2017年1月8日日曜日

ロンドン イングルバートストリート(Inglebert Street)

ポワロとヘイスティングス大尉が偶然見かけた結婚式が行われていた教会として、
ミデルトンスクエア内のセントマーク教会が撮影に使用されている

アガサ・クリスティー作「二重の手がかり(The Double Clue)」は、短編集「ポワロ初期の事件(Poirot's Early Cases)」(1974年)に収録されている作品である。


ある日、エルキュール・ポワロは、宝石コレクターとして非常に有名なマルカス・ハードマン(Marcus Hardman)から事件の調査依頼を受ける。マルカス・ハードマンは自宅でお茶会(ティーパーティー)を開催したが、その後、金庫がこじ開けられ、中に保管してあった宝石が盗まれていることを発見したのである。マルカス・ハードマンが開催したお茶会には、以下の4人が招待されていた。

(1)ジョンストン氏(Mr Johnston)ー南アフリカの実業家
(2)ヴェラ・ロサコフ伯爵夫人(Countess Vera Rossakoff)ーロシアからの亡命貴族
(3)バーナード・パーカー(Bernard Parker)ーマルカス・ハードマンの仕事のパートナー
(4)レディー・ランコーン(Lady Runcorn)ー中年の社交家

イングルバートストリート(北側)を
東側から西側へ向かって眺めたところ

マルカス・ハードマンの依頼に応じて、宝石が盗まれた現場をポワロが調べた結果、金庫を開けるのに使用されたと思われる男性用手袋と「BP」というイニシャルが刻まれたシガレットケースが残されているのを発見する。シガレットケースに刻まれたイニシャル「BP」とは、バーナード・パーカーのことを指しているのだろうか?

イングルバートストリート(南側)を
東側から西側へ向かって眺めたところ

ポワロの訪問を受けたバーナード・パーカーは、手袋が自分の物であることを認めるが、シガレットケースについては、自分の物ではないと強く否定する。
その後、ロサコフ伯爵夫人の訪問を受けたポワロが、その日の夜、ロシア語文法に関する本を読みふける姿をアーサー・ヘイスティングス大尉は見かける。その翌日、マルカス・ハードマン宅を訪れたポワロは、「宝石を盗んだ犯人が判明しました。」と告げる。マルカス・ハードマンの自宅金庫から宝石を盗んだ真犯人は、お茶会の招待客4人のうち、一体、誰なのか?

セントマーク教会の正面全景

英国の TV 会社 ITV1 で放映されたポワロシリーズ「Agatha Christie's Poirot」の「二重の手がかり」(1991年)の回において、物語の冒頭、アーサー・ヘイスティングス大尉が運転する車に乗って、フラットへの帰宅途上にあったポワロは、赤信号で一時停止した際に、ある教会の入口で行われていた結婚式を偶然見かける。この場面は、イングルバートストリート(Inglebert Street)とミデルトンスクエア(Myddelton Square)内に建つセントマーク教会(St. Mark's Church)前で撮影されている。

結婚式が行われていた教会入口

イングルバートストリートは、ロンドン・イズリントン区(London Borough of Islington)のフィンズベリー地区(Finsbury)内にある。セントパンクラス駅(St. Pancras Station)/キングスクロス駅(King's Cross Station)からシティー(City)の北部方面へ向かって、ペントンヴィルロード(Pentonville Road)を東に進み、右手前方に見えるクレアモントスクエア(Claremont Square)の手前で右折して、アムウェルストリート(Amwell Street)を直進、左手に見える2番目の角を左折すると、そこがイングルバートストリートである。

アムウェルストリートとイングルバートストリートが
交差する角に建つパブ
パブの外壁に架けられている看板

アムウェルストリートの両側がこの辺りのハイストリートとなっており、イングルバートストリートがアムウェルストリートと交差する北東の角に、「The Amwell Arms」と呼ばれるパブが営業している。
イングルバートストリートは100m程の通りで、その両側にはフラットが建ち並んでいる。そして、同ストリートは東側でミデルトンスクエアに突き当たっており、その突き当たった先にセントマーク教会が建っている。

イングルバートストリートと
ミデルトンスクエアの角(北東)に建つフラット

TV 版では、ポワロを乗せたヘイスティングス大尉の車は、イングルバートストリートを西側から東側へと進み、ミデルトンスクエアに突き当たったところで、信号(実際には存在していない)により一時停止し、彼らの真正面に建つセントマーク教会の入口で行われていた結婚式を偶然見かけることになる。赤信号による一時停止中、ヘイスティングス大尉がポワロに「結婚するつもりはないのか?」と尋ねると、ポワロは「今までに、私は夫に殺された妻の事件を5回、妻に殺された夫の事件を22回、手掛けている。私立探偵という職場柄、私は結婚には向いていない。だから、私には結婚する予定はない。」と答えるのであった。なお、アガサ・クリスティーの原作「二重の手がかり」では、ポワロがこのような発言をする場面はないが、「三幕の悲劇(Three Act Tragedy)」(1935年)から引用されているようである。

イングルバートストリートと
ミデルトンスクエアの角(南東)に建つフラット

実は、イングルバートストリートがミデルトンスクエアに突き当たったところで、ポワロとヘイスティングス大尉が乗った車が赤信号により一時停止する前の場面(=二人が乗った車が疾走する場面)は、ミデルトンスクエア内で撮影されている。この場面は、セントマーク教会が建っている広場西側ではなく、広場東側で撮影されている。実際、画面上、セントマーク教会は映っていない。
厳密に言うと、前の場面においてミデルトンスクエア内を走っていたヘイスティングス大尉運転の車が、次の場面では、イングルバートストリート(西側→東側)経由、再度、ミデルトンスクエア内へと入って行くことになり、地理的にはおかしなことになる。

イングルバートストリートとミデルトンスクエアの角(南東)に
建つフラット前の植栽

ミデルトンスクエアは、TV 版「スタイルズ荘の怪事件(The Mysterious Affairs ay Styles)」(1990年)において、スタイルズ荘の持ち主エミリー・イングルソープ(Emily Inglethrop)を殺害したと疑われる義理の息子であるジョン・キャヴェンディッシュ(John Cavendish)が、妻のメアリー・キャヴェンディッシュ(Mary Cavendish)と一緒に暮らすロンドンの住居としても撮影に使用されている(2016年1月24日付ブログで紹介済)。

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