2018年11月24日土曜日

ジョン・ディクスン・カー作「盲目の理髪師」(The Blind Barber by John Dickson Carr)–その2

サヴォイプレイス(Savoy Place)から見上げた
アデルフィテラス(Adelphi Terrace)–
「盲目の理髪師」事件当時、ギディオン・フェル博士が住んでいた場所

ヘンリー・モーガン(Henry Morgan)、カーティス・G・ウォーレン(Cartis G. Warren)、トマッセン・ヴァルヴィック(Captain Thomassen Valvick)とペギー・グレン(Peggy Glenn)の4人は、何者かに奪い去られたフィルムを取り戻すために、残りのフィルムを囮にして、幸いに空室だった隣りの船室で犯人の再来を待ち受けることにした。
4人が待つこと数時間後、外のCデッキに通じるドア(水密扉)が押し開けられた。カーティス・G・ウォーレンの名を呼ぶ女性の声を聞いて、ヘンリー・モーガンが船室のドアを開け、トマッセン・ヴァルヴィックと一緒に船室の外へ出てみると、水密扉のところに、瀕死の女性が倒れていた。彼女の頭蓋骨は陥没しているようで、血がすーっとゴム材の床に細く流れた。

4人が瀕死の女性を隣りの船室内へ運び込んで介抱している隙に、何者かがカーティス・G・ウォーレンの船室のドアの掛け金を外して、内へと侵入したのである。
カーティス・G・ウォーレンの船室から出て来た何者かは、水密扉を開けて、外のCデッキへと出たようだ。4人は瀕死の女性を船室内に残したまま、外のCデッキへと出たと思われる何者かの跡を追跡した。そして、カーティス・G・ウォーレンが外のCデッキに居た男を捕まえて、ノックアウトしたが、驚いたことに、その男は船長のヘクター・ホイッスラーであった。奪われたフィルムを取り戻そうとして、4人がへスター・ホイッスラー船長の身体を調べると、エメラルドの像のペンダントが出てきた。
後で判ったことであるが、宝石を付け狙う正体不明の犯罪者が外洋航路線クイーンヴィクトリア号(ocean liner Queen Victoria)に乗船しているという情報を受けたため、盗難防止の観点から、ヘクター・ホイッスラー船長が持ち主のスタートン子爵から預かっていたのである。どうやら、4人は間違った人物を捕まえてしまったようである。それを知った彼らはパニックに陥り、運が悪いことに、慌てたペギー・グレンがそのペンダントを手近の船室の中へ放り込んでしまった。

そんなドタバタ騒ぎの後、4人がカーティス・G・ウォーレンの隣りの船室へと戻ると、そこに居た筈の瀕死の女性の姿が、どこにもなかったのである。そして、彼女が横たわっていたベッドの下には、「盲目の理髪師(Blind Barber)」の装飾が柄に施された血まみれの剃刀が残されていた。

2つの盗難事件(フィルム+エメラルドの像のペンダント)と突然姿を消した瀕死の女性の謎が、クイーンヴィクトリア号の船上で錯綜する。これらは、血のついた剃刀を残した「盲目の理髪師」の仕業なのだろうか?
サウサンプトン(Southampton)に入港したクイーンヴィクトリア号からいち早く下船したヘンリー・モーガンは、「剣の八(The Eight of Swords)」事件(1934年)で知り合ったギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)に助けを求めるべく、彼が住むロンドンへと向かったのである。
そして、ヘンリー・モーガンの話を聞いたギディオン・フェル博士は、安楽椅子探偵役を務める。

明智小五郎シリーズ等で有名な日本の推理作家である江戸川乱歩(1894年ー1965年)は、1950年に「別冊宝石」で発表した「カー問答」において、ジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr) / カーター・ディクスン(Carter Dickson)の作品を、最も面白い第1位グループから最もつまらない第4位グループまでの評価分けを行っている。「盲目の理髪師」について、江戸川乱歩は第3位グループ(カーの作品としては中流で、とびっきりの不可能性とサスペンスはあるものの、それに比べて、解決が何となく呆気ないという不備がある)に評価分けされた10作品のうちの10番目に挙げている。ただ、数あるカー作品のうち、最も笑劇(ファルス)味が濃い作品と評されている。

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