2015年11月22日日曜日

ロンドン ハイポイント(Highpoint)

ノースヒル通り(North Hill)沿いに並ぶ木立の間から見えるハイポイント

アガサ・クリスティー作「戦勝記念舞踏会事件(The Affair at the Victory Ball)」(1951年ー「負け犬他(The Under Dog and Other Stories)」に収録)では、コロッソスホールにおいて開催されていた戦勝記念の仮装舞踏会で惨劇が起きる。仮装舞踏会に来ていた6人組の一人、若きクロンショー子爵(Viscount Cronshaw)が心臓をナイフで刺されて殺されているのが発見されたのである。彼はイタリアの即興喜劇(commedia dell'arte)の道化役(Harlequin)の仮装をしていたのだが、彼の死体が発見された時、死後硬直が既にかなり進んでいた。


また、クロンショー子爵のフィアンセと噂されている女優のココ・コートニー(Miss "Coco" Courtenay)がチェルシー地区(Chelsea)にある彼女のフラットで死亡しているのを翌朝発見された。コカインの過剰摂取による薬物中毒が原因であった。ココ・コートニーも前日仮装舞踏会に出席していた6人組の一人であったが、舞踏会出席者によると、当夜、クロンショー子爵と彼女は何故か喧嘩していたと言う。そのため、彼女は舞踏会を途中退席し、6人組の一人、夫妻で出席していた舞台俳優のクリストファー・デイヴィッドソン(Mr Christopher Davidson)に頼んで、自分のフラットへ連れ帰ってもらっていたのだ。検死解剖の結果、彼女は常習的な薬物中毒者であることも判明した。

ノースヒル通りの反対側からハイポイントを望む

動機、アリバイや2つの事件の関連性等、全てが謎めいており、自分の手に余ると考えたスコットランドヤードのジャップ主任警部(Chief Inspector Jaap)はエルキュール・ポワロに捜査協力を求めるのであった。

ハイポイントの入口(その1)

戦勝記念舞踏会から戻った後、コカインの過剰摂取による薬物中毒で死亡しているのが発見されたココ・コートニーが住んでいたフラットについて、原作では、チェルシー地区内にある設定になっているが、英国のTV会社ITV1が放映していたポワロシリーズ「Agatha Christie's Poirot」の「戦勝記念舞踏会事件」(1991年)の回では、ロンドン北部のハイゲート地区(Highgate)内にあるハイポイント(Highpoint)が撮影に使用されている。具体的な住所は「North Hill, Highgate, London N6 4BA」である。

ハイポイントの入口(その2)

ハイポイントは「ハイポイントⅠ(Highpoint I)」と「ハイポイントⅡ(Highpoint II)」の2つに分かれている。
まず、ハイポイントⅠが、実業家であるジーグムント・ゲステットナー(Sigmund Gestetner:1897年ー1956年)のために、1935年に建設された。建物外観設計はグルジア出身の建築家バーソルド・ルベトキン(Berthold Lubetkin:1901年ー1990年)が、また、建物構造設計はデンマーク系英国人の技師オヴェ・アラップ(Ove Arup:1895年ー1988年)が担当。当初、ハイポイントⅠは、ゲステットナーが経営する企業に勤務するスタッフの住居用として建てられたが、実際には、その目的に使用されることは一度もなかった。
スイス出身で、フランスで主に活躍した建築家であるル・コルビュジェ(Le Corbusier:1887年ー1965年)が完成直後の1935年にハイポイントⅠを視察して、「第一級の作品(an achievement of the first rank)」と賞賛したと伝えられている。

ポワロシリーズの撮影に使用されたフラットの方は、
現在、外観の改装中

ハイポイントⅡは、ハイポイントⅠに隣接する場所に1938年に建設された。
そして、ハイポイントⅠとハイポイントⅡは、現在、グレードⅠ(Grade I)の指定を受けている。

ポワロシリーズでは、こちらのフラットが撮影に使用されている

ちなみに、同じポワロシリーズの「百万ドル債券盗難事件(The Million Dollar Bond Robbery)」(1991年)の回では、ニューヨークへ百万ドルの自由公債を運搬する任に就いたが、何者かに自由公債を盗まれてしまったロンドン&スコティッシュ銀行(London and Scottish Bank)のフィリップ・リッジウェイ(Philip Ridgeway)の婚約者であるエズミー・ダルリーシュ(Esmee Dalgeish)が住むフラットとしても、ハイポイントは使用されている。

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