2015年6月14日日曜日

ロンドン 地下鉄ハイドパークコーナー駅(Hyde Park Corner Tube Station)

地下鉄ハイドパークコーナー駅のプラットフォーム

アガサ・クリスティー作「茶色の服の男(The Man in the Brown Suit)」(1924年)に登場する主人公のアン・ベディングフェルド(Anne Beddingfeld)は、常に冒険を求める好奇心に溢れた若い女性である。
著名な考古学者である父親チャールズ・ベディングフェルド教授(Professor Charles Beddingfeld)を亡くして孤児となった彼女は、ロンドンのケンジントン地区(Kensington)にある弁護士のフレミング氏(Mr. Flemming)の家に一時身を寄せることになる。生憎と、父親がアンに87ポンドしか遺してくれなかったため、彼女は早速生活の糧を見つける必要があった。

プラットフォームの壁に設置されている駅名の表示

ある日、アンは、結果がおもわしくない採用面接から帰る途中、地下鉄のハイドパークコーナー駅(Hyde Park Corner Tube Station)のプラットフォームで電車を待っていた。その時、顎髭を生やした、小柄で細身の男がプラットフォームから下に誤って転落して死亡するという事件に、彼女は遭遇する。プラットフォームから転落して死亡した男が着ていたコートからは、防虫剤の臭いが漂っていた。
その場に居合わせた人達の中に、茶色の服を着た医師が居て、彼が死体を検分するが、アンは彼が医師ではないことを見抜く。また、偽者の医師が死体のポケットから抜き取ったものの、うっかりと落としていったメモを彼女は拾うことになる。そのメモには、’17.122 キルモーデンキャッスル(17.122 Kilmorden Castle)’と書かれてあった。プラットフォームから転落死した男は、L. B. カートン(L. B. Carton)という名前で、事故死として扱われてしまう。

ハイドパーク側にある地下鉄への入口

地下鉄への入口上にある地名の表示

アンはメモの内容を解読しようとするが、あまりにもデータが不足していた。ある日、彼女がロンドン汽船会社の事務所の前を通った際、「キルモーデンキャッスル」が地名ではなく、英国のサザンプトン(Southampton)から南アフリカのケープタウン(Cape Town)へと向かう汽船の名であることが判った。更に、その船は’1922年1月17日’にサザンプトンを出航することになっていた。彼女は事件の真相を探るため、汽船キルモーデンキャッスルに乗船するのであった。

地下鉄の改札口へ向かう連絡通路の壁に
架けられている行き先の表示

連絡通路の壁に描かれている
ハイドパークコーナー駅近辺の歴史的な一コマの一つ

地下鉄ハイドパークコーナー駅は、ハイドパーク(Hyde Park)の南東の角ハイドパークコーナー(Hyde Park Corner)にある駅で、ピカデリーライン(Piccadilly Line)が通っている。当駅の東隣りはグリーンパーク(Green Park)に面している地下鉄グリーンパーク駅(Green Park Tube Station)で、西隣りはハロッズ(Harrods)デパートの近くにある地下鉄ナイツブリッジ駅(Knightsbridge Tube Station)である。


地上にあった改札口が入った建物には、
現在、ホテルが入居している—
外壁の赤茶色の部分が当時のままである

ホテル玄関の両側にあるのは、
地下鉄の改札口とプラットフォームを結ぶリフト用のシャフトで、
現在も、通風口として残されている—
植栽でうまく隠されている

地下鉄ハイドパークコーナー駅は1906年12月15日にオープンした。
当初は、地上にある改札口と地下のプラットフォームはリフトで結ばれる仕組みとなっていたが、プラットフォームからのエスカレーターが設置され、1932年5月23日に地下の改札口がオープンしたことに伴い、地上の改札口が入った建物は使用されなくなった。最近では、2010年6月まではピザ屋が当該建物に入居していたが、その後、大改装が行われて、現在は、ホテルのウェルスレー(The Wellesley)が入居している。その結果、ハイドパークコーナー駅は、地上に改札口等を含む関連施設を伴わない数少ない地下鉄の駅の一つとなっている。

ナイツブリッジ駅へと西方面に向かう線の
プラットフォーム

主人公のアンは、採用面接の後、ケンジントン地区のフレミング氏の家へ帰る途中で、地下鉄ハイドパークコーナー駅のプラットフォームにおいて事件に遭遇した訳で、これを実際の駅に当てはめると、ハイドパークコーナー駅からナイツブリッジ駅へと西方面に向かう線のプラットフォームが事件の舞台だと言える。

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