セントジェイムズスクエア内にある美しい植栽 |
サー・アーサー・コナン・ドイル作「高名な依頼人(The Illustrious Client)」において、サー・ジェイムズ・デマリー大佐(Colonel Sir James Damery)経由、匿名の依頼人からの頼みを受けたシャーロック・ホームズは、ド・メルヴィル将軍(General de Merville)の令嬢ヴァイオレット・ド・メルヴィル(Violet de Merville)とオーストリアのアデルバート・グルーナー男爵(Baron Adelbert Grunerーハンサムであるが、非常に残虐な男)の結婚をなんとか阻止しようと試みる。ホームズは、英国のキングストン(Kingston)に住むグルーナー男爵との直接交渉やロンドンのバークリースクエア(Berkeley Square)に住むド・メルヴィル嬢への説得を行うが、残念ながら、どちらも失敗に終わってしまう。そして、ド・メルヴィル嬢との会見の二日後、昼の12時頃、リージェントストリート(Regent Streetーピカデリーサーカス(Piccadilly Circus)から北方面にのびる大通り)沿いにあるカフェ・ロイヤル(Cafe Royal)の前の路上で、ホームズはグルーナー男爵が放った手下達の襲撃を受けて、瀕死の大怪我を負ってしまうのである。
セントジェイムズスクエア内にある閑静なプライベートガーデン |
ホームズの大怪我から1週間が経過した日の夕刊に、グルーナー男爵の渡米予定を伝える記事が掲載された。グルーナー男爵が英国から逃げ出すつもりと読んだホームズは、ジョン・ワトスンに助けを求める。
ロンドン図書館前からセントジェイムズスクエアを望む |
「さあ、ワトスン、君には一仕事してもらいたい。」
「何でも言ってくれ、ホームズ。」
「では、これから丸一日がかりで中国の陶器について知識を詰め込んでもらいたい。」
彼は何の説明をしてくれなかったし、私も彼に説明を求めなかった。長年の経験から、彼の指示への絶対服従が一番だと私は学んでいた。しかし、彼の部屋を出て、ベーカーストリートを南に下りながら、一体どうやってこんな奇妙な指示に従えばよいのだろうかという思いが私の頭で反芻していた。仕方がないので、私はセントジェイムズスクエアのロンドン図書館へ馬車をとばして行き、そこで副司書をしている友人のロマックスに事情を説明し、結構な大きさの一巻を腕に抱えるようにして、(クイーン アン ストリートにある私の)家に帰った。
('Now, Watson, I want you to do something for me.'
'I am here to be used, Holmes.'
'Well, then, spend the next twenty-four hours in an intensive study of Chinese pottery.'
He gave me no explanations and I asked for none. By long experience I had learned the wisdom of obedience. But when I had left his room I walked down Baker Street, revolving in my head how on earth I was to carry out so strange an order. Finally I drove to the London Library in St. James's Square, put the matter to my friend Lomax, the sub-librarian, and departed to my rooms with a goodly volume under my arm.)
プライベートガーデンの中心部に立つ ウィリアム3世のブロンズ像 |
セントジェイムズスクエアは、ロンドンの中心部シティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)のセントジェイムズ地区(St. James's)内にある広場で、北側のピカデリー通り(Piccadilly)と南側のパル・マル通り(Pall Mall)に挟まれている。
1720年代には、7人の公爵(Duke)と7人の伯爵(Earl)が既にこの一帯に住んでおり、この段階で、スクエアの東、北および西の部分は邸宅に囲まれていた。
当スクエアの周囲には、ジョージ朝様式やネオ・ジョージ朝様式の建物が建設され、スクエアの中心にはプライベートガーデンがつくられた。プライベートガーデンの中心部には、ステュアート朝のウィリアム3世(William III:1650年ー1702年 在位期間:1689年ー1702年)のブロンズ像が1808年に設置された。
19世紀中頃になると、当スクエア内には、銀行、保険会社、英国政府機関、図書館やクラブ等が入居するようになったが、引き続き富裕層が住む高級住宅街であり続けたのである。
画面中央に見える建物がセントジェイムズスクエア14番地(ロンドン図書館) |
ロンドン図書館の入口 |
ワトスンが訪ねたロンドン図書館(London Library)は実在の場所で、セントジェイムズスクエアの14番地に所在している。ロンドン図書館は1845年にここに入居したが、建物は1896年から1898年にかけて再建されている。
なお、「高名な依頼人」事件が発生したのは1902年9月なので、ワトスンがロンドン図書館を訪問したのは、再建後ということになる。
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