シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 切り裂きジャックの遺産
(The further adventures of Sherlock Holmes / The Ripper Legacy)
著者 David Stuart Davis 2016年
出版 Titan Books 2016年
ジョン・ワトスンは「四つの署名(The Sign of Four)」事件で知り合ったメアリー・モースタン(Mary Morstan)と結婚し、シャーロック・ホームズとの共同生活を解消していたが、1892年の冬、彼女がジフテリアに罹患して死去し、1894年4月にホームズが3年ぶりにロンドンへ戻ったことに伴い、ワトスンはベーカーストリート221Bでのホームズとの共同生活を再開した。そして、1年近くが経過した1895年3月のある雨の晩、クラブで暇を持て余したワトスンがベーカーストリート221Bに帰宅すると、ホームズの元に事件の依頼者が訪れていた。
事件の依頼者は、ロンドンの郊外(北西部)クリックルウッド(Cricklewood)に住み、株式仲買人をしているロナルド・テンプル(Ronald Temple)という若い男性であった。彼によると、6日前、彼の妻シャルロット・テンプル(Charlotte Temple)とナニーのスーザン・ゴードン夫人(Mrs. Susan Gordon)が息子のウィリアム・テンプル(William Temple)を連れて、自然史博物館(National History Museum)へ出かけた後、三人でケンジントンガーデンズ(Kensington Gardens)を散策していると、雑踏の中、正体不明の男二人によってウィリアムが誘拐された、とのこと。通常、誘拐は身代金目的であるが、何故か、その後、誘拐犯からテンプル家に対して身代金の要求が全くないらしい。更に、彼は、金持ちでもない自分の息子が何故誘拐されるたのか、皆目見当がつかないと言う。彼としては、警察にも捜査を依頼したが、全く進展がないため、ホームズにウィリアムを見つけ出してほしいと頼み込むのであった。事件の依頼を受けたホームズは、ウィリアムの誘拐時の詳細を夫人のシャルロット・テンプルに尋ねるべく、ワトスンやロナルド・テンプルと一緒に、馬車でクリックルウッドへと向かった。
ワトスンと一緒に、シャルロット・テンプル夫人と面談したホームズであったが、残念ながら、誘拐事件解決の糸口になるような有益な情報は得られなかった。
翌朝、再度、シャルロット・テンプル夫人を訪ねたホームズは彼女に対して、「誘拐された息子さんは、あなた方の本当の子供ではないのではないか?」という疑問をぶつける。その理由として、誘拐されたウィリアムの写真から、彼の顔立ちが夫妻に似ていないことをホームズは指摘した。暫く迷った挙げ句、テンプル夫妻は、「ロンドン南部キャンバーウェル(Camberwell)で保育所を営むゲートルード・チャンドラー夫人(Mrs. Gertrude Chandler)から8年前にウィリアムを養子に迎えた。」と、ホームズに告げるのであった。
ホームズは、早速、ワトスンと共に、チャンドラー夫人が営む保育所を訪れ、「ウィリアムの出生記録をみせてほしい。」と依頼するが、何故か、チャンドラー夫人は非協力的で、ホームズ達に記録を見せることを異様に拒む。彼女は何か重要なことを隠そうとしているように思われた。
一旦、その場を辞去したホームズであったが、チャンドラー夫人の態度を不審に感じた彼は、その夜、ワトスンと二人で、チャンドラー夫人の保育所に忍び込んで、ウィリアムの出生記録を調べようとした。ところが、ホームズ達の無断訪問は予め想定されていたようで、謎の男達がホームズ達を待ち構えていた。ホームズ達は銃で狙われる破目に陥ったものの、なんとかウィリアムの出生記録を取り出して、その場から退却するのであった。
翌朝、ホームズは、ウィリアムの出生記録について、ワトスンと話をする。記録によると、ウィリアムは、8年前、ロンドンのホワイトチャペル地区(Whitechapel)にあるバットストリート(Bat Street)に住むアリス・サンダーランド(Alice Sunderland)が生んだことになっている。ホワイトチャペル地区と言うと、1888年秋、切り裂きジャック(Jack the Ripper)が娼婦を何人も惨殺した場所である。何か関係があるのだろうか?
ホワイトチャペル地区へ向かったホームズ達は、驚くべき事実に遭遇する。
ベーカーストリート221Bのホームズの元を訪れたスコットランドヤードのドミニック・ゴーント警部(Inspector Dominic Gaunt)はホームズに対して、頻りに誘拐事件の情報開示を求めるとともに、共同捜査を提案してくるが、彼の態度には何か怪しいところがある。
また、シャーロック・ホームズの兄マイクロフト・ホームズ(Mycroft Holmes)はシャーロックに対して、誘拐事件から手を引くよう、強く要請してきた。何故、英国政府が単なる一市民の子供の誘拐事件にこれ程までに介入しようとするのか?
そして、ウィリアムの誘拐事件の背後では、思ってもみなかった或る人物が糸を引いていたのである。それは、死んだ筈のホームズの宿敵であった...
読後の私的評価(満点=5.0)
1)事件や背景の設定について ☆☆☆☆(4.0)
内容としては、単純な子供の誘拐事件であるが、子供の出生の背景には、1888年秋に発生した切り裂きジャック事件が大きく関係しており、マイクロフト・ホームズから、切り裂きジャック事件にかかる驚愕の真相が明らかにされる。それ以降、この真相は誘拐事件の本筋には影響しないが、これだけでも別の作品で書いてほしい位で、正直、こちらの話の方を読みたい。マイクロフト・ホームズをはじめとする英国政府とシャーロック・ホームズの永遠の宿敵がこの誘拐事件に深く絡んできて、非常に面白い。
2)物語の展開について ☆☆☆☆半(4.5)
他の著者による作品とは違って、本筋には関係ない話や単なる前ふりの話等と言ったページかせぎの展開が一切なく、物語の冒頭から結末まで、本筋の話が一気にテンポよく進み、読みやすい。サー・アーサー・コナン・ドイル作のホームズ作品(例:チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン等)と似た展開もあって、読者を楽しませてくれる。
3)ホームズ/ワトスンの活躍について ☆☆☆半(3.5)
シャーロック・ホームズとジョン・ワトスンの二人は、事件の依頼人であるテンプル夫妻と英国政府を代表するマイクロフト・ホームズの間で板挟みになりながら、誘拐事件の背後で糸を引く永遠の宿敵との厳しい戦いを繰り広げる。子供を欲しながらも、妻メアリー・モースタンとの間に子供を設けられなかったワトスンは、誘拐されたテンプル夫妻の息子ウィリアムの安否を気遣い、深く苦慮する。大英帝国存亡の危機という重大事であり、最後はマイクロフト・ホームズに先んじられてしまい、ハッピーエンドとはならなかったが、シャーロック・ホームズであれば、何か別の解決ができたような気がして、著者によるもうひとひねりが欲しかった。
4)総合評価 ☆☆☆☆(4.0)
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