハリー・フーディーニが関与していたのではないか、と推理するのであった。
果たして、その内容とは?
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