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東京創元社から創元推理文庫として出版された ジョン・ディクスン・カー作「アラビアンナイトの殺人」の表紙 (カバー:山田 維史) |
今回は、ジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)作「アラビアンナイトの殺人(The Arabian Nights Murders)」について、紹介したい。
「アラビアンナイトの殺人」は、米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カーが1936年に発表した推理小説で、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)が登場するシリーズ第7作目に該る。
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英国の Orion Books 社から出版されている ジョン・ディクスン・カー作「三つの棺」の表紙 (Cover design & illustration : obroberts) |
なお、「アラビアンナイトの殺人」の前作で、ギディオン・フェル博士シリーズの第6作目に該るのは、「三つの棺(The Three Coffins 英題: The Hollow Man → 2020年5月3日 / 5月16日 / 5月23日 / 6月13日 / 6月20日付ブログで紹介済)」(1935年)。また、「アラビアンナイトの殺人」の次作で、ギディオン・フェル博士シリーズの第8作目に該るのは、「死者はよみがえる(To Wake the Dead)」(1937年)。「三つの棺」は、ジョン・ディクスン・カーによる数ある密室ミステリーの中でも、最高峰と評されている不朽の名作である。
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早川書房からハヤカワミステリ文庫として出版された ジョン・ディクスン・カー作「三つの棺」の表紙 (カバーデザイン:山田 維史) 原作を既に読んだ人にはお判りになるかと思うが、 推理小説として、この表紙の内容は、非常に掟破りの内容を言える。 |
ある年の夏(6月14日(金))の夜(午後11時頃)、ヴァインストリート署のホスキンズ巡査部長は、彼の担当区であるロンドンのセントジェイムズストリート(St. James’s Street → 2021年7月24日付ブログで紹介済)近辺を巡回中だった。
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セントジェイムズストリートの西側から東側を見たところ - 画面右奥斜めに延びる通りは、ジャーミンストリート (Jermyn Street → 2016年7月24日付ブログで紹介済)。 <筆者撮影> |
ホスキンズ巡査部長は、セントジェイムズストリートを折れ、クリーヴランドロウ(Cleveland Row)へ入り、西へ向かった。
クリーヴランドロウには、ウェイド博物館(Wade Museum - セントジェイムズ宮殿(St. James’s Palace)から広場一つ隔てたところにあり)が所在。ウェイド博物館は、大富豪であるジェフリー・ウェイドが10年程前に開設した私立博物館で、中近東の陳列品(Oriental Art)を展示する他、初期の英国製馬車で、素晴らしい逸品も保存していた。
ホスキンズ巡査部長がウェイド博物館の前を通り掛かったところ、建物の高い塀の上に、年寄り染みた男が腰掛けているのが見えた。彼は、痩せてのっぽで、フロックコートを羽織り、頭にシルクハットを横冠りにしていた。両頬から顎にかけて、真っ白い髭を伸ばしていた。また、大きな角ぶちの眼鏡を掛けていた。
ホスキンズ巡査部長がその男へ向けて角灯の光をあて、職務質問をすると、男が急に塀の上から飛び降りてきた。一度はどさりと倒れたが、直ぐに起き上がると、その男はホスキンズ巡査部長に対して、
「きさま、あの男を殺したな。わるいやつだ。このペテン師め!わしは、きさまが馬車のなかにいるのを、ちゃんと見てしまったんだぞ。」(宇野 利泰訳)
と言うと、襲い掛かってきたのである。
ホスキンズ巡査部長とその男は取っ組み合いになったが、ホスキンズ巡査部長が男の顎を狙って殴り付けると、意外や、男は簡単に崩れ折れてしまった。その際、その男の頬髭は、付け髭で、偽物であることが判った。
案外簡単に、男が倒れてしまったことに驚いたホスキンズ巡査部長は、直ぐ近くのパル・マル通り(Pall Mall → 2016年4月30日付ブログで紹介済)を巡回中のジェイムスン巡査に助けを求めようとした。ホスキンズ巡査部長は、ジェイムスン巡査に男の見張りを頼み、その間に、自分は電話を掛けに行こうとしたのである。
ホスキンズ巡査部長は、男の身体を舗道と車道の境の窪みに横たえ、頭を縁石の上に乗せた。
ホスキンズ巡査部長が、パル・マル通りへと歩き出して、少しして後ろを振り返ると、驚くことに、倒れていた男の姿が消え失せていたのである。
夕暮れが迫るパル・マル通り <筆者撮影> |
ホスキンズ巡査部長は、奇々怪々な出来事に遭遇した訳であるが、それはとんでもない大事件の発端であった。
この人間消失の謎の後、ヴァインストリート署勤務のジョン・カラザーズ警部(Inspector John Carruthers)がウェイド博物館を訪れたところ、博物館内に置かれた馬車の中から、男性の死体が転げ出した。
彼は黒っぽい長外套を着込んでおり、上着の下の胸の左側がちだらけで、白柄の短剣が突き刺さっていた。頭には、トップハットが被せてあった。不思議なことに、その男性は、顎につけ髭を付けていたのである。
天下の奇書アラビアンナイトの構成にならって、スコットランドヤードのお歴々である(1)ヴァインストリート署勤務のジョン・カラザーズ警部、犯罪捜査部(CID)のデイヴィッド・ハドリー警視(Superintendent David Hadley)と(3)副総監であるハーバート・アームストロング卿が、三人三様の観察力と捜査法を駆使して、この事件を解説する。
彼らの話の聞き手は、南フランスで4ヶ月間の休暇を楽しんで、アデルフィテラス1番地(1 Adelphi Terrace)の自宅に戻ったばかりのギディオン・フェル博士。
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サヴォイテラスから見上げたアデルフィテラス <筆者撮影> |
アデルフィテラスにある 「アデルフィ(The Adelphi)」と呼ばれる新古典主義の集合住宅(テラスハウス)の記念碑 <筆者撮影> |
ギディオン・フェル博士は、一晩かかって、彼らの話を聞いた後、事件の謎を解き明かすのであった。

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