2022年12月26日月曜日

アガサ・クリスティーの世界<ジグソーパズル>(The World of Agatha Christie )- その1

英国の The Orion Publishing Group Ltd. より、今年(2022年)、「アガサ・クリスティーの世界(The World of Agatha Christie)」と言うジグソーパズルが出ているので、紹介したい。


英国の Orion Publishing Group Ltd. から2022年に出ている
「アガサ・クリスティーの世界」と言うジグソーパズル(1000ピース)

アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)がデヴォン州(Devon)のダート川(River Dart)を遡った所に購入した邸宅グリーンウェイ(Greenway)の書斎(?)に居る彼女の姿を、グラフィックデザイナーの Ms. Eleni Caulcott がデザインして、イラストレーターの Mr. Ilya Milstein (ミラノ生まれで、メルボルンで育ち、現在、ニューヨーク在住)が描いたものが、ジグソーパズル(1000ピース - 縦:約50㎝ / 横:約70㎝)となっている。


12月24日(土)の夜から12月25日(日)の夕方にかけて進めた過程(その1)

12月24日(土)の夜から12月25日(日)の夕方にかけて進めた過程(その2)

12月24日(土)の夜から12月25日(日)の夕方にかけて進めた過程(その3)

12月24日(土)の夜から12月25日(日)の夕方にかけて進めた過程(その4)

本ジグソーパズルのイラスト内には、アガサ・クリスティーの生涯や彼女が執筆した作品に関連するものとして、90個にわたる手掛かりが散りばめられているので、次回以降、順番に紹介していきたい。


完成したジグソーパズル(全体図)

完成したジグソーパズル(左上部分)

完成したジグソーパズル(左下部分)

完成したジグソーパズル(右上部分)

完成したジグソーパズル(右下部分)

2022年12月25日日曜日

クリスマス 2022(Christmas 2022)

The attached stamps issued by Royal Mail on 3rd November 2022 are designed  by Baxter & Bailey, featuring the illustrations by Katie Ponder.


< Second Class - The Annunciation (受胎告知) >

< Second Class Large - Journey to Bethlehem
(ベツレヘム - キリスト生誕の地) >

< First Class - Holy Family >

< First Class Large - Angel >

< GBP 1.85 - Angel annd Shepherds >

< GBP 2.55 - Magi
((東方の三博士 - キリストの降誕を祝いに来た) 
東方の三博士>

< Miniature Sheet >

2022年12月24日土曜日

「アガサ - アガサ・クリスティーの実像」<グラフィックノベル版>(Agatha - The Real Life of Agatha Christie )- その1

英国の Metro Media Ltd. から、
Self Made Hero シリーズの一つとして、2016年に出版されている
「アガサ - アガサ・クリスティーの実像」のグラフィックノベル版の表紙

アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)は、その生涯の間に、数々の名探偵を生み出している。

なお、彼女は、1890年9月15日、米国人の実業家である父親のフレデリック・アルヴァ・ミラー(1846年-1901年)と彼の従妹である母親のクララ・ベーマー(1854年ー1926年)の次女として、英国南西部にあるデヴォン州(Devon)トーキー(Torquay)に出生した。そして、1976年1月12日、静養先であるオックスフォード州(Oxfordshire)ウォリングフォード(Wallingford)の自宅ウィンターブルックハウス(Winterbrook House)において、85歳の生涯を終えている。


(1)エルキュール・ポワロ(Hercle Poirot)- 初登場作品:長編「スタイルズ荘の怪事件(The Mysterious Affairs at Styles)」(1920年)

(2)トマス・ベレズフォード(Thomas Beresford - 愛称:トミー(Tommy))/ プルーデンス・カウリー(Prudence Cowley - 愛称:タペンス(Tuppence)- 初登場作品:長編「秘密機関(The Secret Adversary)」(1922年)

(3)ミス・ジェイン・マープル(Miss Jane Marple)- 初登場作品:(書籍として出版された順番で言うと、)長編「牧師館の殺人(Murder at the Vicarage → 2022年10月30日 / 10月31日付ブログで紹介済)」(1930年)/ (厳密に言うと、)1927年12月から雑誌に掲載された短編「火曜クラブ(The Tuesday Night Club)」→ 短編集「ミス・マープルと13の謎(The Thirteen Problems)<米題: 火曜クラブ(The Tuesday Club Murders)」(1930年)に収録

