2017年1月14日土曜日

ロンドン チャーターハウスストリート(Charterhouse Street)

City and Surburban Bank City branch が建っていたものと思われる
チャーターハウスストリート

サー・アーサー・コナン・ドイル作「赤毛組合(The Red-Headed League)」(「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」1891年8月号に掲載)の冒頭、ジョン・H・ワトスンがベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を訪れると、彼は燃えるような赤毛の初老の男性ジェイベス・ウィルスン(Jabez Wilson)から相談を受けている最中であった。ジェイベス・ウィルスンは、ロンドンの経済活動の中心地であるシティー(City)近くにあるザクセンーコーブルクスクエア(Saxe-Coburg Squareー2016年1月1日付ブログで紹介済)において質屋(pawnbroker)を営んでおり、最近非常に奇妙な体験をしたと言うので、ホームズとワトスンの二人は彼から詳しい事情を聞くのであった。


ジェイベス・ウィルスンの話に興味を覚えたホームズは、彼が質屋で雇っているヴィンセント・スポールディング(Vincent Spaulding)のことについて質問した。彼の説明を聞いたホームズには、何か思い当たる節があるようだった。ジェイベス・ウィルスンが辞去した後、ホームズはワトスンを誘って、地下鉄でシティー近くまで行き、ジェイベス・ウィルスンが営む質屋へと向かった。ホームズは質屋のドアをノックし、応対に出て来たヴィンセント・スポールディングに道を尋ねると、その場を立ち去った。質屋の前の敷石をステッキで数回叩き、そして、ヴィンセント・スポールディングの膝の汚れを確認したホームズがワトスンに告げた内容は、「あの男(ヴィンセント・スポールディング)はロンドンで4番目に狡賢く、3番目に大胆な奴だ。」だった。ホームズとワトスンの二人が質屋の裏の大通りへ出ると、そこには、タバコ屋、新聞販売所、レストランや馬車製造会社の倉庫等の他に、銀行(City and Surburban Bank)の支店(City branch)が建ち並んでいた。

ホルボーンサーカス内に設置されている
アルバート公(Albert Prince Consort)像
画面奥からチャーターハウスストリートが始まる

セントジェイムズホール(St. James's Hallー2014年10月4日付ブログで紹介済)でサラサーテ(パブロ・マルティン・メリトン・デ・サラサーテ・イ・ナバスクエス Pablo Martin Meliton de Sarasate y Navascuez:1844年ー1908年 スペイン出身の作曲家兼ヴァイオリン奏者)の演奏会を楽しんだ後、ホームズはワトスンに「今夜仕事を手伝ってほしい。」と頼む。一旦自宅に戻ったワトスンが夜再度ベーカーストリート221Bを訪れると、そこには、ホームズの他に、スコットランドヤードのピーター・ジョーンズ(Peter Jones)とザクセンーコーブルクスクエアに支店がある銀行の頭取であるメリーウェザー氏(Mr Merryweather)が居た。ホームズは、ワトスンを含めた4人でこれからジョン・クレイ(John Clay)という犯罪者を捕まえるのだと言う。また、ピーター・ジョーンズによると、ジョン・クレイは彼が以前から追っている重罪犯とのこと。ホームズも、ジョン・クレイとは1~2度関わりを持ったことがあるらしい。ホームズ達4人は、2台の馬車に分かれて、ベーカーストリートからザクセンーコーブルクスクエアの質屋の裏側にある銀行へと向かった。

画面奥がホルボーンサーカスで、ここからシティー内に入る

それでは、ホームズ達4人が重罪犯ジョン・クレイを捕まえるべく向かった先である City and Surburban Bank の City branch は、一体どこに建っていたのであろうか?コナン・ドイルの原作上、銀行が建っていた通り名に関する具体的な記述はなく、ジェイベス・ウィルスンが営む質屋の裏の大通り沿いに建っているという説明があるのみである。

ファリンドンロードからチャーターハウスストリートを眺めたところ

2016年1月1日付ブログで紹介済の通り、ジェイベス・ウィルスンが営む質屋があったザクセンーコーブルクスクエアは実在の場所ではない。コナン・ドイルの原作上の諸条件を総合すると、ホームズとワトスンの二人が地下鉄を降りたアルダースゲート(Aldersgate)の現在の駅名である地下鉄バービカン駅(Barbican Tube Stationー2017年1月1日付ブログで紹介済)の近くにあるチャーターハウススクエア(Chaterhouse Square)がザクセンーコーブルクスクエアの最有力候補値である。


