2015年に光文社から光文社文庫として出版された 笠井 潔作「吸血鬼と精神分析(上)(下)」の表紙 (カバーデザイン: 坂野 公一 / welle design) |
1978年11月19日(土)、バスティーユ広場の裏側に位置する狭い街路にある建物の4階の「要塞」のようなアパルトマンにおいて、ウラジミール・カリーニンという名の60歳程に見える男性が、背中に二発の銃弾を喰らい殺害されたが、その1週間後から、被害者の女性達が全身の血を抜かれる連続猟奇殺人、通称<吸血鬼(ヴァンピール)>事件が発生して、パリの住民達を震撼させる。
<11月26日(土)>
まだ暗いうちに犬の散歩に出かけた老人が、ヴァンセンヌの森にあるドメニル池の横で、黒焦げになった女性の屍体を発見。ただし、死因は焼死ではなく、大量失血によるショック死であった。被害者は、カトリーヌ・ドゥミ(28歳)で、ボルドー地方の出身。高等専門学校の受験準備のため、パリに上京し、2年前からラスパイユのアパルトマンに一人で住んでおり、現在、サンティエにある証券会社に勤務。金曜日の午後7時に会社を退社し、ラスパイユの自宅へ帰宅する途中で被害にあった模様。
<12月3日(土)>
早朝、パストゥールの小さな珈琲店「鷲の翼」の横にある昼でも薄暗い路地において、女性の屍体が発見される。死因は、カトリーヌ・ドゥミと同じく、頸動脈から多量の血液を吸引されたことによる脱血死。被害者は、ジャンヌ・メルマン(34歳)で、出身はパリだが、両親とは別居。20区の区立中学の教師で、勤め先から歩いて10分程のポルト・デ・リラのアパルトマンに一人で住んでいた。金曜日の午後6時過ぎに学校を出て、自宅まで歩いて帰る途中で、犯人と遭遇した模様。
<12月10日(土)>
バスティーユ広場に通じるロケット街の白馬小路で、若い女性の屍体が発見された。死因は、カトリーヌ・ドゥミやジャンヌ・メルマンと同じ。被害者は、ドミニク・ラバン(18歳)で、パリ近郊のナンテール出身。彼女は、1年程前に家出をしており、現在の住所、職業や交友関係等は不明。
パリ警視庁のルネ・モガール警視と部下のジャン=ポール・バルベス警部による必死の捜査にもかかわらず、3人の被害者の間に、何ら関連性は見つからなかった。
ルネ・モガール警視の娘であるナディア・モガールに頼まれて、バルベス警部から事件の詳細の説明を受けた矢吹駆(ヤブキ・カケル)は、あることを指摘する。
カトリーヌ・ドゥミの屍体と一緒に発見されたバッグの奥に、犯人が意図的に残したと思われる鎖の切れたキーホルダー(日本製)には、「ムーミントロール」の飾りが付いていた。また、ジャンヌ・メルマンの屍体が発見されたのは、珈琲店「鷲の翼」の横にある路地。更に、ドミニク・ラバンの屍体が発見されたのは、白馬小路。
つまり、<ヴァンピール>は、3つの屍体に、「ムーミントロール」、「鷲」、そして、「白馬」という動物の徴を添えたことになる。ただし、厳密に言うと、「ムーミントロール」は、フィンランドの妖精をモデルとする架空の動物であり、フランス人であれば、一般に知られていることであった。
<ヴァンピール>事件はまだ終わりを見せず、12月17日(土)には、セーヌ河の「白鳥の散歩道」において、ルーマニアから亡命した元女子体操代表選手のタチアナ・マグレアヌが全身から血を抜かれ、殺害されているのが発見されされる。
ルーマニア軍の元高級将校であるグレゴリ・チモフチェの射殺事件と連続する<ヴァンピール>事件との間の関連性は?
やがて、矢吹駆は、犯人の正体と意図を導き出し、驚愕の真相を明らかにする。
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