1909年当時、通商大臣だったウィンストン・チャーチルが新婚時代に住んでいた物件が ロンドンの中心部シティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)の ピムリコ地区(Pimlico)内に所在している |
アガサ・クリスティー作「複数の時計(The Clocks)」(1963年)は、エルキュール・ポワロシリーズの長編で、今回、ポワロは殺人事件の現場へは赴かず、また、殺人事件の容疑者や証人への尋問も直接は行わないで、ロンドンにある自分のフラットに居ながらにして(=完全な安楽椅子探偵として)、事件の謎を解決するのである。
ウィンストン・チャーチルは、 彼の新婚時代(1909年ー1913年)に この物件に住んでいた |
TV版のポワロシリーズ「複数の時計」(2011年)が時代設定を置いている第二次世界大戦(1939年ー1945年)勃発前の1937年5月、ジョーゼフ・チェンバレン(Joseph Chamberlain:1836年ー1914年)の子供であるアーサー・ネヴィル・チェンバレン(Arthur Neville Chamberlain:1869年ー1940年→2017年7月16日付ブログで紹介済)が保守党の党首に就任して、チェンバレン内閣(1937年ー1940年)を組閣するものの、ウィンストン・チャーチルは「閣議の和を乱す危険分子」と見做され、入閣の道は開かれなかった。
この頃、英国やフランス等が、軍事増強と領土の拡大を推し進めるドイツやイタリア等との間で、政治的な緊張を増していた時期で、独自のルートを通じ、ウィンストン・チャーチルは情報を得て、ドイツの領土的野心への警戒を強めていた。
ヒトラー総統が率いるドイツは、ドイツ系住民が多数を占める地域の割譲を要求し始めており、1938年3月、ドイツ民族国家のオーストリアを併合。ドイツやイタリアに宥和政策を行う首相のアーサー・ネヴィル・チェンバレンは許容範囲内と見做したが、ウィンストン・チャーチルはこれを良しとせず、ヒトラーによるオーストリア併合を批判する演説を展開。
更に、ヒトラーは、同じくドイツ系住民が多数を占めていたチェコスロヴァキアのズデーデン地方の割譲を要求。首相のネヴィル・チェンバレンはドイツのバイエルン州にあるヒトラーの別荘へ直接赴いて、彼を説得しようとしたが、逆に説き伏せられてしまい、結局、英国、フランス、ドイツおよびイタリアによるミュンヘン協定(1938年9月29日)に基づき、「これ以上の領土要求を行わない。」という約束をヒトラーと交わす代償として、ズデーデン地方をドイツに帰属させることを全面的に認めてしまった。これに反対するウィンストン・チャーチルとチャーチル派の議員は、抗議の意思を明確にするため、ミュンヘン協定の批准会議を欠席した。
ネヴィル・チェンバレンの宥和政策にもかかわらず、チェコスロヴァキアの内紛に伴い、チェコとスロヴァキアに分離した状況につけ込んで、1939年3月にドイツはチェコを併合。ここまで事態が至って、やっと政界や世論にも、ネヴィル・チェンバレンによる宥和政策は失敗だったという認識が強まった。
ウィンストン・チャーチルが 新婚時代に住んでいた物件は、 ピムリコ地区の高級住宅エリア内にある |
1939年8月23日にソビエト連邦との間に独ソ不可侵条約を締結したドイツは、間髪をおかず、同年9月1日、ポーランドへの侵攻を開始。内閣閣僚から対独開戦を強く要求された首相のネヴィル・チェンバレンもこれ以上抗しきれず、その2日後の9月3日、ドイツに宣戦を布告し、これにフランスも呼応することになり、ここに第二次世界大戦が勃発した。
「閣議の和を乱す危険分子」のウィンストン・チャーチルではあったが、対独強硬派である彼をこれ以上無視することができなくなった首相のネヴィル・チェンバレンは彼を海軍大臣に任じ、同年9月、ウィンストン・チャーチルは海軍大臣執務室に復帰した。
ウィンストン・チャーチルは海軍大臣として大戦を指導するが、状況は一進一退で、1940年4月、英国はドイツ軍のノルウェー作戦阻止に失敗して惨敗するが、この惨敗の責任は首相のネヴィル・チェンバレンに帰せられた。そして、同年5月10日、ドイツ軍がベネルクス3国(オランダ、ベルギーとルクセンブルク)へと侵攻の矛先を転じると、ネヴィル・チェンバレンは責任をとって首相を辞任して、後任には主戦派であるウィンストン・チャーチルが保守党や労働党等を含む挙国一致内閣を組閣して、その後の大戦を指導することになった。
ウィンストン・チャーチルが新婚時代に住んでいた物件は、 エクルストンスクエア(Eccleston Square)に面している |
ここまでが、TV版のポワロシリーズ「複数の時計」における時代設定の状況と第二次世界大戦へと至る経緯を、アーサー・ネヴィル・チェンバレンとウィンストン・チャーチルを中心にして纏めたものである。
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