(4)ハーリー・クィン(Harley Quin)- 初登場作品:短編集「謎のクィン氏(The Mysterious Mr. Quin)」(1930年)

(5)パーカー・パイン(Parker Pyne)- 初登場作品:短編集「パーカー・パイン登場(Parker Pyne Investigates)<米題: Mr. Parker Pyne, Detective)」(1934年)


英国の Metro Media Ltd. から、
Self Made Hero シリーズの一つとして、2016年に出版されている
「アガサ - アガサ・クリスティーの実像」のグラフィックノベル版の裏表紙


上記の通り、数々の名探偵を生み出したアガサ・クリスティーの生涯を記したグラフィックノベルが出版されている。


本作品のグラフィックノベル版は、元々、Anne Martinetti と Guillaume Lebeau が構成を、そして、Alexandre Franc が作画を担当して、2014年にフランスの Hachette Livre (Marabout) から出版された後、英国の Metro Media Ltd. から、Self Made Hero シリーズの一つとして、2016年に英訳版が出版されている。


英国の Metro Media Ltd. から、
Self Made Hero シリーズの一つとして、2016年に出版された
「Agatha - The Real Life of Agatha Christie」からの一場面 -
自宅を出た後、行方不明となったアガサ・クリスティーが
運転していた自動車が、
サリー州(Surrey)内のある湖の近くに
乗り捨てられているのが発見された


本作品「アガサ - アガサ・クリスティーの実像(Agatha - The Real Life of Agatha Christie)」は、1926年12月3日に発生したアガサ・クリスティー(当時36歳)の失踪事件から始まる。


「アクロイド殺し(The Murder of Roger Ackroyd → 2022年11月7日付ブログで紹介済)」(1926年)にかかるフェア・アンフェア論争により、アガサ・クリスティーの知名度は大きく高まり、ベストセラー作家の仲間入りを果たした。


一方で、同年、アガサ・クリスティーは、最愛の母親を亡くしたことに加えて、夫であるアーチボルド・クリスティー(Archibald Christie:1889年ー1962年)に、別に恋人が居ることが判明して、精神的に不安定な状態にあった。

当時、ロンドン近郊の田園都市であるサニングデール(Sunningdale)の自宅スタイルズ荘(Styles - 「茶色の服の男(The Man in the Brown Suit → グラフィックノベル版については、2021年1月18日付ブログで紹介済)」(1924年)の出版により得たまとまった収入で購入し、処女作に因んで命名)に住んでいたアガサ・クリスティーは、同年(1926年)12月3日、住み込みのメイドに対して、行き先を告げず、「外出する。」と伝えると、当時珍しかった自動車を自分で運転して、自宅を出たまま、行方不明となってしまう。


2022年12月23日金曜日

アガサ・クリスティー マープル 2023年カレンダー(Agatha Christie - Marple - Calendar 2023)- 「鏡は横にひび割れて(The Mirror Crack’d from Side to Side)」

ビル・ブラッグ氏が描く
ミス・マープルシリーズの長編第8作目である
「鏡は横にひび割れて」の一場面

アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)の作品を出版している英国の Harper Collins Publishers 社から出ているミス・ジェイン・マープル(Miss Jane Marple)シリーズのペーパーバック版の表紙を使った2023年カレンダーのうち、9番目を紹介したい。


(9)「鏡は横にひび割れて(The Mirror Crack’d from Side to Side)」(1962年)


「鏡は横にひび割れて」は、1962年に発表されたミス・マープルシリーズの長編第8作目である。


気管支炎に罹患して、身体がひどく衰弱したミス・マープルのことを心配したヘイドック医師(Dr. Haydock)の進言もあり、甥のレイモンド・ウェスト(Raymond West)が手配したミス・ナイト(Miss Knight)が、ミス・マープルに対して、付き添いの介護をしている。

ミス・ナイトに加えて、セントメアリーミード村(St. Mary Mead)の新住宅地へ、夫のジム・ベイカー(Jim Baker)と一緒に引っ越して来たのが、チェリー・ベイカー(Cherry Baker)が、通いのメイドとして働いている。チェリー・ベイカーが、ミス・マープルのコテージ内の清掃を、また、彼女の夫のジム・ベイカーが、その他諸々の雑事を担当する。


そんな彼らの監視下をなんとか逃れたミス・マープルは、セントメアリーミード村内を散歩中に転んでしまうが、新住宅地の住民で、セントジョン野戦病院協会(St. John Ambulance)の幹事を務めるヘザー・バドコック(Mrs. Heather Badcock)に助けてもらった。

