|
ストランドマガジン」の1924年1月号 に掲載された コナン・ドイル作「サセックスの吸血鬼」の挿絵(その3) <ハワード・ケッピー・エルコック(Howard Keppie Elcock:1886年 - 1952年)によるイラスト> - シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンの二人が ファーガスン家に到着した後、 ワトスンが後妻のファーガスン夫人の寝室を訪れた場面が描かれている。 画面左手前の人物がワトスンで、画面右手前の人物がファーガスン夫人。 そして、画面左手奥の人物が、 ファーガスン夫人付きのメイドであるドロレス。
|
サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作「サセックスの吸血鬼(The Sussex Vampire)」は、ホームズシリーズの56ある短編小説のうち、48番目に発表された作品で英国では、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1924年1月号に、また、米国でも、「ハーツ インターナショナル(Heart’s International)」の1924年1月号に掲載された。そして、ホームズシリーズの第5短編集である「シャーロック・ホームズの事件簿(The Casebook of Sherlock Holmes)」(1927年)に収録された。
本作品は、英国のグラナダテレビ(Granada Television Limited)が制作した「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」(1984年ー1994年)において、TV ドラマとして映像化された。具体的には、第5シリーズ(The Casebook of Sherlock Holmes)と第6シリーズ(The Memoirs of Sherlcok Holmes)の間の長編3部作の第2エピソード(通算では第34話)として、1992年に撮影の上、英国では、1993年1月27日に放送されている。
主な配役は、以下の通り。
(1)シャーロック・ホームズ → ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett:1933年ー1995年)
(2)ジョン・ワトスン → エドワード・ハードウィック(Edward Hardwicke:1932年ー2011年)
(3)ジョン・ストックトン(John Stockton:作家) → Roy Marsden
(4)ロバート・ファーガスン(Robert Ferguson:紅茶仲買商) → Keith Barron
(5)カルロッタ・ファーガスン(Carlotta Ferguson:ロバート・ファーガスンの後妻) → Yolanda Vasquez
(6)オーガスタス・メリデュー(Augustus Merridew:牧師) → Maurice Denham
(7)ジャック・ファーガスン(Jack Ferguson:ロバート・ファーガスンの長男で、先妻の子供) → Richard Dempsey
(8)ドロレス(Dolores:カルロッタ・ファーガスン付きのメイド) → Juliet Aubrey
(9)メースン夫人(Mrs. Mason:ファーガスン家の家政婦) → Elizabeth Spriggs
(10)マイケル(Michae:メースン夫人の息子で、ファーガスン家の廐務員) → Jason Hetherington
グラナダテレビは、短編である本作品の内容を2時間近い長編「最後の吸血鬼(The Last Vampyre)」として映像化し、新キャラクターとして、謎多き作家のジョン・ストックトンを登場させ、かなりの改変を加えている。
作家ジョン・ストックトンがペルーからサセックス州(Sussex)ランバリー村(Lamberley)を訪れた以降、村人達は非常に不安な日々を送っていた。
まず最初に、ジョン・ストックトンが、彼の馬車の修理について、鍛冶屋(blacksmith)のカーター(Mr. Cater)との間で諍いを起こした。その後、ジョン・ストックトンが馬車でその場から立ち去る際、彼が振り向きざまにカーターを睨み付けると、カーターは突然血を吐いて即死してしまった。
