2018年9月23日日曜日

ロンドン ケンウッドハウス(Kenwood House)

「白亜の館」と呼ばれるケンウッドハウスの裏面(その1)

米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)が1939年に発表した推理小説で、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)シリーズの長編第11作目に該る「テニスコートの殺人」(The Problem of the Wire Cage→2018年8月12日 / 8月19日付ブログで紹介済)において、フランク・ドランス(Frank Dorrance)の絞殺死体が発見されたテニスコートがあるニコラス・ヤング邸は、ロンドン北西部郊外の高級住宅街ハムステッド地区(Hampstead→2018年8月26日付ブログで紹介済)内にあるという設定になっているが、ハムステッド地区内には、ケンウッドハウス(Kenwood House)がある。

ケンウッドハウスの正面玄関と両脇にあるウィング

ハムステッド地区の北側に広がる丘陵であるハムステッドヒース(Hampstead Heath→2018年4月25日付ブログで紹介済)は、ヒース(Heath)と呼ばれる低木が一面に生い茂っていることから、その様に呼ばれている。丘陵のあちこちに18世紀のコテージ、ヴィクトリア朝様式の家や池が点在している。ハムステッドヒースの大部分はロンドン・カムデン区(London Borough of Camden)内にあるが、1989年以降、管理はシティー・オブ・ロンドン・コーポレーション(City of London Corporation)によって行われている。

ハムステッドヒースレーン(Hampstead Lane)から
ケンウッドハウスに至るノースウッド(North Wood)の森

ハムステッドヒースの歴史は10世紀後半まで遡るが、当時は「Hempstede」と呼ばれていた。11世紀後半から12世紀前半にかけて、ウェストミンスター寺院(Westminster Abbey)が所有していたが、貴族等個人の所有を経て、19世紀から20世紀にかけて、ロンドン市当局が購入を徐々に進め、現在に至っている。

「白亜の館」と呼ばれるケンウッドハウスの裏面(その2)

ケンウッドハウスは、ハムステッドヒースの北端に建っている。現在は、イングリッシュヘリテージ(English Heritage)が管理する美術館となっているが、以前は貴族の館であった。

ケンウッドハウス内の図書室の天井装飾(その1)

ケンウッドハウスの歴史は17世紀前半まで遡る。
英国で著名な判事であった初代マンスフィールド伯爵ウィリアム・マレー(William Murray, 1st Earl of Mansfield:1705年ー1793年)は、仕事の拠点をスコットランドからロンドンに移したため、1754年にケンウッドハウスと周辺の土地を購入し、彼と同じスコットランド出身の建築家ロバート・アダム(Robert Adam:1728年ー1792年)にケンウッドハウスの改修を依頼した。ロバート・アダムは、1764年から1779年までの16年の歳月をかけて、ケンウッドハウスの外観および内装の改修を終えた。北側に面している正面玄関は巨大なイオニア式石柱を備えた柱廊となり、南側に面している裏面は、既に存在していた西側の温室とバランスをとるため、東側に図書室を増築した上、真っ白なファサードを備えた、まさに「白亜の館」となっている。
その後、1793年から1796年にかけて、ジョージ・ソンダース(George Saunders)が正面玄関の両脇に2つのウィングを増築している。

ケンウッドハウス内の図書室の天井装飾(その2)

20世紀に入って、新たに法制化された相続税の関係で、マンスフィールド伯爵家による維持が困難となり、ケンウッドハウスの売却を決定。そして、1925年にギネスビール社会長の初代アイヴィー伯爵エドワード・セシル・ギネス(Edward Cecil Guinness, 1st Earl of Iveagh:1847年ー1927年)が購入した。その2年後の1927年、彼が死去した際、ケンウッドハウスは、彼が購入後に展示していた絵画コレクションと一緒に、国に遺贈されて、現在に至っている。

左側の絵画がレンブラント・ハルメンス・ファン・レイン作「自画像」で、
右側の絵画がヨハネス・フェルメール作「ギターを弾く女」

現在、ケンウッドハウス内に展示されている絵画コレクションの中でも、

(1)オランダ人画家レンブラント・ハルメンス・ファン・レイン(Rembrandt Harmensz Van Rijn:1606年ー1669年)晩年の「自画像(Portrait of the Artist)」
(2)オランダ人画家ヨハネス・フェルメール(Johannes Vermeer:1632年ー1675年)の「ギターを弾く女(The Guitar Player)」
(3)英国人画家トマス・ゲインズバラ(Thomas Gainsborough:1727年ー1788年)の「ハウ伯爵夫人メアリーの肖像(Mary, Countess of Howe)」

の3作品が特に有名である。

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