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HarperCollins Publishers 社から2008年に出ている アガサ・クリスティー作「秘密機関」の グラフィックノベル版の本編1ページ目の1コマ (Adapted by Mr. Francois Riviere / Illustrated by Mr. Frank Leclercq)- 旅客船ルシタニア号が、アイルランドの沖合いで沈没する場面が描かれている。 |
アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)の長編第2作目で、かつ、は、トマス・ベレズフォード(Thomas Beresford - 愛称:トミー(Tommy))とプルーデンス・カウリー(Prudence Cowley - 愛称:タペンス(Tuppence))の記念すべきシリーズ第1作目に該る「秘密機関(The Secret Adversary)」(1922年)の物語冒頭(Prologue)は、旅客船ルシタニア号(RMS Lusitania)で始まる。
1915年5月7日、午後2時。汽船ルシタニア号はドイツの潜水艦が発射した2発の魚雷を受けて、大西洋に沈みはじめた。すぐに救命ボートが下ろされ、女性と子どもたちが一列にならんだ。何人かは夫や父親にしがみついたり、しっかり抱きしめられていた。その列から少し離れたところに一人の女性が立っていた。18歳ぐらいの若い女性で、怖がっている様子はなく、落ち着いて前を見つめていた。
(嵯峨 静江訳)
旅客船ルシタニア号は、実在の船である。
なお、「RMS」は「Royal Mail Ship / Royal Mail Steamer」の略で、「英国郵便汽船」を意味する艦船接頭辞となっている。
ルシタニア号は、英国の海運会社であるキュナードライン(Cunard Line)が所有する英国船籍のオーシャンライナー(Ocean Liner)だった。
キュナードラインは、世界最大のクルーズ客船運行会社であるカーニヴァルコーポレーション(Carnival Corporation - 二元上場会社で、米国のマイアミ(Miami)と英国のロンドンに本社が所在)の傘下にあった。
ルシタニア号は、スコットランドの造船会社であるジョン・ブラウン・アンド・カンパニー(John Brown and Company)によって建造され、1906年6月7日に進水式を迎えた。
同船が建造された際、必要に応じて、武装商巡洋艦へ改造できると言う条件の下、建造費と運営費について、英国政府から補助金が支払われた。
ルシタニア号は、当時世界最大の旅客船で、就航後、定期航路に就き、旅客輸送、郵便物輸送や貨物郵送を行っていた。
第一次世界大戦(1914年ー1918年)が勃発すると、ルシタニア号や他の大型旅客船がドイツ海軍の標的になるのではないかと言う懸念が高まった。
そのため、ルシタニア号は、第一次世界大戦勃発後の最初の航路において、船の正体を隠して、視覚的に発見されにくくするために、全体をくすんだ灰色で塗装された。
一方で、英国海軍本部は、当初の計画通り、ルシタニア号を武装商巡洋艦への転用を検討したが、英国海軍が制海権を得て、ドイツ帝国海軍(Imperial Germany Navy)を牽制できるようになると、航路への脅威がほぼ完全になくなり、ルシタニア号や他の大型旅客船は、もう安全であると考えられた。
第一次世界大戦勃発の翌年の1915年5月7日、ルシタニア号は、運命の日を迎える。
同船は、米国ニューヨーク(New York)から英国リヴァプール(Liverpool)へと向かっていた。

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