二人で紅茶を飲んでいる最中、ミス・マープルは、バドコック夫人から、「ゴシントンホール(Gossington Hall - ミス・マープルの親友であるドリー・バントリー(Dolly Bantry)が所有していた邸宅)」を購入して、最近、セントメアリーミード村に引っ越して来た米国の映画女優であるマリーナ・グレッグ(Marina Gregg)に、以前、会ったことがある。」という話を聞かされた。


セントメアリーミード村に引っ越して来たマリーナ・グレッグと彼女の夫で、映画監督であるジェイスン・ラッド(Jason Rudd)は、野戦病院協会支援のためのパーティーを開催する。

そのパーティーには、以下の人物が招待されていた。


(1)バントリー夫人

(2)ローラ・ブルースター(Lola Brewster - 米国の映画女優で、マリーナの元夫と結婚)

(3)アードウィック・フェン(Ardwyck Fenn - マリーナの友人で、以前、マリーナと交際していた過去がある)

(4)ヘザー・バドコック

(5)アーサー・バドコック(Arthur Badcock - ヘザーの夫)


パーティーの席上、バドコック夫人は、マリーナを捕まえると、長い昔話を始めた。

バドコック夫人によると、数年前にマリーナがバミューダ(Bermuda)を訪れた際、当時そこで働いていた自分と会ったことがある、とのことだった。その時、バドコック夫人は病気だったが、マリーナの大ファンだったため、病床を推して、マリーナに会いに行き、彼女からサインをもらったと言う。

バドコック夫人とマリーナの二人の会話を近くで聞いていたバントリー夫人は、バドコック夫人が話している間、マリーナが非常に奇妙な表情を浮かべていたことに気付いた。

そうこうしていると、バドコック夫人が突然倒れて、死亡してしまったのである。


スコットランドヤードのダーモット・クラドック主任警部(Chief Inspector Dermot Craddock)/ ウィリアム・ティドラー部長刑事(Sergeant William Tiddler)、そして、地元警察のフランク・コーニッシュ警部(Inspector Frank Cornish)が捜査を担当する。

検死解剖の結果、バドコック夫人の死因は、推奨量の6倍もの精神安定剤を摂取したことによるもので、その精神安定剤は、マリーナが持っていたダイキリ(daiquiri)のグラス内に混入されており、自分の飲み物をこぼしたバドコック夫人に対して、マリーナがそのグラスを手渡したのであった。

ということは、実際には、マリーナ・グレッグの命が狙われていて、バドコック夫人は、その巻き添えに会ったということなのか?


警察の捜査が進む中、更に、二人の人物が殺されることになる。



カレンダーには、野戦病院協会支援のパーティーの席上、米国の映画女優であるマリーナ・グレッグと同協会の幹事であるヘザー・バドコックが会話をしているシーンが描かれている。


Harper Collins Publishers 社から出版されている「鏡は横にひび割れて」のペーパーバック版の表紙には、ビル・ブラッグ氏(Mr. Bill Bragg)によるイラストが、バドコック夫人が飲んで死亡する原因となった推奨量の6倍もの精神安定剤が混入されたダイキリのグラスの形に切り取られているものが使用されている。


2022年12月22日木曜日

競作短編集「マープル」(Marple)- その2

英国の Harper Collins Publishers 社から今年(2022年)出版された
競作短編集「マープル」のハードカバー版の裏表紙

アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1930年に発表した「牧師館の殺人(The Murder at the Vicarage)」に初登場したミス・ジェイン・マープル(Miss Jane Marple)を主人公にして、現代の女性作家12名が競作した短編集「マープル(Marple)」が、アガサ・クリスティーの作品を出版している英国の Harper Collins Publishers 社から今年(2022年)に出ており、今回以降、上記の12作品について、個別に紹介したい。


(1)Lucy Foley 作「Evil in Small Places」


ミス・マープルは、サウスダウンズ(South Downs)を見下ろすことができる町 Meon Maltravers に住むプルーデンス・フェアウェザー(Prudence Fairweather)の家に滞在していた。ミス・マープルは、ノルウェーのフィヨルド観光の際に、プルーデンスと知り合って、今回、招待されたのである。

プルーデンスは、八百屋の娘で、奨学金を得て、教師や図書館員として働いた後、薬剤師で、彼女よりも遥かに年上の夫と結婚して、娘のアリス(Alice)を出産。夫が亡くなった後、ジョージ・フェアウェザー(George Fairweather)の秘書として働いていた際、彼と再婚。15年前にジョージは亡くなり、プルーデンスは、現在、地元の教区評議会長(head of the Parish Council)を務めていた。


