2017年7月2日日曜日

ロンドン 地下鉄ヴィクトリア駅(Victoria Tube Station)

地下鉄ヴィクトリア駅ー
サークルライン / ディストリクトライン用プラットフォーム

アガサ・クリスティー作「複数の時計(The Clocks)」(1963年)は、エルキュール・ポワロシリーズの長編で、今回、ポワロは殺人事件の現場へは赴かず、また、殺人事件の容疑者や証人への尋問も直接は行わないで、ロンドンにある自分のフラットに居ながらにして(=完全な安楽椅子探偵として)、事件の謎を解決するのである。

サークルライン / ディストリクトライン用プラットフォームの壁

キャサリン・マーティンデール(Miss Katherine Martindale)が所長を勤めるキャヴェンディッシュ秘書紹介所(Cavendish Secretarial Bureau)から派遣された速記タイピストのシーラ・ウェッブ(Sheila Webb)は、ウィルブラームクレッセント通り19番地(19 Wilbraham Crescent)へと急いでいた。シーラ・ウェッブが電話で指示された部屋(居間)へ入ると、彼女はそこで身なりの立派な男性の死体を発見する。男性の死体の周囲には、6つの時計が置かれており、そのうちの4つが何故か午後4時13分を指していた。鳩時計が午後3時を告げた時、ウィルブラームクレッセント19番地の住人で、目の不自由な女教師ミリセント・ペブマーシュ(Miss Millicent Pebmarsh)が帰宅する。自宅内の異変を感じたミリセント・ペブマーシュが男性の死体へと近づこうとした際、シーラ・ウェッブは悲鳴を上げながら、表へと飛び出した。そして、彼女は、ちょうどそこに通りかかった青年コリン・ラム(Colin Lamb)の腕の中に飛び込むことになった。
実は、コリン・ラム青年は、警察の公安部員(Special Branch agent)で、何者かに殺された同僚のポケット内にあったメモ用紙に書かれていた「M」という文字、「61」という数字、そして、「三日月」の絵から、ウィルブラームクレッセント19番地が何か関係して入るものと考え、付近を調査していたのである。「M」を逆さまにすると、「W」になり、「ウィルブラーム」の頭文字になる。「三日月」は「クレッセント」であり、「61」を逆さまにすると、「19」となる。3つを繋げると、「ウィルブラームクレッセント通り19番地」を意味する。

地下鉄ヴィクトリア駅内のエスカレーター

クローディン警察署のディック・ハードキャッスル警部(Inspector Dick Hardcastle)が本事件を担当することになった。
シーラ・ウェッブは、ミリセント・ペブマーシュの家へ今までに一度も行ったことがないと言う。また、ミリセント・ペブマーシュは、キャヴェンディッシュ秘書紹介所に対して、シーラ・ウェッブを名指しで仕事を依頼する電話をかけた覚えはないと答える。更に、シーラ・ウェッブとミリセント・ペブマーシュの二人は、ウィルブラームクレッセント通り19番地の居間で死体となって発見された男性について、全く覚えがないと証言するのであった。
ミリセント・ペブマーシュの居間においてキッチンナイフで刺されて見つかった身元不明の死体は「R.・H・カリイ(R. H. Curry)」とされたが、スコットランドヤードの捜査の結果、全くの偽名であることが判明し、身元不明へと逆戻りする。彼が目の不自由な老婦人の居間で刺殺される理由について、スコットランドヤードも、そして、コリン・ラムも、皆目見当がつかなかった。途方に暮れたコリン・ラムは、ポワロに助けを求める。年若き友人からの頼みを受けて、ポワロの灰色の脳細胞が事件の真相を解き明かす。

