2016年3月19日土曜日

ロンドン ロンドンブリッジ駅(London Bridge Station)

テムズ河北岸から「ザ・シャード」ビルを望む

サー・アーサー・コナン・ドイル作「ブルース・パーティントン型設計図(The Bruce-Partington Plans)」では、1895年11月の第3週の木曜日、ある電報がベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元に届けられるところから、物語が始まる。その電報は、シャーロックの兄であるマイクロフト・ホームズ(Mycroft Holmes)からで、「カドガン・ウェストの件で会う必要がある。直ぐにそちらへ行く。マイクロフト(Must see you over Cadogan West. Coming at once. Mycroft)」という文面だった。兄マイクロフトがやって来る前に事実関係を把握すべく、シャーロック・ホームズはジョン・ワトスンに対して、新聞に載っている記事を調べるよう、依頼する。
新聞によると、火曜日の朝、ウールウィッチ兵器工場(Woolwich Arsenal)に勤めるアーサー・カドガン・ウェスト(Arthur Cadogan West)が地下鉄オルドゲート駅(Aldgate Tube Station)の線路脇で死体となって発見された、とのことだった。前日の月曜日の夜、彼は婚約者のヴァイオレット・ウェストベリー(Violet Westbury)をその場に残したまま、突然霧の中を立ち去ってしまったと言う。そして、翌朝、彼の死体が発見されるまでの消息は不明であった。

ホームズの元を訪れたマイクロフトによると、死体となった彼のポケットからは、英国政府の最高機密で、ウールウィッチ兵器工場の金庫室内に厳重に保管されていたはずの「ブルース・パーティントン型潜水艦」の設計図10枚のうちの7枚が出てきた。ところが、一番重要な残り3枚はどこにもなかったのである。
マイクロフトは、シャーロックに対して、(1)新型潜水艦の設計図が何故持ち出されたのか、(2)アーサー・カドガン・ウェストは本件にどのように関与しているのか、(3)彼はどのようにして殺されて、現場まで運ばれたのか、そして、(4)残りの3枚の設計図は一体どこへ消えたのかを早急に調べるよう、強く要請した。そこで、シャーロックは、ワトスンを連れて、地下鉄オルドゲート駅へと向かった。

地下鉄オルドゲート駅での調査を終えた後、ワトスンと一緒にウールウィッチへ向かう途中、ホームズはロンドンブリッジ駅(London Bridge Station)に立ち寄った。

ロンドンブリッジ駅の入口

ロンドンブリッジ駅で、ホームズは兄のマイクロフト宛に電報を打った。電報を打つ前に、彼は私に内容を見せてくれた。次のような文面であった。

暗闇の中に一筋の光明が見えたが、今にも消えてしまうかもしれない。それまでの間に、英国に居る外国のスパイや国際的なエージェントの完全な一覧表を、彼らの住所付きで、ベーカーストリートへ届けてくれ。
シャーロック

「ワトスン、これは役に立つに違いない。」と、私達がウールウィッチ行きの列車に乗った際、彼が言った。「間違いなく、僕達はマイクロフトに大きな借りができたな。何故なら、本当に注目すべき事件になりそうなヤマを、彼は僕達に紹介してくれたんだからね。」

ガラス張りの壁面に架けられているロンドンブリッジ駅名の表示

At London Bridge, Holmes wrote a telegram to his brother, which he handed to me before dispatching it. It ran thus:

See some light in the darkness, but it may possibly flicker out. Meanwhile, please send by messenger, to await return at Baker Street, a complete list of all foreign spies or international agents known to be in England, with full address.
SHERLOCK

'That should be helpful, Watson,' he remarked as we took our seats in the Woolwich train. 'We certainly owe brother Mycroft a debt for having introduced us to what promises to be a really very remarkable case.'

撮影時は帰宅時間帯(午後6時頃)だったため、
ロンドンブリッジ駅は帰宅客で混雑していた

ウールウィッチへと向かう前に、シャーロック・ホームズが兄のマイクロフト・ホームズ宛に電報を打ったロンドンブリッジ駅は、現在、ナショナルレールと地下鉄が乗り入れている駅で、ロンドン・サザーク区(London Borough of Southwark)内に所在している。
ナショナルレールについて言うと、テムズ河(River Thames)の南岸にある二大ターミナル駅の一つで、もう一つはウォータールー駅(Waterloo Station)である。地下鉄に関して、ジュビリーライン(Jubilee Line)とノーザンライン(Northern Line)の2線が乗り入れている。

ロンドンブリッジ駅の電光掲示板

ロンドンブリッジ駅が1836年12月14日に開業した後、1864年1月に通過型プラットフォームが導入されて、ロンドンブリッジ駅からウォータールーイースト駅(London Waterloo East Station)、チャリングクロス駅(Charing Cross Station)、ブラックフライアーズ駅(Blackfriars Station)やキャノンストリート駅(Cannon Street Station)の各駅まで路線が延長された。
ロンドンブリッジ駅からは、英国の南部と南東部へ向かう列車が発着している。

サザーク大聖堂(Southwark Cathedral)越しに見上げた
「ザ・シャード」ビル

利用客の大幅な増加に対応するため、現在、ロンドンブリッジ駅は数年間にわたる大改装工事中であるが、工事計画の策定が不十分だったことが要因となり、連日大混乱に陥っている。特に、朝の通勤時と夕方の帰宅時には、プラットフォーム内の大混雑を避けるべく、入場規制がかけられ、改札口には長蛇の列が伸びて、利用客からは大きな不満が寄せられている。ロンドン市長がロンドンブリッジ駅を管理するネットワークレール(Network Rail)に対して改善策の検討を強く要請しているが、今のところ、目立った進展は見られていない。

真下から見上げた「ザ・シャード」ビル

ロンドンブリッジ駅の近く(南西側)には、現在、「硝子(ガラス)の破片」を意味する「ザ・シャード(The Shard)」、または、「シャード・ロンドンブリッジ(Shard London Bridge)」という超高層ビル(地上87階建ー尖塔の高さ:309.6m)が聳え建っている。外観が竣工した当時(2012年7月5日)、ヨーロッパ一の高さを誇るビルであったが、その後、ロシア/モスクワに建設された「マーキュリー・シティー・タワー(Mercury City Tower)」に抜かれたため、今は西ヨーロッパ一の高さとなっている。

イタリア人風景画家のカナレットが当時住んでいた
ビークストリート(Beak Street)沿いの建物ー
ビークストリートは、カーナビーストリート(Carnaby Street)の近く

設計者は、フランス/パリのポンピドゥーセンター(Pompidou Centre)や日本の関西国際空港旅客ターミナルビル等の設計で知られるイタリア人建築家のレンゾ・ピアノ(Renzo Piano)で、18世紀のイタリア人風景画家カナレット(Canaletto:1697年ー1768年 本名:ジョヴァンニ・アントニオ・カナール Giovanni Antonio Canal)がロンドンの風景画に描いた教会の尖塔や帆船のマストに着想を得た、とのこと。ビルは、「ザ・シャード」の名の通り、互いに接触しない8つのガラス張りの面から構成されている。

カナレットが住んでいたことを示す表示が
建物外壁に架けられている

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