2016年9月18日日曜日

ロンドン ロシア正教会/エニスモアガーデンズ(Russian Orthodox Cathedral / Ennismore Gardens)

ロシア正教会の外観全景―現在、右側に建つ鐘楼の外観を補修中

アガサ・クリスティー作「あなたの庭はどんな庭?(How Does Your Garden Grow ?)」(1935年ー短編集「レガッタデーの事件(The Regatta Mystery)」に収録)は、エルキュール・ポワロの事務所にアメリア・バロウビー(Amelia Barrowby)という独身の老婦人から依頼の手紙が届くところから、物語の幕が上がる。
彼女から来た手紙に書かれている依頼の内容は、「自分の身を案じているので、自宅に来てほしい。」という非常に曖昧なものであった。この奇妙な依頼の手紙に興味を持ったポワロは、秘書のミス・レモン(Miss Lemon)に指示して、「いつでも相談に応じる。(I will do myself the honour to call upon you at any time you suggest.)」と返信をするが、その後、彼女からは何も音信もなかった。


暫くして、ミス・レモンが手紙の差出人であるアメリア・バロウビーが死亡したことを新聞記事で偶然見つけ、ポワロに知らせる。アメリア・バロウビーが亡くなった際、姪のデラフォンテーン夫妻(Mr. and Mrs. Delafontaine)と一緒に食事をしていたのだが、(1)アーティチョークのスープ、(2)魚のパイと(3)アップルタルト以外、何も口にしていなかった。ところが、彼女の遺体からは、ストリキニーネが発見されたのである。ストリキニーネはとても苦い味がするため、アーティチョークのスープ、魚のパイやアップルタルトに混入されていたとは思えなかった。また、彼女は珈琲も飲まず、水だけを飲んでいた。ストリキニーネが混入したと考えられるのは、彼女が飲んでいた持病用のカプセル薬だけだった。そのカプセル薬に触れたのは、ロシア人の話相手(コンパニオン)のカトリーナ・リーガー(Katrina Rieger)のみだったため、彼女へ疑いの目が向けられた。
アメリア・バロウビーの死に疑問を感じたポワロは現地へ赴き、調査を始めるのであった。

教会の入口右側にある英語の表示

教会の入口左側にあるロシア語の表示

英国のTV会社 ITV1 で放映されたポワロシリーズ「Agatha Christie's Poirot」の「あなたの庭はどんな庭?」(1991年)の回では、アメリア・バロウビーをストリキニーネで毒殺したと疑われ、姿を消してしまったコンパニオンのロシア人カトリーナ・レイガー(Katrina Reiger)の居所を突き止めたポワロは彼女に対して、警察への出頭を勧める。この場面は、ロンドンの中心部シティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)のベイズウォーター地区(Bayswater)内にあるモスクワロード(Moscow Road)沿いに建つ聖ソフィア大聖堂(St. Sophia Cathedral)の内部で撮影されている。その後、教会の外でポワロが彼女をスコットランドヤードのジャップ主任警部に引き渡す場面では、聖ソフィア大聖堂ではなく、ロシア正教会(Russian Orthodox Cathedral)の外観が使用されている。

ロシア正教会の建物外観

ロシア正教会は、ロンドンの中心部シティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)のブロンプトン地区(Brompton)内に所在しており、地下鉄ナイツブリッジ駅(Knightsbridge Tube Station)から地下鉄ハイストリートケンジントン駅(High Street Kensington Tube Station)へ向かってハイドパーク(Hyde Park)の南側を東西に延びるナイツブリッジ通り(Knightsbridge)から少し南下したところにあるエニスモアガーデンズ(Ennismore Gardens)に面して建っている。

教会の入口(その1)

教会の入口(その2)

ITV1 で放映されたポワロシリーズでは、カトリーナが身を寄せていたのは「ロシア正教会」という設定であり、内部の撮影に使われた聖ソフィア大聖堂は「ギリシア正教会」の建物であるが、外観の撮影に使用されたのは、設定通り、ロシア正教会となっている。にもかかわらず、ポワロがカトリーナを連れて、教会の建物から出て来る場面では、教会の入口辺りしか写っていない。

教会の内部天井

教会内に架けられている聖母マリアとキリストのモザイク画

当教会は、元々、「Anglican Church of All Saints」として、英国の建築家であるルイス・ヴァリアミー(Lewis Vulliamy:1791年ー1871年)によって設計され、1848年から1849年にかけて建設された。また、ルイス・ヴァリアミーの設計図をベースにして、同じく英国の建築家ロバート・ルイス・ルミュー(Robert Lewis Roumieu:1814年ー1877年)が1860年に鐘楼を建設した。鐘楼の高さは約40m。

教会の建物を入口から見上げたところ

当教会は、ロシア正教会としても使用され、1978年にロシア正教会側に正式に購入され、現在の正式名は「Cathedral of the Dormition of the Mother of God and All Saints」である。
当教会の建物は、現在、「グレードⅡ(Grade II)」の指定を受けている。

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