一方、プルーデンスの一人娘であるアリスは、地元の地主であるサー・ヘンリー・タイスン(Sir Henry Tyson)と結婚して、現在、郊外に住んでいた。


プルーデンスが教区評議会長を務める教会の聖歌隊では、今までリーダーを務めていたプルフロック夫人(Mrs. Prufrock)を追いやって、現在、セリア・ボーテンプ(Celia Beautemps)がリーダーに就任していた。

セリア自身によると、フランス人で、年齢は40歳弱(アリスと同じ)、未婚とのことだった。彼女は、ロンドンの Guildhall School of Music and Drama を卒業した後、オペラ歌手(ソプラノを担当)をしていたが、喉の不調のために引退し、当町に移住して来たのである。


その日の夕方(午後5時半頃)、ミス・マープルが、プルーデンスに連れられて、聖歌隊の練習を見に向かう途中、仮面を付けた人物が教会から出て来て、プルーデンスにぶつかって、彼女を押し倒すと、そのまま走り去った。不審に思うミス・マープルとプルーデンスの二人が教会に入ると、そこには、殺されたセリアが倒れていた。


セリアを殺害した容疑者として、聖歌隊の中には、以下の通り、事欠かなかった。


(1)クリストファー・パルフレイ(Christopher Palfrey):詩人 / テノールを担当 / セリアと関係があった模様。

(2)アナベル・パルフレイ(Annabelle):クリストファーの妻 / 夫とセリアの関係を知っていた模様。

(3)ウッデイジ大佐(Colonel Woodage):バスを担当 / フランス人が大嫌い。

(4)プルフロック夫人:セリアに聖歌隊のリーダーから追いやられた。

(5)ゴードン・キップリング(Gordon Kipling):バスを担当 / セリアに自分の猟犬3匹を殺されたと疑っている。


果たして、セリアを殺害した犯人は、誰なのか?


(2)Val McDermid 作「The Second Murder at the Vicarage」


アガサ・クリスティーが1930年に発表したミス・マープルシリーズの第1作目に該る「牧師館の殺人(The Murder at the Vicarage)」の続編となっている。


ロンドン郊外のセントメアリーミード(St. Mary Mead)という小さな村にある教会の司祭(vicar)であるレナード・クレメント牧師(Reverend Leonard Clement)と若き妻のグリゼルダ(Griselda)の間には、長男のデイビッド(David)が生まれていた。そして、彼の甥のデニス(Dennis)は、見習いの巡査(probationary police constable)になっていた。


妻のグリゼルダは、デイビッドを自分の両親に見せるため、メイドのフローラ(Flora)を伴って、両親が住むチッピングマルベリー(Chipping Marlbury)へと出かけて、不在だった。

留守を預かるクレメント牧師は、牧師館のキッチンにおいて、元メイドのメアリー・ヒル(Mary Hill)が殺されているのを発見した。彼女は、以前、牧師館でメイドとして働いていたが、料理の出来が非常に悪く、暇を出されていたので、殺害された時点で、彼女は既に牧師館のメイドではなかった。彼女は、何者かにフライパンで頭を殴打されていたのである。元メイドの彼女が、何故、牧師館のキッチンに居たのか?


それで、牧師館において、殺人事件が発生したのは、2回目となった訳だ。


その上、メアリーと関係があったと思われる密猟者(poacher)のビル・アーチャー(Bill Archer)が、自宅において、野生のマッシュルームを食べて、死亡しているのが、見つかったのである。

地元警察のスラック警部(Inspector Slack)が捜査を始めるが、又もや、ミス・マープルの手助けが必要だった。


(3)Alyssa Cole 作「Miss Marple Takes Manhattan」


ミス・マープルは、甥のレイモンド・ウェスト(Raymond West)と妻のジョアン(Joan)に連れられて、ニューヨークへと来ていた。レイモンドは、自分の小説が、劇場で上演されることで、鼻高々だった。

レイモンドとジョアンに、ホテルでおとなしくしてしているように言われたが、二人の不在中に、ミス・マープルは、ホテルの向かい側にあるデパートへと出かけて、ニューヨーク滞在を楽しんだ。


