2017年7月15日土曜日

ロンドン ブリクストンロード117番地(117 Brixton Road)

オークショット夫人の飼育場があったブリクストンロード117番地を含むフラット群(その1)

サー・アーサー・コナン・ドイル作「青いガーネット(The Blue Carbuncle)」では、クリスマスの早朝、宴席から帰る途中の退役軍人ピータースン(Peterson)が、トッテナムコートロード(Tottenham Court Road)とグッジストリート(Goodge Streetー2014年12月27日付ブログで紹介済)の角で発生した喧嘩の現場に残された帽子とガチョウを、ベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元に届けて来た。ホームズに言われて、ピータースンは拾ったガチョウを持って帰ったが、その餌袋の中から、ホテルコスモポリタン(Hotel Cosmopolitan)に滞在していたモーカー伯爵夫人(Countess of Morcar)の元から12月22日に盗まれて、懸賞金がかかっている「青いガーネット」が出てきたのだ。


ホームズは早速新聞に広告を載せて、ガチョウの落とし主を探したところ、ヘンリー・ベイカー氏(Mr Henry Baker)が名乗り出て来た。ベーカー氏によると、大英博物館(British Museum)の近くにあるパブ「アルファイン(Alpha Innー2015年12月19日付ブログで紹介済)」の主人ウィンディゲート(Windigate)がガチョウクラブを始め、毎週数ペンスずつ積み立てていくと、各人クリスマスにガチョウを一羽ずつ受け取れる仕組みだと言う。

ブリクストンロード117番地の前のブリクストンロード(その1)

ジョン・ワトスンを連れて、アルファインに赴いたホームズは、そこで主人のウィンディゲートから、「問題のガチョウは、コヴェントガーデンマーケット(Covent Garden Marketー2016年1月9日付ブログで紹介済)にあるブレッキンリッジ(Breckinridge)の店から仕入れた」ことを聞きつける。
そこで、二人はブレッキンリッジの店へと向かった。

ブリクストンロード117番地の前のブリクストンロード(その2)

ブレッキンリッジの店に着いたホームズは、店仕舞いをしていた経営者から訝るような視線を受けながらも、「パブのアルファインに卸したガチョウをどこから仕入れたのか?」と尋ねた。卸問屋の経営者はホームズに帳簿を見せる。

オークショット夫人の飼育場があった
ブリクストンロード117番地を含むフラット群(その2)

「それが、俺が誰からガチョウを仕入れたのかを示す一覧だ。分かるか?それじゃ、このページに載っているのが、田舎の連中で、名前の後ろに書いてある数字が、大きな元帳の勘定だ。次に、赤インクで書かれているこの別ページを見ろ。それが、市内の供給者の一覧だ。3番目の名前を見な。ちょっと俺に読んでみてくれ。」
「オークショット夫人、ブリクストンロード117番地ー249」と、ホームズは読み上げた。
「その通り。それじゃ、その元帳を見てみな。」
ホームズは、卸問屋の経営者に指示された通り、ページをめくった。「これだ。『オークショット夫人、ブリクストンロード117番地、卵と鳥の供給者』と書いてある。」
「それじゃ、最後の記録はどうなっているかい?」
「『12月22日に、24羽のガチョウを7シリング6ペンスで購入』と記入されている。」
「その通り。そこだ。その下には、何と書いてあるかい?」
「『アルファインのウィンディゲート氏に12シリングで販売』となっている。」
「お前さん、何か言いたいことがあるかい?」
ホームズは非常に悔しそうな顔をした。彼はポケットからソヴリン金貨を1枚取り出すと、それを大理石の台の上に放り投げて、口もききたくない程、腹立たしい様子でその場を立ち去った。数ヤード離れて、ホームズは街灯の下に立ち止まると、彼独特の心底おかしいという様子で、声を殺して笑ったのである。

ブリクストンロードを横切る鉄道高架にある落書き

‘That’s the list of the folk from whom I buy. D’you see? Well, then, here on this page are the country folk, and the numbers after their names are where their accounts are in the big ledger. Now, then! You see this other page in red ink? Well, that is a list of my town suppliers. Now, look at that third name. Just read it out to me.’
‘Mrs Oakshott, 117 Brixton Road - 249,’ read Holmes.
‘Quite so. Now turn that up in the ledger.’
Holmes turned to the page indicated. ‘Here you are, “Mrs Oakshott, 117 Brixton Road, egg and poultry supplier”.’
‘Now, then, what’s the last entry?’
‘“December 22nd, Twenty-four geese at 7s. 6d.”’
‘Quite so. There you are. And underneath?’
‘“Sold to Mr Windigate of the Alpha, at 12s.”’
‘What have you to say now?’
Sherlock Holmes looked deeply chagrined. He drew a sovereign from his pocket and threw it down upon the slab, turning away with the air of a man whose disgust is too deep for words. A few yards off he stopped under a lamp-post and laughed in the hearty, noiseless fashion which was peculiar to him.

地下鉄ブリクストン駅の入口

ブレッキンリッジの経営者が問題のガチョウを仕入れたオークショット夫人の飼育場があるブリクストンロード117番地(117 Brixton Road)は、テムズ河(River Thames)の南岸にあり、ロンドン・ランベス区(London Borough of Lambeth)に属している。
ブリクストンロードは南北に走る大通りで、北側はケニントンパーク(Kennington Park)から始まり、南側は地下鉄ブリクストン駅(Brixton Tube Station)で終わり、そこからブリクストンヒル通り(Brixton Hill)へと名前が変わる。ブリクストンロードの存在はローマ時代まで遡り、当時よりロンドンから英国南部海岸に面する保養地ブライトン(Brighton)へと至る行程の一部を成していた、とのこと。

なお、オークショット夫人の飼育場があるブリクストンロード117番地は、現在、普通の住居が建っていて、残念ながら、飼育場があった形跡はない。

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