2016年4月9日土曜日

ロンドン 地下鉄グロスターロード駅(Gloucester Road Tube Station)

グロスターロード沿いに建つ地下鉄グロスターロード駅の建物

サー・アーサー・コナン・ドイル作「ブルース・パーティントン型設計図(The Bruce-Partington Plans)」では、1895年11月の第3週の木曜日、ベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を彼の兄であるマイクロフト・ホームズ(Mycroft Holmes)が、スコットランドヤードのレストレード警部(Inspector Lestrade)を伴って、緊急の要件で訪れるところから、物語が始まる。
マイクロフトによると、同じ週の火曜日の朝、ウールウィッチ兵器工場(Woolwich Arsenal)に勤めるアーサー・カドガン・ウェスト(Arthur Cadogan West)が地下鉄オルドゲート駅(Aldgate Tube Station)の線路脇で死体となって発見された、とのことだった。前日の月曜日の夜、彼は婚約者のヴァイオレット・ウェストベリー(Violet Westbury)をその場に残したまま、突然霧の中を立ち去ってしまったと言う。そして、翌朝、死体となった彼のポケットから、英国政府の最高機密で、ウールウィッチ兵器工場の金庫室内に厳重に保管されていたはずの「ブルース・パーティントン型潜水艦」の設計図10枚のうちの7枚が出てきた。ところが、一番重要な残り3枚はどこにもなかったのである。

プラットフォームに設置されている駅名表示

マイクロフトは、シャーロックに対して、(1)新型潜水艦の設計図が何故持ち出されたのか、(2)アーサー・カドガン・ウェストは本件にどのように関与しているのか、(3)彼はどのようにして殺されて、現場まで運ばれたのか、そして、(4)残りの3枚の設計図は一体どこへ消えたのかを早急に調べるよう、強く要請した。そこで、シャーロックは、ワトスンを連れて、地下鉄オルドゲート駅へと向かった。
地下鉄オルドゲート駅での調査を終えた後、ワトスンと一緒にウールウィッチへ向かう途中、シャーロックはロンドンブリッジ駅(London Bridge Station)に立ち寄って、マイクロフト宛に電報を打ち、「英国に居る外国のスパイや国際的なエージェントの完全な一覧表を、彼らの住所付きで、ベーカーストリートへ届けてくれ。」と依頼した。

地下鉄グロスターロード駅の入口横には、
花屋や両替屋等が入っている

シャーロックが地下鉄オルドゲート駅やウールウィッチでの調査を終えて、ワトスンと一緒にベーカーストリート221Bに戻ると、依頼通り、マイクロフトからの手紙が待っていた。彼の手紙によると、こんな大それた事件を手掛ける人物は、以下の3人しか居ない、と言う。
(1)ウェストミンスターのグレイトジョージストリート13番地に住むアドルフ・メイヤー(Adolph Meyer - 13 Great George Street, Westminster)
(2)ノッティングヒルのキャンプデンマンションズに住むルイス・ラ・ロティエール(Louis La Rothiere - Campden Mansions, Notting Hill)
(3)ケンジントンのコールフィールドガーデンズ13番地に住むヒューゴ・オーバーシュタイン(Hugo Oberstein - 13 Caulfield Gardens, Kensington)
シャーロックはロンドンの地図を熱心に眺めた後、ワトスンに「1、2時間で戻って来る。」と言い残すと、偵察に出かけて行った。午後9時過ぎにシャーロックからの手紙が届けられ、ワトスンにケンジントンのグロスターロード(Gloucester Road)にあるゴルジーニのレストラン(Goldini's Restaurant)へ今直ぐ来るよう、指示があった。薄暗い霧の中、シャーロックから指示された住所へ向かって、ワトスンは馬車を走らせたのである。ワトスンが到着すると、シャーロックは偵察の結果を話し始めた。

コートフィールドロード(Courtfield Road)側から見た
地下鉄グロスターロード駅の建物

「僕達は古い理(ことわり)に立ち返る必要がある。他の可能性が全てなくなった時、何が残ったとしても、それがありそうでなくても、真実に違いない。今回、他の可能性は全てなくなった。ちょうどロンドンを離れた第一級の国際的なスパイが地下鉄に隣接する家の一つに住んでいることを僕が発見した時、君が僕の突然うきうきし始めた様子に驚く程、僕は嬉しくなったのさ。」
「ああ、成る程、そういうことだったのか?」
「そうさ。コールフィールドガーデンズ13番地のヒューゴ・オーバーシュタインが、僕の標的になったんだ。僕は地下鉄グロスターロード駅から調査を始めた。そこで、非常に協力的な駅員が、僕と一緒に線路を歩いて、僕が納得できるまで調査をさせてくれた。コールフィールドガーデンズの裏階段の窓が線路に面しているだけではなく、もっと重要な事実は、より大きな鉄道の線路と交差しているため、地下鉄は正にその地点で頻繁に数分間停車しているという点だ。」
「ホームズ、素晴らしい!やったな!」

地下鉄グロスターロード駅の建物を下から見上げたところ

'We must fall back upon the old axion that when a all other contingencies fail, whatever remains, however improbable, must be the truth. Here all other contingencies have failed. When I found that the leading international agent, who had just left London, lived in a row of houses which abutted upon the Underground, I was so pleased that you were a little astonished at my sudden frivolity.'
'Oh, that was it, was it ?'
'Yes, that was it. My Hugo Oberstein, of 13 Caulfield Gardens, had become my objective. I began my operations at Gloucester Road Station, where a very helpful official walked with me along the track and allowed me to satisfy myself not only that the back-stair windows of Caulfield Gardens open on the line, but the even more essential fact that, owing to the intersection of one of the larger railways, the Underground trains are frequently held motionless for some minutes at that very spot.'
'Splendid, Holmes! You have got it!'

地下鉄グロスターロード駅の改札口を抜けて、
プラットフォームを見下ろしたところ

シャーロックが協力的な駅員と一緒に調査を始めた地下鉄グロスターロード駅(Gloucester Road Tube Station)は、ケンジントン&チェルシー王立区(Royal Borough of Kensington and Chelsea)のサウスケンジントン地区(South Kensington)内にある地下鉄の駅である。グロスターロードとクロムウェルロード(Cromwell Road)の交差点の近くにあり、グロスターロードに面して建っている。

地下鉄グロスターロード駅のプラットフォーム(その1)

地下鉄グロスターロード駅は、1868年10月1日にオープンし、当初は地下鉄パディントン駅(Paddington Tube Station)から延長された路線の仮終着駅として使用された。同年12月24日には、ディストリクトライン(District Line)が西方面から地下鉄サウスケンジントン駅(South Kensington Tube Station)まで延伸したため、地下鉄グロスターロード駅は終着駅ではなく、通常の途中駅となった。

地下鉄グロスターロード駅のプラットフォーム(その2)

現在、地下鉄グロスターロード駅には、以下の3つの路線が通っている。
(1)ディストリクトライン
(2)ピカデリーライン(Piccadilly Line)
(3)サークルライン(Circle Line)
地下鉄グロスターロード駅を出た後、西へ向かう線路は、地下鉄パディントン駅方面へ向かうサークルラインと地下鉄アールズコート駅(Earl's Court Tube Station)へ向かうディストリクトライン/ピカデリーラインの二手に分かれる。

地下鉄と言えども、地下鉄グロスターロード駅近辺では、地上を走る区間が割合と多く、シャーロックとしても、暗闇ばかりのトンネル内での調査ではなかったので、調査しやすかったのではないかと思われる。

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