ロンドンの Metro Media Ltd. から Self Made Hero シリーズの一つとして出版されているグラフィックノベルの シャーロック・ホームズシリーズ「四つの署名」の表紙 |
サー・アーサー・イグナチウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作「四つの署名(The Sign of the Four)」(1890年)は、シャーロック・ホームズの長編小説の一つで、第1作の「緋色の研究(A Study in Scarlet)」(1887年)に続く第2作に該る。
ロンドンの Metro Media Ltd. から Self Made Hero シリーズの一つとして出版されているグラフィックノベルの シャーロック・ホームズシリーズ「四つの署名」の裏表紙 |
1889年8月30日、ロンドン市内のオックスフォードサーカス(Oxford Circus→2015年4月26日付ブログで紹介済)の近くに建つランガムホテル(Langham Hotel→2014年7月6日付ブログで紹介済)において、以下のアイリッシュ系の男性3人が食事会を行った。
(1)米国のフィラデルフィアに本社を構える「リピンコット・マンスリー・マガジン(Lippincott’s Monthly Magazine)」のエージェントであるジョーゼフ・マーシャル・ストッダート博士(Dr. Joseph Marshall Stoddart→アイルランド生まれの米国人)
(2)新進気鋭の若い作家として売り出し中のオスカー・フィンガル・オフラハティ・ウィルス・ワイルド(Oscar Fingal O’Flahertie Wills Wilde:1854年ー1900年→ダブリンの名門に生まれた生粋のアイルランド人)
(3)サー・アーサー・イグナチウス・コナン・ドイル(→アイルランドの血をひくスコットランド人)
ナショナルポートレートギャラリー (National Portrait Gallery)で販売されている オスカー・ワイルドの写真の葉書 (Napoleon Sarony / 1882年 / Albumen panel card 305 mm x 184 mm) |
この食事会で、ストッダート博士は、オスカー・ワイルドとコナン・ドイルの2人から、それぞれ長編物を一作同誌に寄稿する約束を取り付けた。
コナン・ドイルは早速執筆に取り掛かり、約1ヶ月間で原稿を書き上げて、それをストッダート博士宛に送付。その作品のタイトルが「四つの署名」である。事件の依頼人であるメアリー・モースタン嬢(Mary Morstan)の父親で、約10年前の1878年12月、インドから帰国した後、行方不明になったアーサー・モースタン大尉(Captain Arthur Morstan)の宿泊先として、コナン・ドイル達が食事会を行なったランガムホテルが使用された。
本グラフィックノベルの構成は、Mr. Ian Edginton |
「四つの署名」は、「リピンコット・マンスリー・マガジン」の1890年2月号に掲載されたが、続いて、同誌の1890年7月号に掲載されたオスカー・ワイルドの作品は、あの有名な「ドリアン・グレイの肖像(The Picture of Dorian Gray)」であった。
なお、コナン・ドイルの原稿料は、4万5千語の作品で100ポンドだったが、当時、英国の世紀末文学の旗手として期待されていたオスカー・ワイルドの原稿料は、コナン・ドイルの倍の200ポンドだった、とのこと。コナン・ドイルが「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1891年7月号にホームズシリーズの短編小説「ボヘミアの醜聞(A Scandal in Bohemia)」を発表して爆発的な人気を得る前のことであり、残念ながら、売れっ子のオスカー・ワイルドとは、それ位の開きがあったのである。
本グラフィックノベルの作画は、Mr. I. N. J. Culbard |
コナン・ドイルは、当初、作品の題名として「四つの署名」と「ショルト家の問題」という2つの候補を考えていて、「リピンコット・マンスリー・マガジン」のストッダート博士に最終判断を委ねた。同誌の1890年2月号に掲載された際には、2つの候補を使用した「四つの署名、あるいは、ショルト家の問題(The Sign of the Four, or, The Problem of the Sholtos)」という題名が採用された。
その後、1890年10月に英国のスペンサー・ブラケット社(Spencer Blackett)から「四つの署名」が出版された際には、「The Sign of the Four」から「Four」の前の冠詞「the」が省かれた「The Sign of Four」が作品の題名として使用され、以降、主要な出版社はそれに倣っている。
日本語版の題名は、新潮社が最初に出版した日本語訳版の「四つの署名」が一般に定着しているが、原題に即したタイトルとして、河出書房新社では「四つのサイン」を、また、東京創元社では「四人の署名」という題名を採用している。
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