クラリッジズホテルの建物正面の外壁 |
サー・アーサー・コナン・ドイル作「ソア橋の謎(The Problem of Thor Bridge)」では、ある年の10月の荒涼とした朝、米国の元上院議員(American Senator)で、かつ金鉱王(Gold King)のニール・ギブスン(Neil Gibson)が、ベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を事件の相談に訪れる。ギブスン氏はホームズに対して、「子供の家庭教師であるグレイス・ダンバー(Grace Dunbar)に自分の妻マリア・ギブスン(Maria Gibson)を殺害した容疑がかけられている。」と説明し、「ダンバー嬢にかけられている容疑をなんとしても晴らしてほしい。」と依頼する。
事件は、ギブスン氏が住むハンプシャー州(Hampshire)の屋敷ソアプレイス(Thor Place)付近にあるソア橋(Thor Bridge)の上で発生した。
ある夜遅く(11時)、ギブスン氏の妻であるマリア夫人が頭を銃で打ち抜かれて死亡しているのを、猟場の番人(gamekeeper)によって発見されたのである。その現場には凶器の銃は見当たらなかったが、ダンバー嬢の衣装戸棚の底から銃が出てきた。そして、その銃の弾倉は一発だけ空になっていた上に、マリア夫人の頭を打ち抜いた弾丸とその口径が一致したのだ。更に、マリア夫人はダンバー嬢からの手紙を手に握りしめていて、そこには「9時にソア橋の所でーG.ダンバー」と書かれていたのである。
アマゾンの熱がいつも血の中で騒いでいる位、情熱的なブラジル人のマリア夫人は、その容色に衰えをみせていて、ギブスン氏の妻への愛情は冷めてしまった。その一方で、ギブスン氏は若く魅力的なダンバー嬢に大きな関心を示していた。そのため、嫉妬深いマリア夫人はダンバー嬢を激しく憎んでいた。つまり、マリア夫人が死亡すれば、ダンバー嬢はギブスン氏の後妻として入ることができるものと考えられていた。
それらの証拠や状況等に基づき、ダンバー嬢はマリア夫人殺害の容疑で逮捕されるに至ったのである。
ギブスン氏はホームズの元を訪ねるためにロンドン市内に滞在しており、その際、彼が宿泊していたのが、クラリッジズホテル(Claridge's Hotel)であった。
当ホテルはメイフェア地区(Mayfair)にあるブルックストリート(Brook Street)とディヴィスストリート(Davies Street)が交差する南東の角に建っている。
クラリッジズホテルは、元々1812年にフランス人ミヴァール(Mivart)によって「ミヴァールズホテル(Mivart's Hotel)として創業された。当時、ロンドンには豪華な宿泊設備を有するホテルがまだなかったため、彼のホテル業は大成功をおさめた。
1854年、ミヴァールズホテルの隣のホテルを所有していたクラリッジ夫妻(Mr. and Mrs. Claridge)に売却され、両ホテルの経営が一つになったのである。そして、ホテルの名前も、現在の「クラリッジズホテル」として通用するようになった。
クラリッジ夫妻の死後、サヴォイホテル(Savoy Hotel)の創業者であるリチャード・ドイリー・カルト(Richard D'oyly Carte)が1894年にクラリッジズホテルを買い取り、サヴォイホテルグループに編入させた。当時、リフトをはじめとする現代的な設備を設置するニーズがあり、1895年に古い建物が取り壊されて、203の客室を擁する現在の壮大な建物が建設され、1898年に再オープンした。外観はヴィクトリア様式で、ロビーはアール・デコ様式の重厚な構えとなっている。
以降、クラリッジズホテルは、英国の王族や貴族をはじめ、世界各国のVIPや名士等に多く利用され、その中にはケリー・グラント(Cary Grant)、オードリー・ヘップバーン(Audrey Hepburn)、アルフレッド・ヒッチコック(Alfred Hitchcock)、ブラッド・ピット(Brad Pitt)、U2やマライア・キャリー(Mariah Carey)等が含まれている。
なお、クラリッジズホテルは、現在、メイボーングループ(Maybourne Group)が所有している。
クラリッズホテルを西側から東方面に望む― ブルックストリート沿いは車の往来が激しい |
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