2017年5月14日日曜日

ロンドン バサルロード(Vassall Road)―ヘンリエッタストリート(Henrietta Street)の候補地

コナン・ドイルの原作「緋色の研究」において、
巡回中、ジョン・ランス巡査がハリー・マーチャー巡査と出会って立ち話をしたのは、
ヘンリエッタストリート(架空の通り)になっているが、現在の住所表記上、
ホーランドグローヴ通り(画面手前の通り)とバサルロード(画面奥の通り)が交差する角が
それに該るものと思われる

サー・アーサー・コナン・ドイル作「緋色の研究(A Study in Scarlet)」(1887年)の冒頭、1878年にジョン・H・ワトスンはロンドン大学(University of Londonー2016年8月6日付ブログで紹介済)で医学博士号を取得した後、ネトリー軍病院(Netley Hospitalー2016年8月13日付ブログで紹介済)で軍医になるために必要な研修を受けて、第二次アフガン戦争(Second Anglo-Afghan Wars:1878年ー1880年)に軍医補として従軍する。戦場において、ワトスンは銃で肩を撃たれて、重傷を負い、英国へと送還される。


英国に戻ったワトスンは、親類縁者が居ないため、ロンドンのストランド通り(Strandー2015年3月29日付ブログで紹介済)にあるホテルに滞在して、無意味な生活を送っていた。そんな最中、ワトスンは、ピカデリーサーカス(Piccadilly Circus)にあるクライテリオンバー(Criterion Barー2014年6月8日付ブログで紹介済)において、セントバーソロミュー病院(St. Bartholomew's Hospitalー2014年6月14日付ブログで紹介済)勤務時に外科助手をしていたスタンフォード(Stamford)青年に出会う。ワトスンがスタンフォード青年に「そこそこの家賃で住むことができる部屋を捜している。」という話をすると、同病院の化学実験室で働いているシャーロック・ホームズという一風変わった人物を紹介される。初対面にもかかわらず、ワトスンが負傷してアフガニスタンから帰って来たことを、ホームズは一目で言い当てて、ワトスンを驚かせた。

バサルロード沿いに建つ教会
St. John the Divine, Kennington の尖塔

こうして、ベーカーストリート221B(221B Baker Streetー2014年6月22日/6月29日付ブログで紹介済)において、ホームズとワトスンの共同生活が始まるのであった。彼らが共同生活を始めて間もなく、ホームズの元にスコットランドヤードのグレッグスン警部(Inspector Gregson)から事件発生を告げる手紙が届く。ホームズに誘われたワトスンは、ホームズと一緒に、ブリクストンロード(Brixton Road)近くの現場ローリストンガーデンズ3番地(3 Lauriston Gardensー2017年3月4日付ブログで紹介済)へと向かった。ホームズ達が到着した現場には、グレッグスン警部とレストレード警部(Inspector Lestrade)が二人を待っていた。現場で死亡していたのは、イーノック・J・ドレッバー(Enoch J. Drebber)の名刺を持つ、立派な服装をした中年の男性だった。

ジョン・ランス巡査は、バサルロードを
画面左奥からやって来たものと思われる

イーノック・J・ドレッバーの死体を発見したのは、ジョン・ランス巡査(Constable John Rance)であるという話をレストレード警部から聞くと、ホームズとワトスンの二人は、早速、彼が住むケニントンパークゲート(Kennington Park Gate)のオードリーコート46番地(46 Audley Courtー2017年3月25日付ブログで紹介済)へと向かうのであった。