次に、ジョン・ストックトンが、同じくペルーから帰国したファーガスン家の晩餐に招かれた際、彼がロバート・ファーガスンの次男の赤ん坊に触れると、その後、赤ん坊は亡くなってしまったのである。
検死の結果、鍛冶屋のカーターの死は、肥満と過度の飲酒による脳内出血(haemorrhage)が、ロバート・ファーガスンの次男の赤ん坊の死は、肺炎(pneumonia)が原因とされた。
ところが、村人達はこの検死結果に納得できず、ジョン・ストックトンは吸血鬼であるという噂が、村中に広まりつつあった。
吸血鬼の噂で動揺している村人達のことを案じたオーガスタス・メリデュー牧師は、モリスン、モリスン&ドッド法律事務所(Morrison, Morrison & Dodo)経由、シャーロック・ホームズに対して、事件の調査を依頼した。
吸血鬼の存在を信じないホームズとジョン・H・ワトスンであったが、メリデュー牧師の話を聞いた結果、依頼を引き受けることになった。
メリデュー牧師によると、ジョン・ストックトンは、ランバリー村の大地主であるセントクレア卿(Lord St. Clair)の子孫とのこと。
セントクレア卿は非常に残酷な性格で、彼に逆らう者に対して、惨たらしい死を与え、村人達から恐れられていた。しかし、彼の若いメイドが身籠ったまま、教会に捨て置かれたことが発端となり、村人達の怒りが頂点に達して、セントクレア卿は、怒り狂った村人達によって、屋敷ともども焼き討ちに会うことになった。100年程前のことである。
ジョン・ストックトンによると、彼の先祖の墓を探すために、ランバリー村に来たということだった。セントクレア今日のメイドが身籠った子供は生き延びて、今でもその子孫達がランバリー村に暮らしているという。メリデュー牧師は、ジョン・ストックトンが、彼の先祖の復讐のために、ランバリー村にやって来たのではないかと疑っていたのである。
英国 TV ドラマ版の人物設定は、概ね、コナン・ドイルによる原作をベースにしているが、以下のような相違点がある。
・作家ジョン・ストックトンとオーガスタス・メリデュー牧師は、英国 TV ドラマ版用の新キャラクターである。
・モリスン、モリスン&ドッド法律事務所経由、ホームズに対して、事件の調査依頼をしてきたのは、コナン・ドイルによる原作では、ロバート・ファーガスンであるが、英国 TV ドラマ版では、メリデュー牧師に変更されている。
・コナン・ドイルによる原作では、ロバート・ファーガスンの後妻は、ファーガスン夫人(Mrs. Ferguson)としか呼ばれていないが、英国 TV ドラマ版では、「カルロッタ」という名前が与えられている。
・メースン夫人は、コナン・ドイルによる原作では、ロバート・ファーガスンの次男の赤ん坊の乳母となっているが、英国 TV ドラマ版では、ファーガスン家の家政婦という設定に変更されている。
・ファーガスン家の廐務員であるマイケルについて、コナン・ドイルによる原作では、メースン夫人との関係は全く言及されていないが、英国 TV ドラマ版では、メースン夫人の息子という設定になっている。
・ロバート・ファーガスンの次男の赤ん坊について、コナン・ドイルによる原作では、性別や名前は全く言及されていないが、英国 TV ドラマ版では、次男で、「リカルド(Ricardo)」という名前も与えられている。また、コナン・ドイルによる原作では、赤ん坊は亡くならないが、英国 TV ドラマ版では、検死上、肺炎が原因で亡くなってしまう。
グラナダテレビとしては、コナン・ドイルの原作を忠実に映像化した場合、退屈な内容になってしまうであろうと考えて、かなりの改変を加えたものと思われるが、
(1)短編だった内容を2時間近い長編に引き伸ばしていること
(2)人物設定は、概ね、コナン・ドイルによる原作をベースにしているものの、物語自体は、コナン・ドイルによる原作から大幅に改変されていること
(3)全編を通じて、ホームズが受動的 / 非活動的であること
(4)物語は、オカルトめいた内容のまま進み、最後もハッキリとしない結論のままであること
(5)そのため、ホームズによる推理の冴えが全く見られないこと
等から、視聴しているうちに、途中から非常な退屈感を覚えてしまう。正直ベース、二度三度と繰り返して視聴するには適さない作品であり、グラナダテレビによる原作改変は、逆に、失敗だったのではないかと、個人的には考える。