カートライトガーデンズ(Cartwright Gardens)を囲む建物群 |
発表時期で言うと、一番最後のシャーロック・ホームズ物語となるサー・アーサー・コナン・ドイル作「ショスコム オールドプレイス(Shoscombe Old Place)」は、次のようにして始まる。
メーブルドンプレイス(Mabledon Place)に建つ建物 |
シャーロック・ホームズは、長い間、低倍率顕微鏡の上に身を屈めていた。そして、彼は背筋を伸ばして、勝ち誇ったように私の方に向きなおった。
「ワトスン、これはニカワだ。」と、彼は言った。「間違いなく、これはニカワだ。この視野の中に散らばった物をちょっと見てくれ。」
私は顕微鏡の接眼レンズを覗き、私の目にピントを合わせた。
「これらの毛は、ツィードのコートから抜けた繊維だ。その不揃いな灰色の塊派は塵だ。左の方には、皮膜組織の薄片がある。中央にある茶色の染みは、間違いなく、ニカワだ。」
「まあ」と、私は笑いながら言った。「君の言う通りだということにしよう。ところで、これが一体何に関係しているんだい?」
「これは非常に見事な証明になるのさ。」と、彼は答えた。
「例のセントパンクラスの事件で、殺された警官の側で帽子が発見されたことを君も覚えているだろう。被告人は、その帽子が自分のものではないと言い張っている。しかし、彼は額縁製造を営んでいて、日頃ニカワを扱っているんだ。」
「それは、君が扱っている事件なのかい?」
「いや、スコットランドヤードのメリヴェルが、僕にこの事件を調べてくれと頼んできたのさ。僕が袖口の縫い目の中から見つけた亜鉛と銅の鑢屑から偽金作り犯を突き止めて以来、スコットランドヤードでも、顕微鏡の重要性に気付き始めたんだ。」
大英図書館の入口 |
大英図書館の全景 |
Sherlock Holmes had been bending for a long time over low-power microscope. Now he straightened himself up and looked round at me in triumph.
'It is glue, Watson,' said he. 'Unquestionably it is glue. Have a look at these scattered objects in the field!'
I stopped to the eyepiece and focused for my vision.
'Those hairs are threads from a tweed coat. The irregular grey masses are dust. There are epithelial scales on the left. Those brown blobs in the centre are undoubtedly glue.'
'Well,' I said, laughing, 'I am prepared to take your word for it. Does anything depend upon it?'
'It is a very fine demonstration,' he answered. 'in the St Pancras case you may remember that a cap was found beside the dead policeman. The accused man denies that it is his. But he is a picture-frame maker who habitually handles glue.'
'Is it one of your cases?'
'No, my friend, Merivale of the Yard, asked me to look into the case. Since I ran down that coiner by the zinc and copper filings in the seam of his cuff they have begun to realize the importance of the microscope.'
セントパンクラス オールド教会の入口 |
セントパンクラス オールド教会の全景 |
セントパンクラス地区(St. Pancras)は、元々、中世の教区として始まり。北はハイゲート地区(Higate)、東は現在のキングスクロス駅(King's Cross Station)の横で南北に延びるヨークウェイ(York Way)、南は現在のオックスフォードストリート(Oxford Street)、そして、西はリージェンツパーク(Regent's Park)までをカバーするかなり広大な一帯であった。
セントパンクラスの地名は、ローマ皇帝ディオクレティアヌス帝によって処刑され、殉教者となったフリージアの若い貴族の名から採られている。約200年位前まで、この地には鉱泉が湧き、医者がセントパンクラスへ行って湯治するように進めたため、多くの人々を集めていた、とのこと。この鉱泉井戸の後には、現在、英国国鉄ミッドランド管理局の線路が通っている。
セントパンクラス教区は、1900年にセントパンクラス首都区(Metropolitan Borough of St. Pancras)ができるまで続いた。その後、セントパンクラス首都区は他の区と統合され、1965年にロンドン・カムデン区(London Borough of Camden)が誕生する。その結果、「セントパンクラス」という名前は、駅や一部の建物を除くと、通り名等には残っていない。
セントパンクラス ルネッサンスホテル ロンドンの正面入口 |
セントパンクラス ルネッサンスホテル ロンドンの全景 |
セントパンクラス地区は、現在、北側のカムデンタウン(Camden Town)/ プリムローズヒル(Primrose Hill)/ ハムステッド(Hampstead)、東側のイズリントン(Islington)/ フィンズベリー(Finsbury)/ クラーケンウェル(Clerkenwell)、南側のブルームズベリー(Bloomsbury)/ ホルボーン(Holborn)、そして、西側のリージェンツパーク / マリルボーン(Marylebone)に囲まれた場所に位置している。
なお、セントパンクラス地区内には、ホームズ作品に登場した以下の場所が所在している。
(1)大英図書館(British Library)→「マスグレイヴ家の儀式書(The Musgrave Ritual)」で紹介済。
(2)セントパンクラス オールド教会(St. Pancras Old Church)→「花婿失踪事件(A Case of Identity)」で紹介済。
(3)セントパンクラス ルネッサンスホテル ロンドン(St. Pancras Renaissance Hotel London)→同じく、「花婿失踪事件」で紹介済。
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