ハリー・マーチャー巡査との立ち話の後、
ジョン・ランス巡査は、巡回を続けるため、
バサルロードを画面右手奥へ向かったものと考えられる

ランス巡査は馬の毛でできたソファーに腰を下ろすと、何一つ話に漏れがないように決心したように眉を顰めた。
「最初からお話します。」と、彼は言った。「私の巡回時間は夜10時から朝6時までです。夜11時にパブ『ホワイトハート』で喧嘩騒ぎがありましたが、それを除けば、非常に静かな夜でした。午前1時に雨が降り始めた時、私はホーランドグローヴ通りを担当するハリー・マーチャーと出会ったので、ヘンリエッタストリートの角に一緒に立って、ちょっと話をしました。多分、2分かそこらだったと思います。その後、私はブリクストンロードを巡回して、異常がないかどうか確認しようと思いました。ブリクストンロードは非常に汚く、淋しい所でした。私が通りを歩いていても、辻馬車が一、二台私の横を通り過ぎただけで、人っ子一人居ませんでした。ここだけの話ですが、ホットジンが飲めればどれだけよいかと思いながら、私はゆっくりと巡回しました。すると、突然、あの家の窓からキラキラした光が、私の目にとまりました。ローリストンガーデンズ内の二軒の家が空き家であることを、私は知っていました。二軒のうち、一軒に居た最後の住人が腸チフスで死んだにもかかわらず、家主が下水道を整備しようとしないからです。それで、窓に明かりが見えた時、私はびっくりして、何か良からぬことが起きているのではないかと考えました。そして、私が扉の前へ行った時...」
「君は立ち止まって、庭の入口まで引き返した。」と、ホームズがランス巡査の話を遮った。「君はどうしてそうしたんだ?」
ランス巡査はびっくりして跳び上がると、非常に驚いた顔でホームズをじっと見つめるのであった。

バサルロードをブリクストンロードへ向かう途中(その1)―
ホーランドグローヴ通りとバサルロードが交差する角は
画面奥にある

Rance sat down on the horsehair sofa, and knitted his brows as though determined not to omit anything in his narrative.
"I'll tell it ye from the beginning." he said. "My time is from ten at night to six in the morning. At eleven there was fight at the 'White Hart'; but bar that all was quiet enough on the beat. At one o'clock it began to rain, and I met Harry Murcher - him who has the Holland Grove beat - and we stood together at the corner of Henrietta Street a-talkin'. Presently - maybe about two or a little after - I thought I would take a look round and see that all was right down the Brixton Road. It was precious dirty and lonely. Not a soul did I meet all the way down, though a cab or two went past me. I was a strolling' down, thinking' between ourselves how uncommon handy a four of gin hot would be, when suddenly the glint of a light caught my eyes in the window of that same house. Now, I knew that them two houses in Lauriston Gardens was empty on account of him that owns them who won't have the drains seen to, though the very last tenant what lived in one of them died o' typhoid fever. I was knocked all in a heap therefore at seeing a light in the window, and I suspected as something was wrong. When I got to the door -"
"You stopped, and then walked back to the garden gate," my companion interrupted. "What did you do that for?"
Rance gave a violent jump, and stared at Sherlock Holmes with the utmost amazement upon his features.

バサルロードをブリクストンロードへ向かう途中(その2)―
ブリクストンロードは画面手前にある

ジョン・ランス巡査の同僚であるハリー・マーチャー巡査が巡回を担当していたホーランドグローヴ通り(Holland Groveー2017年5月6日付ブログで紹介済)は、テムズ河(River Thames)南岸のロンドン・ランベス区(London Borough of Lambeth)のキャンバーウェル地区(Camberwell)内にある。
巡回中、ジョン・ランス巡査がハリー・マーチャー巡査と出会って立ち話をしたヘンリエッタストリート(Henrietta Street)は、ホーランドグローヴ通り近辺にはなく、残念ながら、架空の通りである。立ち話をした後、ハリー・マーチャー巡査と別れたジョン・ランス巡査がブリクストンロード(Brixton Road)の巡回を続けたことを考えると、コナン・ドイルの原作に出てくる「ヘンリエッタストリート」は、現在の住所表記上、「バサルロード(Vassall Road)」が、それに該るものと思われる。

バサルロードとブリクストンロードが交差する南東の角

ケニントンパーク(Kennington Park)から地下鉄ブリクストン駅(Brixton Tube Station)へ向かって南下するブリクストンロードの左手に、この道に垂直に交わるバサルロード(Vassall Road)がある。これを左折して、しばらく直進した左手に、ホーランドグローヴ通りが南北に延びている。
ハリー・マーチャー巡査が巡回を担当していたのが、ホーランドグローヴ通りなので、ジョン・ランス巡査が彼と出会って立ち話をしたのは、ホーランドグローヴ通りとバサルロードが交差した角であると推測される。つまり、ハリー・マーチャー巡査はホーランドグローヴ通りを南下し、そして、ジョン・ランス巡査はバサルロードを東方面からやって来て、その角で二人は出会ったのではないだろうか?立ち話後、ジョン・ランス巡査はバサルロードを更に西へ進むと、ブリクストンロードへと出るので、彼がホームズとワトスンの二人に話した内容と一致する。

画面を左右に横切るのがブリクストンロードで、
ジョン・ランス巡査はブリクストンロードの巡回を続けて、
事件に遭遇する

ちなみに、ヘンリエッタストリートは、テムズ河南岸にはないが、テムズ河北岸には実在している。


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