2019年10月12日土曜日

カーター・ディクスン作「白い僧院の殺人」(The White Priory Murders by Carter Dickson)–その3

女優のマーシャ・テイト宛に送られた毒入りチョコレートを食べた
ハリウッドの広報担当者であるティム・エメリーが担ぎ込まれた
小さな病院があるサウスオードリーストリート(South Audley Street)

皆で昼食を食べた後、2時間程して、ハリウッドの広報担当者であるティム・エメリーがバーで倒れたのである。医者の診断によると、ストリキニーネ中毒であったが、幸いにして、致死量を摂取していなかったため、死んだり、重体にならず、なんとか危険な状態を脱した。

以下の5人のうちの誰かが、女優マーシャ・テイト(Marcia Tait)の命を狙って、毒入りチョコレートを送って寄越したのだろうか?
(1)マーシャ・テイトが主演する新作の芝居の製作担当であるジョン・ブーン
(2)マーシャ・テイトと一緒に、新作の芝居に主演する俳優のジャーヴィス・ウィラード
(3)マーシャ・テイトを連れ戻すために、ハリウッドからやって来た映画監督のカール・レインジャー
(4)マーシャ・テイトを連れ戻すために、ハリウッドからやって来た広報担当のティム・エメリー
(5)英国の陸軍省情報部長の要職にあるヘンリー・メリヴェール卿(Sir Henry Merrivale)の甥で、米国の外交官であるジェイムズ・ボイントン・ベネット


ジョン・ブーンがチョコレートを分析させた結果、次のことが判明した。
(1)ストリキニーネが仕込んであったのは、チョコレートの箱の上段に入っていた2個のみ。
(2)ティム・エメリーが食べたのは、そのうちの1個で、残りの1個は少し潰れていた。
(3)毒入りの2個分を合わせても、致死量には足りない。
(4)毒入りの2個は、離れて入っていて、余程運が悪くない限り、一度に両方を食べる可能性は低い。

サウスオードリーストリートの南側から
北方面を望む(その1)

その場に居合わせたジェイムズ・ベネットは、ある種の警告ではないかと考えていた。幸い、ティム・エメリーが死亡したり、重体になったりしなかったこともあり、警察沙汰にはしたいと思う者は、誰もいなかった。特に、カール・レインジャーとティム・エメリーの二人にとって、警察が取り調べを始めた場合、ハリウッドのシネアーツ社から与えられた期限までに、マーシャ・テイトを米国へ連れ戻すことが、非常に難しくなるため、あまり乗り気ではなかった。ストリキニーネが入ったチョコレートを食べたティム・エメリーが病院に担ぎ込まれた話を聞いたマーシャ・テイトは、怖がるどころか、どちらかと言うと、むしろ面白がっているようだった。

サウスオードリーストリートの南端の角

そんな中、マーシャ・テイト一行は、クリスマス休暇を兼ねて、サリー州(Surrey)エプソム(Epsom)の近くにあるブーン家の屋敷(ジョン・ブーンの兄で、当主のモーリス・ブーンが所有)へと向かうことになっていた。マーシャ・テイトが主演する新作の芝居「チャールズ2世の私生活」の脚本の手直しもする計画だった。
その屋敷は、「白い僧院(White Priory)」と呼ばれていて、チャールズ2世(Charles II:1630年ー1685年 在位期間:1660年ー1685年 王政復古期ステュアート朝のイングランド、スコットランドおよびアイルランドの王)の時代に、ブーン家が所有していた。ブーン家の当主は、チャールズ2世の覚えがめでたく、王は競馬見物でエプソムに来ると、数多くの愛妾と一緒に、「白い僧院」に滞在していた。「白い僧院」には、離れ家があり、先祖のジョージ・ブーンが海外から大理石を輸入の上、寺院を模して、チャールズ2世の愛妾の一人であったバーバラ・パーマー(1641年ー1709年:カースルルメイン伯爵ロジャー・パーマーの妻)の栄華を称え、彼女の便宜を図って、1664年に建てられた。離れ家は小さな人工池の中にあるため、「王妃の鏡(Queen’s Mirror)」と呼ばれていた。マーシャ・テイトは、「白い僧院」に滞在中、「王妃の鏡」に宿泊する予定となっていた。

サウスオードリーストリートの南側から
北方面を望む(その2)

ジェイムズ・ベネットが伯父のヘンリー・メリヴェール卿を訪ねた日の午後、モーリス・ブーンがエプソムからロンドンへと出て来て、マーシャ・テイトを「白い僧院」へ列車で連れて行くことになっていた。マーシャ・テイトと一緒に、「チャールズ2世の私生活」に主演する俳優のジャーヴィス・ウィラードは、二人に同行する予定だった。ジョン・ブーンについては、ロンドンで仕事の約束があるため、当日の夜遅く、自分の車で「白い僧院」へ直接向かうことになった。「白い僧院」に到着できるのは、夜更けになるとのことだった。ジェイムズ・ベネットに関しても、当日の夜、パーティーへの招待を受けていたため、同じく、夜遅くでないと、パーティーから抜け出せなかった。

翌朝の6時半過ぎ、道に迷いながら、なんとか車で「白い僧院」へと辿り着いたジェイムズ・ベネットであったが、「王妃の鏡」において、マーシャ・テイトが殺害されている場面に遭遇するのであった。

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