地下鉄ヴィクトリア駅内の壁モザイク装飾

英国のTV会社 ITV1 で放映されたポワロシリーズ「Agatha Christie’s Poirot」の「複数の時計」(2011年)では、アガサ・クリスティーの原作が第二次世界大戦(1939年ー1945年)後の米ソ冷戦状態を物語の時代背景としたことに対して、他のシリーズ作品と同様に、第一次世界大戦(1914年ー1918年)と第二次世界大戦の間に物語の時代設定を置いている関係上、第二次世界大戦前夜を時代背景として、英国の仮想敵国を原作のソビエト連邦からアドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツへと変更している。また、物語の舞台も、サセックス州(Sussex)のクロウディーン(Crowdean)からケント州(Kent)のドーヴァー(Dover)へと変更されている。更に、コリン・ラムの名前は、コリン・レイス大尉(Liteunant Colin Race)となり、警察の公安部員ではなく、MI6 の秘密情報部員(intelligence officer)という設定に変えられている。

地下鉄ヴィクトリア駅ー
ヴィクトリアライン用プラットフォーム

TV版では、目の不自由な老婦人のミリセント・ペブマーシュが住むウィルブラームクレッセント19番地の居間において死体で見つかった身元不明の男性は、当初、保険会社(Metroploitan and Provincial Insurance Company)に勤務する R・H・カリイ氏と思われたが、後に偽名と判明。暫くして、15年前に行方が判らなくなった夫ハリー・キャッスルトン(Henry Castleton)だと、マリーナ・ライヴァル(Merina Rival)が警察へ名乗り出た。マリーナ・ライヴァルが言う通り、男性の左耳の後ろに傷跡はあったが、彼女の説明とは異なり、15年以上前のものではなく、数年前のものとの検死結果が出る。彼女の証言に疑問を感じたハードキャッスル警部とジェンキンス巡査(Constable Jenkinsーアガサ・クリスティーの原作では、クレイ巡査部長(Sergeant Cray))の二人が彼女の行方を追うが、彼女は刺殺死体となって発見されるのであった。

ヴィクトリアライン用プラットフォームの壁

TV版の場合、マリーナ・ライヴァルが何者かに刺殺される場所は、物語の設定上、英国の南東部にあるドーヴァーとなっている。一方、アガサ・クリスティーの原作では、マリーナ・ライヴァルは地下鉄ヴィクトリア駅(Victoria Tube Station)で殺害されるストーリー展開となっている。

ヴィクトリアライン用プラットフォームへと向かう構内通路

地下鉄ヴィクトリア駅は、ロンドンの中心部シティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)のベルグラヴィア地区(Belgravia)内に所在している。

・1868年ー現在のディストリクトライン(District Line)が開業
・1872年ー現在のハマースミス&シティーライン(Hammersmith & City Line)が開業
・1949年ー現在のサークルライン(Circle Line)が開業
・1969年ー現在のヴィクトリアライン(Victoria Line)が開業(ただし、この時点では、地下鉄ヴィクトリア駅は終点であった)
・1971年ーヴィクトリアラインが地下鉄ブリクストン駅(Brixton Tube Station)まで南延

地下鉄ヴィクトリア駅内で
2018年完成に向けて、大改修工事が進められている

地下鉄ヴィクトリア駅は、ロンドンの地下鉄ネットワーク内において、現在、(1)地下鉄ウォータールー駅(Waterloo Tube Station)、(2)地下鉄オックスフォードサーカス駅(Oxford Circus Tube Station)、そして、(3)地下鉄キングスクロス / セントパンクラス駅(King’s Cross / St. Pancras Tube Station)に次いで、4番目に利用客が多い駅となっており、朝の通勤時や夕方の帰宅時に駅構内は大混雑に陥るため、駅の入口を封鎖の上、一時的に出口のみを開放して、大混雑を緩和する方策を行なっている。ただ、そういった措置も暫定的な対応であって、根本的な対応が求められており、現在、2018年の完成に向けて、駅の大改修工事が進行中で、駅の出入口を増やしたり、駅構内を拡げたり等が予定されている。

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