2022年2月12日土曜日

アンソニー・ホロヴィッツ作「絹の家」(The House of Silk by Anthony Horowitz) - その3

2015年10月に角川文庫として出版されている
アンソニー・ホロヴィッツ作 / 駒月 雅子訳
「シャーロック・ホームズ 絹の家」の文庫版
(カバーイラスト : 西山 寛紀 氏 / カバーデザイン : 須田 杏菜 氏)


読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆☆☆(4.0)


「瀕死の探偵(The Dying Detective)」事件で衰弱したシャーロック・ホームズの体調を気遣ったジョン・H・ワトスンがベーカーストリート221Bを訪れるところから、物語が始まる。「緋色の研究(A Study in Scarlet → 2021年5月11日 / 5月19日付ブログで紹介済)」や「恐怖の谷(The Valley of Fear)」の長編のように、米国における因縁話がベースになっているものの、そこから別の事件が大きく絡んできて、最後には、元の話に戻ってくるという構造になっており、一本の流れとして、うまく纏め上げられている。


(2)物語の展開について ☆☆☆☆(4.0)


派手な展開はないが、上記の通り、物語は一本の流れにうまく纏め上げられている。作者のアンソニー・ホロヴィッツ(Anthony Horowitz:1955年ー)は、ITV1 で放映されている「バーナビー警部(Midsomer Murders)」や「刑事フォイル(Foyle’s War)」等の脚本を書いている(エルキュール・ポワロシリーズにも参加)ので、なかなか手堅い。

ただ、途中から大きく絡んでくる事件が、ホームズ作品としては、かなりショッキングな内容で、近年、英国において、似たような問題が新聞で頻繁に騒がれており、そういった意味では、昔からあったことなのであろう。また、ワトスンが世間に公表するのを渋ったうまい理由付けになっている。


(3)ホームズ / ワトスンの活躍について ☆☆☆半(3.5)


諸々の理由により、英国政府、特に、兄のマイクロフト・ホームズ(Mycroft Holmes)による手助けを期待できない中、ホームズは孤独な闘いを強いられる。最後には、全ての真相に到達するものの、ベーカーストリート不正規隊(Baker Street Irregulars)のロス(Ross)に行方をくらませられたり、また、その後、捜査のためにアヘン窟に潜入して、敵に捕まり、身に覚えがない殺人の罪を着せられる等、物語の展開上、必要な流れなのかもしれないが、若干、ホームズらしくない気がしてしまう。


(4)総合評価 ☆☆☆☆(4.0)


「ドラキュラ伯爵(Count Dracula)」、「ジキル博士とハイド氏(Dr. Jekyll & Mr. Hyde)」や「切り裂きジャック(Jack the Ripper)」等の有名な対決相手もなしで、あくまでもホームズものという枠組みの内で執筆された作品で、若干ホームズらしからぬと思える箇所はあるものの、非常に手堅く、かつ、うまく纏め上げられている。コナン・ドイル財団(Conan Doyle Estate Ltd.)の初公認作品とされるだけのレベルを兼ね備えていると言える。



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