アデルフィテラスにある 「アデルフィ(The Adelphi)」と呼ばれる新古典主義の集合住宅(テラスハウス)の記念碑 |
米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)が1934年に発表した推理小説で、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)シリーズの長編第4作目に該る「盲目の理髪師(The Blind Barber)」では、大西洋を横断して、米国のニューヨークから英国のサウサンプトン(Southampton)へと向かう外洋航路船クイーンヴィクトリア号(ocean liner Queen Victoria)上において、(1)米国人の外交官であるカーティス・G・ウォーレン(Curtis G. Warren)が携帯していた政治的失脚や国際問題にまで発展しかねない恐れがあるフィルムと(2)スタートン子爵が所有するエメラルドの象のペンダントの盗難事件が発生する。それらに加えて、(3)瀕死の女性がある船室から突然姿を消す事件も起きる。
サヴォイテラスから見上げたアデルフィテラス |
錯綜する事件の謎に頭を痛めた英国人の探偵小説家であるヘンリー・モーガン(Henry Morgan)は、「剣の八(The Eight of Swords)」事件で知り合ったギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)に助けを求めるべく、サウサンプトンに入港したクイーンヴィクトリア号からいち早く下船して、ギディオン・フェル博士が住むロンドンへと急ぐ。原作上、ギディオン・フェル博士は、テムズ河(River Thames)に近いアデルフィテラス1番地(1 Adelphi Terrace)に住んでいるという設定になっている。
ロバート ストリート側にある 旧「アデルフィ」の玄関 |
アデルフィテラス(Adelphi Terrace)は、トラファルガースクエア(Trafalgar Square)からシティー(City)へ向かって東に延びるストランド通り(Strand → 2015年3月29日付ブログで紹介済)とテムズ河(River Thames)沿いに設けられたヴィクトリアエンバンクメントガーデンズ(Victoria Embankment Gardens)に挟まれたアデルフィ(Adelphi)という一画内にある。この一画は、北側のジョン・アダム ストリート(John Adam Street → 2016年1月10日付ブログで紹介済)、東側のアダム ストリート(Adam Street)、西側のロバート ストリート(Robert Street → 2016年8月7日付ブログで紹介済)、そして、南側のアデルフィテラスに囲まれている。
ニューアデルフィビルの外壁装飾 (その1–グラスゴー) |
ニューアデルフィビルの外壁装飾 (その2–ベルファスト) |
ニューアデルフィビルの外壁装飾 (その3–エディンバラ) |
1768年から1774年にかけて、スコットランド出身の建築家ウィリアム・アダム(William Adam:1689年ー1748年)の息子達、所謂、アダム兄弟(Adam brothers)と言われる
・長男ージョン・アダム(John Adam:1721年ー1792年)
・次男ーロバート・アダム(Robert Adam:1728年ー1792年)
・三男ージェイムズ・アダム(James Adam:1732年ー1794年)
によって、この一画に新古典主義の集合住宅(テラスハウス)が24棟建設された。英語の「brothers(兄弟)」を意味するギリシア語「adelphi」をベースにして、この一画は「アデルフィ(Adelphi)」と呼ばれるようになり、また、この一画を囲む通りは、アダム兄弟の名前にちなんで名付けられている。
更に、ストランド通りの反対側に建つ劇場も「アデルフィ劇場(Adelphi Theatre→2015年8月1日 / 8月8日付ブログで紹介済)」と命名された。
ニューアデルフィビルの外壁装飾 (その4–リヴァプール) |
ニューアデルフィビルの外壁装飾 (その5–リーズ) |
ニューアデルフィビルの外壁装飾 (その6–マンチェスター) |
1930年代初め頃、アダム兄弟が建てた集合住宅のほとんどが取り壊されて、その跡地にはコルカット&ハンプ(Collcutte & Hamp)という会社が設計したアールデコ(Art Deco)風の建物「ニューアデルフィビル」が建設され、現在に至っている。
ニューアデルフィビルの外壁装飾 (その7–ダービー) |
ニューアデルフィビルの外壁装飾 (その8–バーミンガム) |
ニューアデルフィビルの外壁装飾 (その9–シェフィールド) |
ニューアデルフィビルの正面玄関は、北側のジョン・アダム ストリート側にあり、南側のアデルフィテラスは、同ビルの裏手に該るため、日中でも人通りはほとんどなく、非常に静かである。
今も、アダム兄弟が建てた集合住宅の一部は残っているが、アデルフィテラス側のわずかである。
ニューアデルフィビルの外壁装飾 (その10–カーディフ) |
ニューアデルフィビルの外壁装飾 (その11–ロンドン) |
ニューアデルフィビルの外壁装飾 (その12–リヴァプール) |
ロバート ストリート経由、アデルフィテラスは、ヴィクトリアエンバンクメントガーデンズの北側にあるサヴォイプレイス(Savoy Place→2017年1月29日付ブログで紹介済)と階段で繋がっている。アデルフィテラスは、サヴォイプレイスやヴィクトリアエンバンクメントガーデンズよりも高い位置にあるので、ジョン・ディクスン・カーの原作「盲目の理髪師」通り、アデルフィテラスからテムズ河を見下ろすことができる。