ロンドン・ランベス区(London Borough of Lambeth)区内にある帝国戦争博物館(Imperial War Museum)― ウールウィッチ内にある訳ではないので、誤解なきよう |
サー・アーサー・コナン・ドイル作「ブルース・パーティントン型設計図(The Bruce-Partington Plans)」では、1895年11月の第3週の木曜日、ある電報がベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元に届けられるところから、物語が始まる。その電報は、シャーロックの兄であるマイクロフト・ホームズ(Mycroft Holmes)からで、「カドガン・ウェストの件で会う必要がある。直ぐにそちらへ行く。マイクロフト(Must see you over Cadogan West. Coming at once. Mycroft)」という文面だった。兄マイクロフトがやって来る前に事実関係を把握すべく、シャーロック・ホームズはジョン・ワトスンに対して、新聞に載っている記事を調べるよう、依頼する。
新聞によると、火曜日の朝、ウールウィッチ兵器工場(Woolwich Arsenal)に勤めるアーサー・カドガン・ウェスト(Arthur Cadogan West)が地下鉄オルドゲート駅(Aldgate Tube Station)の線路脇で死体となって発見された、とのことだった。前日の月曜日の夜、彼は婚約者のヴァイオレット・ウェストベリー(Violet Westbury)をその場に残したまま、突然霧の中を立ち去ってしまったと言う。そして、翌朝、彼の死体が発見されるまでの消息は不明であった。
「アーサー・カドガン・ウェストの死体が発見された現場脇の線路は、西側から東方面へ向かう列車が通過する場所で、メトロポリタン線の列車もあれば、ウィルスデンや郊外の駅から来る列車もある。この青年が死を迎えた際、夜遅い時間に、この方向(西→東)へ向かっていたことは確かだが、彼がどこから列車に乗ったのかが判らない。」
「(彼の)切符を調べれば、彼がどこから列車に乗ったのかが判る筈だ。」
「彼のポケットには、切符がなかったそうだ。」
「切符がない!ワトスン、どういうことだ。これは非常に奇妙だな。僕の経験によれば、切符を見せないで、メトロポリタン線のプラットフォームへ行くことはできない筈だ。ということは、おそらく、この青年は切符を所持していた。彼が乗った駅を判らなくするために、切符は奪われたのだろうか?その可能性はある。それとも、彼は列車内に切符を落としたのか?それもありうる。しかし、これは非常に興味深い点だ。物盗りの痕跡はなかったんだな?」
「全くなかったそうだ。ここに彼の所持品リストがある。彼の財布には、2ポンド15シリングが入っていた。また、彼はキャピタル&カウンティーズ銀行ウールウィッチ支店の小切手帳も身につけていた。この小切手帳があったため、彼の身元が判明したんだ。それに加えて、正にその晩のウールウィッチ劇場の特等席の切符が2枚あった。更に、技術的な書類の小さな束もあったと書かれている。」
ホームズは満足気な声をあげた。
「ワトスン、遂に辿り着いたな!英国政府ーウールウィッチ兵器工場ー技術的な書類ー兄マイクロフト、全てが繋がった。しかし、もし間違いでなければ、彼が来たようだから、自分で話してもらおう。」
帝国戦争博物館の正面全景 |
'The trains which traverse the lines of rail beside which the body was found are those which run from west to east, some being purely Metropolitan, and some from Willesden and outlying junctions. It can be stated for certain that this young man, when he met his death, was travelling in this direction at some late hour of the night, but at what point he entered the train it is impossible to state!'
'His ticket, of course, would show that.'
'There was no ticket in his pockets.'
'No ticket! Dear me, Watson, this is really very singular. According to my experience it is not possible to reach the platform of a Metropolitan train without exhibiting one's ticket. Presumably, then, the young man had one. Was it taken from him in order to conceal the station from which he came? It is possible. Or did he drop it in the carriage? That is also possible. But the point is of curious interest. I understand that there was no sign of robbery?'
'Apparently not. There is a list here of his possessions. His purse contained two pounds fifteen. He had also a chequebook on the Woolwich branch of the Capital and Counties Bank. Through this his identity was established. There were also two dress-circle tickets for the Woolwich Theatre, dated for that very evening. Also a small packet of technical papers.'
Holmes gave an exclamation of satisfaction.
'There we have it at last, Watson! British government - Woolwich Arsenal - technical papers - brother Mycroft, the chain is complete. But here he comes, if I am not mistaken, to speak for himself.'
アーサー・カドガン・ウェストが勤務していた兵器工場があるウールウィッチ(Woolwich)は、ロンドン南東にあるグリニッチ王立区(Royal Borough of Greenwich)内に所在している。
ウールウィッチには、鉄器時代から人が住んでいたと言われており、ローマ時代の要塞跡も残っている。ウールウィッチの語源は、アングロ・サクソン語の「羊毛を取引する場所」からきていると一般に理解されている。
Geraldine Mary Harmsworth Garden 内にある チベット平和庭園(その1) |
Geraldine Mary Harmsworth Garden 内にある チベット平和庭園(その2) |
ウールウィッチは小さな村であったが、
・ウールウィッチ造船所(Woolwich Dockyardー1512年)
・王立兵器工場(Royal Arsenalー1671年)
・王立砲兵隊(Royal Artilleyー1716年)
・王立陸軍学校(Royal Military Academyー1741年)
等の設置/駐屯により、英国陸軍関係/軍需関係の街として発展した。
英国フットボールのプレミアリーグに属する強豪チームの一つであるアーセナルフットボールクラブ(Arsenal Football Club)は、元々、王立兵器工場に勤務する労働者によって、1886年にウールウィッチで設立された。フットボールクラブは、「Dial Square」、「Royal Arsenal」、そして、「Woolwich Arsenal」と名前を変えたが、1913年に北ロンドンのハイブリー(Highbury)へ移転しまい、チーム名から「ウールウィッチ」が外れてしまった。
Geraldine Mary Harmsworth Garden に春が訪れつつある |
ウールウィッチは、19世紀までケント(Kent)に属しながら、ロンドンの郊外を形成していたが、1889年に正式にロンドンの一部となった。ウールウィッチは、1900年にエルサム(Eltham)等と共にウールウィッチ都市圏区(Metropolitan Borough of Woolwich)となり、1965年にグリニッチ区(Borough of Greenwich)へと変わり、現在のグリニッチ王立区となった。
1968年にドイツ企業のシーメンス社(Siemens)が工場を閉鎖した後、王立兵器工場が業容を縮小し、最終的には1994年に閉鎖になると、ウールウィッチは衰退の道を辿る。
王立兵器工場跡地の再開発プロジェクト(住宅化)が開始すると、ウールウィッチに今まで進出していなかった英国チェーン店舗が開店した。更に、ドックランド線(Docklands Light Railway)のロンドンシティー空港支線(London City Airport branch)のウールウィッチ兵器工場駅(Woolwich Arsenal Station)が2009年1月10日にオープンした。
2012年のロンドンオリンピック/パラリンピックにおいて、ウールウィッチでは射撃関係の競技が開催されている。
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