また、ホームズ達4人を乗せた2台の馬車がファリントンストリート(Farrington Street)に到達した際、ホームズは「もうすぐ近くだ。('We are close there now,')」と言っている。2017年1月7日付ブログで紹介済の通り、ファリントンストリートも実在の通りではないが、肉市場であるスミスフィールドマーケット(Smithfield Market)の西側を南北に延びるファリンドンロード(Farringdon Road)/ファリンドンストリート(Farringdon Street)が、コナン・ドイルの原作上のファリントンストリートに該当すると思われる。


つまり、ホームズ達4人は、ファリンドンロード/ファリンドンストリートからチャーターハウススクエアへと向かったことになる。そう考えると、ファリンドンロード/ファリンドンストリートとチャーターハウススクエアを繫ぐチャーターハウスストリート(Charterhouse Street)沿いに、City and Surburban Bank の City branch は建っていたものと考えられる。


チャーターハウススクエアは四角形に近い広場で、同スクエアの北側と東側には、裏通りに該る通りが近接しておらず、ジョン・クレイがジェイベス・ウィルスンの質屋から銀行までのトンネルを掘るには、かなり至難の技である。また、地下鉄アルダースゲート駅(現在の地下鉄バービカン駅)からザクセンーコーブルクスクエア(最有力候補地:チャーターハウススクエア)経由、サラサーテの演奏会が行われるセントジェイムズホールがあるピカデリーサーカス(Piccadilly Circus)へ向かおうとしていたホームズにとって、銀行がチャーターハウススクエアの北側、もしくは、東側の裏通り沿いに建っていたとすると、地理関係的には、ピカデリーサーカスから逆に遠ざかることになってしまう。

肉市場であるスミスフィールドマーケット

チャーターハウススクエアの南側には、ロングレーン(Long Lane)と呼ばれる裏通りは存在するものの、チャーターハウススクエアとロングレーンの間には、地下鉄バービカン駅と地下鉄ファリンドン駅(Farringdon Tube Station)を結ぶ線路が横たわっており、ジョン・クレイがジェイベス・ウィルスンの質屋から銀行までのトンネルを掘ることは不可能である。

スミスフィールドマーケットを過ぎた後、
チャーターハウスストリートの北側から南側を眺めたところ

チャーターハウススクエアの西側の場合、スミスフィールドマーケットの北側を走るチャーターハウスストリートが二つに分かれて、チャーターハウススクエアに合流している。この二つに分かれたチャーターハウスストリートとチャーターハウススクエアに囲まれた一角があり、チャーターハウススクエアに面した側にジェイベス・ウィルスンが営む質屋が建っていて、その裏側、即ち、チャーターハウスストリートに面している側に City and Surburban Bank の City branch が建っていたと考えると、一番説明がつきやすい。

チャーターハウスストリートを
チャーターハウススクエアに向かって進む

なお、チャーターハウスストリートは、シティーの北側境界線上にあり、ロンドン・カムデン区(London Borough of Camden)とロンドン・イズリントン区(London Borough of Islington)に接している。

チャーターハウススクエア内―
画面奥に見えるのが、チャーターハウス

チャーターハウスストリートの西側はホルボーンサーカス(Holborn Circus)から始まるが、この辺りはロンドン・カムデン区に属している。チャーターハウスストリートは、ロンドン・イズリントン区とロンドン・カムデン区を東西に分るファリンドンロードを横切って、シティー内に入る。そして、スミスフィールドマーケットの北側を通過して、チャーターハウススクエアへと至るのである。

ITV1 で放映された「Agatha Christie's Poirot」において、
エルキュール・ポワロが住むフラットとして撮影に使用されたフローリンコート
(Florin Court―2014年6月29日付ブログで紹介済)がチャーターハウススクエア内にある

チャーターハウスストリートの北側には、ロンドン港湾局(Port of London Authority)の旧本社が建っているが、詳しくは、2016年6月19日付ブログを御参照いただきたい。

チャーターハウスストリート沿いに建つ
ロンドン港湾局の旧本社

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