2021年2月13日土曜日

ジョーゼフ・シェリダン・レ・ファニュ作「吸血鬼カーミラ」(Carmilla by Joseph Sheridan Le Fanu) - その2

英国のプーシキン出版(Pushkin Press)から刊行されている
ジョーゼフ・シェリダン・レ・ファニュ作「吸血鬼カーミラ」の裏表紙
(Designed by Tetragon London)


ローラ(Laura)が奇妙な体験をしてから12年が経過したある夏の晩から、本題が始まる。

父娘と親交のあるスピエルスドルフ将軍(General Spielsdorf)から、ローラの父親の元に手紙が届く。その手紙は、ローラが友人となるべく心待ちにしていた将軍の姪であるバーサ・ラインフェルド嬢(Mademoiselle Bertha Rheinfeldt)が死亡したことを告げる内容だった。将軍は姪のことを我が子のように溺愛していたため、姪の死にかなり取り乱している様子だったが、それに加えて、「怪物を見つけ出して退治する。」という不可解なことも書かれていたのである。


スピエルスドルフ将軍から受け取った手紙の内容について、ローラが城の前で考えを巡らせていた時、突然、暴走した馬車が城の方へと向かって来た。馬車は菩提樹の木にぶつかると、横転した。横転した馬車の中から、気絶した美しい少女が運び出される。同じく、馬車に同乗していた貴族然とした美しい女性が外に出て来ると、

(1)自分は、気絶した少女の母親であること

(2)現在、自分は、急ぎの旅の途中であり、このまま旅を続ける必要があること

(3)気絶した少女をこのままにしておけないので、どこかに預けたいこと


等を、ローラの父親に話す。生憎と、城に近い村までかなり距離がある上、その村には宿がないため、気絶した少女は、城で預かることになった。少女の母親と称する女性は、ローラの父親に対して、「3ヶ月後に娘を迎えに戻って来る。」と約束すると、自分達の素性を探らないように念を押して、城から去って行った。


城へと運ばれた少女は、間もなく目を覚ましたので、寂しさを紛らわす相手を欲しかったローラは、真っ先に少女に会いに行った。驚いたことに、ローラが会いに行った少女は、何故か、12年前に彼女の部屋に現れた女性と瓜二つだった。


その日から、ローラは、カーミラ(Carmilla)と名乗る少女と一緒に、生活を共にするようになったが、彼女には、いくつかの不可解な点があった。それに加えて、カーミラが城での生活を始めてから、城周辺の村では、数々の異変が起き始めた。


本作品「吸血鬼カーミラ(Carmilla)」を執筆する上で、作者のジョーゼフ・シェリダン・レ・ファニュ(Joseph Sheridan Le Fanu:1814年ー1873年)は、アイルランドの吸血鬼伝奇をベースにしている。

吸血鬼カーミラの特徴である(1)貴族的であること、(2)美形であること、(3)棺桶で眠ることや(4)心臓に杭を打たれると死ぬこと等は、ブラム・ストーカー(Bram Stoker)こと、エイブラハム・ストーカー(Abraham Stoker:1847年ー1902年)による吸血鬼ドラキュラ(Dracula)の造形に引き継がれて、以降の吸血鬼作品は、これらに倣っている。


レ・ファニュ作「吸血鬼カーミラ」は、ブラム・ストーカー作「吸血鬼ドラキュラ」と同様に、ジャンル的には、ゴシックホラーに属するものの、主人公である少女ローラによる回想という体裁を採っているため、品格のある抑えた表現が主体となっており、ホラーという要素は弱い。そのため、レ・ファニュ作「吸血鬼カーミラ」よりも、ブラム・ストーカー作「吸血鬼ドラキュラ」の方が世界的には有名になり、「ドラキュラ」が吸血鬼の代名詞になったと言える。


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