2017年4月9日日曜日

イーストサセックス州(East Sussex) セブンシスターズ(Seven Sisters)

海外線からセブンシスターズを望む

アガサ・クリスティー作「象は忘れない(Elephants can remember)」は1972年に発表された作品であるが、1975年に刊行されたエルキュール・ポワロ最後の事件となる「カーテン(Curtain)」が第二次世界大戦(1939年ー1945年)中の1943年に予め執筆されていることを考えると、執筆順では、本作品が最後のポワロ譚と言える。

推理作家のアリアドニ・オリヴァー(Ariadne Oliver)は、文学者昼食会において、バートン=コックス夫人(Mrs Burton-Cox)と名乗る婦人から奇妙なことを尋ねられる。それは、オリヴァー夫人が名付け親となったシーリア・レイヴンズクロフト(Celia Ravenscroft)という娘の両親が十数年前に起こした心中事件のことだった。バートン=コックス夫人がオリヴァー夫人に発した問いは、「あの娘の母親が父親を殺したんでしょうか?それとも、父親が母親を殺したんでしょうか?」だった。自分の名付け子すら満足に思い出せないオリヴァー夫人にとって、謎めいた心中事件のことなど、何も覚えていなかったのである。

バートン=コックス夫人から尋ねられたことが非常に気になったオリヴァー夫人は、名付け子であるシーリアに連絡をとり、ひさしぶりに再会する。シーリアによると、彼女はバートン=コックス夫人の息子デズモンド(Desmond)と婚約中で、バートン=コックス夫人としては、シーリアの両親のどちらが相手を殺したのかが、シーリアとデズモンドが結婚した場合、遺伝的に好ましいのかどうかという問題に関わってくるらしい。

セブンシスターズの上は、緩やかな丘陵地となっている

シーリアの説明によると、亡くなる数年前にインドで退役したアリステア・レイヴンズクロフト将軍(General Alistair Ravenscroft)は、妻のマーガレット(Margaret Ravenscroft)と一緒に、英国南西部のコンウォール州(Cornwall)にある海辺の家へと移って、静かな生活を送っていた。ある日、いつも通り、レイヴンズクロフト夫妻は飼い犬を連れて散歩に出かけたが、その後、レイヴンズクロフト将軍が保有する銃で二人とも撃たれて死亡しているのが発見された。
警察はレイヴンズクロフト夫妻の死を心中と見做したが、心中に至る動機は遂に見つからなかった。夫妻が経済的に困っていた様子はない上に、夫婦仲もよく、彼らを殺害しようと考える敵等は居なかったからである。
当時、シーリアは12歳で、スイスの学校へ行っていて、コンウォール州にある海辺の家には住んでいなかった。その頃、海辺の家に居たのは、家政婦、シーリアの元家庭教師、それにシーリアの伯母だけであった。彼らにも、夫妻を殺すような動機は見当たらなかったである。

オリヴァー夫人から相談を受けたポワロは、レイヴンズクロフト夫妻と関わりがあった人達を訪ねて、心中事件の前後のことを象のように詳細に記憶している人を捜すよう、彼女にアドバイスを送る。一方で、ポワロは独自に真相の究明に乗り出し、旧友のスペンス元警視(ex Superintendent Spence)に依頼して、当時の事件担当者だったギャロウェイ元警視(ex Superintendent Garroway)を紹介してもらい、事件の調査内容を尋ねるのであった。

セブンシスターズカントリーパークで購入した地図

英国のTV会社 ITV1 で放映されたポワロシリーズ「Agatha Christie's Poirot」の「象は忘れない」(2013年)の回では、物語の冒頭、13年前の1925年、レイヴンズクロフト夫妻による謎の心中事件の背景に、また、物語の最後、事件が無事解決し、寄り添うシーリア・レイヴンズクロフトとデズモンド・バートン=コックス、彼らの家庭教師だったゼリー・ルーゼル(Zelie Rouxelleーアガサ・クリスティーの原作では、ゼリー・モーウラ(Zelie Meauhourat)とマディー・ルーセル(Maddy Rouselle)という二人の家庭教師が居たが、TV版では、過去の事件だけでなく、現代(=13年後の1938年)に発生する事件も追加した関係上、登場人物を整理するため、一人になったと思われる)の三人を微笑ましく見つめるポワロとオリヴァー夫人が立つオーバークリフ荘(Overcliffー「崖の上の家」の意)のバルコニーの背景に、巨大な白い崖が海岸線に沿って聳えているのが見える。アガサ・クリスティーの原作では、物語の舞台は英国の南西部にあるコンウォール州に設定されているが、TV版では、英国南部のイーストサセックス州(East Sussex)にあるセブンシスターズ(Seven Sisters)が撮影に使われている。

駐車場/道路からセブンシスターズへのアクセスは徒歩のみ―
セブンシスターズは画面右下から右の方へと続く

セブンシスターズは白亜系チョークから成る海食崖で、英国南岸の都市であるシーフォード(Seafordー西側)とイーストボーン(Eastbourneー東側)の間に位置していて、イギリス海峡(English Channel→英仏海峡のこと)に面している。
緩やかな起伏の丘が打ち寄せる波によって削り取られてできた7つの白い崖が海岸線に連なる様子から「セブンシスターズ(7人の姉妹)」と呼ばれるようになった。筆者の場合、「セブンシスターズ」と呼ばれるようになったのは、プレイアデス星団の7つ星の元となったギリシア神話に登場するプレイアデス(Pleiades)7人姉妹がベースにあるものと思っていたが、そうではないようである。

セブンシスターズの東側で、イーストボーンの手前には、ビーチー岬(Beachy Head→近日中に紹介予定)があり、セブンシスターズやビーチー岬を含めた一帯は、セブンシスターズカントリーパーク(Seven Sisters Country Park)に属していて、景勝地/観光名所として非常に人気がある。

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