その後、ミス・マープル、レイモンドとジョアンの3人は、劇場へと観劇に出かけた。彼らが劇場に到着すると、そこは、演劇の本場であるブロードウェイ(Broadway)ではなく、ウェストブロードウェイ(West Broadway)だった。やや意気消沈するレイモンドを、ミス・マープルは慰める。


彼らが劇場に入ると、出演者の一人である男性が、床の上にうつ伏せになって倒れたまま、全く動かなかった。彼は、濡れた室内履きのスリッパという状態だった。どうやら、彼は、感電死のようなのだ。


2022年12月21日水曜日

コナン・ドイル作「孤独な自転車乗り」<小説版>(The Solitary Cyclist by Conan Doyle )- その2

英国で出版された「ストランドマガジン」
1904年1月号に掲載された挿絵(その2) -

ヴァイオレット・スミス嬢が、自転車に乗って、
毎週土曜日、チルタン屋敷からフォーナム駅へと行く際、
また、翌週の月曜日、ファーナム駅からチルタン屋敷へと戻る際、
チャーリントン荒野とチャーリントン屋敷を取り囲む森に挟まれた
1マイル以上の特に寂しい道において、
短い顎鬚を生やした黒ずくめの男が、
自転車で彼女の後をつけていることに気付いて、
非常に不安になった。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット
(Sidney Edward Paget 1860年 - 1908年)

「孤独な自転車乗り」事件は、1895年4月23日(土)、音楽の家庭教師をしているヴァイオレット・スミス嬢(Miss Violet Smith)が、ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)のシャーロック・ホームズの元を訪れるところから始まる。


ヴァイオレット・スミス嬢によると、彼女の父親であるジェイムズ・スミス(James Smith)は、旧帝国劇場(Imperial Theatre)において、オーケストラの指揮者を務めていたが、亡くなったため、彼女と彼女の母親は、身寄りのない上に、非常に貧しい状態となり、親類は、叔父のラルフ・スミス(Ralph Smith)ただ一人であった。ただし、ラルフ叔父は、25年前にアフリカへと行き、それ以降、消息不明のままだった。

昨年(1894年)12月のある日、彼女達は、タイムズ紙上に自分達の所在を尋ねる広告が掲載されているのを見て、誰かが自分達に遺産を残してくれたものと喜び、直ぐに弁護士のところへと出かけた。

彼女達は、弁護士の事務所において、南アフリカから英国へと戻ったカラザース氏(Mr. Carruthers)とウッドリー氏(Mr. Woodley)に会った。彼らは、ラルフ叔父の友人で、数ヶ月前に、ラルフ叔父は、ヨハネスブルグにおいて、貧しいまま亡くなったが、その際、ラルフ叔父から、「親類(=彼女達のこと)を探し出して、面倒をみてやってほしい。」と頼まれた、とのことだった。


自分に対して色目を使うウッドリー氏に対して、ヴァイオレット・スミス嬢は、非常な嫌悪感を抱いたが、年長のカラザース氏は、感じのよい人物で、好印象だった。

彼女達の懐状況を知ると、カラザース氏は、ヴァイオレット・スミス嬢に対して、サリー州(Surrey)ファーナム(Farnham)から約6マイルのところにあるチルタン屋敷(Chiltern Grange)に住み込んで、彼の一人娘(10歳)に音楽を教えてほしいと提案してきた。カラザース氏は、妻に先立たれていたので、ディクスン夫人(Mrs. Dixon)という年配の女性を家政婦として雇っていた。

ヴァイオレット・スミス嬢は、「母親を一人にはしたくない。」と言うと、

カラザース氏は、「毎週末、家へ戻れば、問題ないのでは?」と答え、更に、「年に100ポンドを払う。」と申し出た。カラザース氏の申し出は、素晴らしい内容だったので、ヴァイオレット・スミス嬢は、それを了承して、話がまとまった。


早速、ヴァイオレット・スミス嬢は、チルタン屋敷に住み込んで、カラザース氏の一人娘に音楽を教えるとともに、毎週土曜日、住み込みの屋敷からロンドンの母親の元へ帰り、翌週の月曜日に屋敷へ戻って来る生活を始めた。彼女が住み込みの音楽の家庭教師を始めてから、数ヶ月が経過したが、基本的には、問題はなかった。


ただし、ヴァイオレット・スミス嬢には、気にかかることが、2つあった。


一つは、カラザース氏は申し分のない紳士であったが、チルタン屋敷に客人としてやって来るウッドリー氏は、下品な男の上に、彼女に対して、露骨に色目を使ってくるので、非常に不快であった。


もう一つは、彼女は、毎週土曜日の午前中、12時22分発の上り列車に乗るために、チルタン屋敷からファーナム駅(Farnham Station)まで、自転車で向かい、翌週の月曜日に、ファーナム駅からチルタン屋敷まで、自転車で戻って来る。

チルタン屋敷からファーナム駅までの行き帰りは寂しい道であった。片側がチャーリントン荒野(Charlington Heath)で、もう一方の側のチャーリントン屋敷(Charlington Hall)を森が取り囲む場所は、1マイル以上続く特に寂しいところで、彼女は、駅までの行き帰り、短い顎鬚を生やした黒ずくめの男が、自転車で彼女の後をつけていることに気付き、非常に不安だった。


2022年12月20日火曜日

アガサ・クリスティー マープル 2023年カレンダー(Agatha Christie - Marple - Calendar 2023)- 「パディントン発4時50分(4:50 from Paddington)」

ビル・ブラッグ氏が描く
ミス・マープルシリーズの長編第7作目である
「パディントン駅発4時50分」の一場面

アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)の作品を出版している英国の Harper Collins Publishers 社から出ているミス・ジェイン・マープル(Miss Jane Marple)シリーズのペーパーバック版の表紙を使った2023年カレンダーのうち、8番目を紹介したい。


(8)「パディントン発4時50分(4:50 from Paddington)」(1957年)


「パディントン発4時50分」は、1957年に発表されたミス・マープルシリーズの長編第7作目で、米国では、「マギリカディー夫人が目撃した殺人(What Mrs McGillicuddy Saw!)」というタイトルで出版されている。


ロンドン市内でクリスマス用の買い物を終えたエルスペス・マギリカディー夫人(Mrs. Elspeth McGillicuddy)は、セントメアリーミード(St. Mary Mead)に住む友人のミス・ジェイン・マープルに会いに行くために、パディントン駅(Paddington Station → 2014年8月3日付ブログで紹介済)発午後4時50分の列車に乗った。

彼女が乗った列車は、隣りの線路を同じ方向へ走る列車に並んだ。並走する列車のある車窓のブラインドが上がっており、マギリカディー夫人は、そこに驚くべき瞬間を目撃した。なんと、こちらに背中を向けた男が、金髪の女性の首を絞めている現場だったのである。

すぐさま、マギリカディー夫人は、車掌に対して、今目撃した内容を報告した。


ミス・マープルの家を訪れたマギリカディー夫人は、彼女にも、列車内で目撃した内容を話した。マギリカディー夫人から経緯を聞いたミス・マープルは、彼女の話を信じたが、翌日の朝刊には、それらしき記事が載っていなかった。

ミス・マープルとマギリカディー夫人の2人は、地元の警察を訪ねて、事件の経緯を話したものの、警察による捜査の結果、列車内にも、線路周辺にも、該当する女性の死体は発見されなかった。


上記の結果を受けて、ミス・マープルは、殺人犯は列車内で絞殺した女性の死体を列車から投げ落としたものと考えた。そうすると、ブラックハンプトン駅の手前で線路が大きくカーブしている地点にあるラザフォードホール(Rutherford Hall)が、正にその場所だと思われた。ラザフォードホールは、現在、クラッケンソープ家(Crackenthorpe family)が所有していた。


そこで、ミス・マープルは、旧知の家政婦で、若いベテラン料理人であるルーシー・アイルズバロウ(Lucy Eyelesbarrow)に対して、クラッケンソープ家の家政婦として潜入して、マギリカディー夫人が目撃した女性の死体を探すように依頼した。

ミス・マープルの依頼に興味を覚えて、クラッケンソープ家の家政婦として採用されたルーシー・アイルズバロウは、数日後、ラザフォードホールの納屋の中にある石棺内に、マギリカディー夫人が目撃した女性の死体を発見したのである。



カレンダーには、ロンドンのパディントン駅を午後4時50分に出た列車に乗るエルスペス・マギリカディー夫人が、隣りの線路を同じ方向へ並走する列車のある車窓内で、こちらに背中を向けた男が、金髪の女性の首を絞めている瞬間を目撃するシーンが描かれている。

Harper Collins Publishers 社から出版されている「パディントン駅発4時50分」のペーパーバック版の表紙には、ビル・ブラッグ氏(Mr. Bill Bragg)によるイラストが、列車の乗車券の形に切り取られているものが使用されている。