パリッシュ・チャーチ・オブ・セントジョン・アット・ハムステッドから東方面に見たチャーチロウ 通りの突き当たりがヒースストリートで、左に曲がると、地下鉄ハムステッド駅がある |
サー・アーサー・コナン・ドイル作「チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン(Charles Augustus Milverton)」(出版社によっては、「犯人は二人」や「恐喝王ミルヴァートン」と訳しているケースあり)において、シャーロック・ホームズは、レディー・エヴァ・ブラックウェル(Lady Eva Brackwell)からの依頼を受けて、彼女が昔出した手紙をロンドン一の悪党かつ恐喝王であるチャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン(Charles Augustus Milverton)から取り戻そうしていた。彼女は2週間後にドーヴァーコート伯爵(Earl of Dovercourt)との結婚式を控えていた。残念ながら、彼女には、ミルヴァートンによる恐喝に対処できるだけの金銭的な余裕はない上、彼女が昔出した手紙が表に出てスキャンダルになった場合、2週間後に予定されている結婚が破談になることは間違いなかった。
レディー・エヴァ・ブラックウェルを絶望的な状況から救い出すために、ホームズとジョン・ワトスンはミルヴァートンの屋敷に夜間侵入して、彼女の手紙を盗み出す計画を立てたのであった。そのため、ホームズは職人に変装して、ミルヴァートンの屋敷のメイドを口説き、屋敷に侵入するのに必要な情報を入手した。
「よし、ワトスン、そうしよう。僕達二人は長い間この同じ部屋に一緒に住んできた訳だし、同じ牢屋に一緒に住むことになるのも面白いかもしれない。ワトスン、君にだけは打ち明けるが、僕は非常に有能な犯罪者になっていたかもしれないと、ずーっと思ってきた。今回は、その才能を示す一生一代の機会だ。これを見てくれ!」と言って、ホームズは引き出しから小綺麗な革のケースを取り出すと、それを開いて、光り輝く道具の数々を私に披露した。「これは一級品の最新侵入キットだ。まず、ニッケルでメッキした組み立て鉄梃(かなてこ)、ダイヤモンドが先に付いたガラス切り、そして、万能鍵。どれもが、文明の進歩に呼応して、近代的な改良が加えられたものばかりだ。これが灯りを外に通さない手提げランプだ。どれも整備が出来ている。ワトスン、君が音がしない靴を持っているかい?」
「ゴム底のテニス靴なら持っているよ。」
「素晴らしい!それでは、マスクは?」
「黒い絹から2つ作ることができるが...」
「君もこの件にかなり乗り気になっているようだな。よし、そのマスクを準備してくれ。それでは、出かける前に、なにか夕食をとろう。今午後9時半だ。11時にチャーチロウまで馬車で行こう。そこからアップルドアタワーズまで歩いて15分だ。12時前には仕事に取り掛れるだろう。ミルヴァートンは眠りが深く、10時半きっかりに寝室へ下がる。運が良ければ、レディー・エヴァの手紙をポケットに入れて、午前2時までにここに戻って来られるさ。」
'Well, well, my dear fellow, be it so. We have shared the same room for some years, and it would be amusing if we ended by sharing the same cell. You know, Watson, I don't mind confessing to you that I have always had an idea that I would have made a highly efficient criminal, this is the chance of my lifetime in that direction. See here!' He took a neat little leather case out of a drawer, and opening it he exhibited a number of shining instruments. 'This is a first-class, up-to-date burgling kit, with nickel-plated jimmy, diamond-tipped glass-cutter, adaptable keys, and every modern improvement which the march of civilization demands. Here, too, is my dark lantern. Everything is in order. Have you a pair of silent shoes?'
'I have rubber-soled tennis shoes.'
'Excellent. And a mask?'
'I can make a couple out of black silk.'
'I can see that you have a strong natural turn for this sort of thing. Very good; do you make the masks. We shall have some cold supper before we start. It is now nine-thirty. At eleven we shall drive as far as Church Row. It is a quarter of an hour's walk from there to Appledore Towers. We shall beat work before midnight. Milverton is a heavy sleeper and retires punctually at ten-thirty. With any luck we should be back here by two, with the Lady Eva's letters in my pocket!'
地下鉄スイスコテージ駅(Swiss Cottage Tube Stationージュビリーライン(Jubilee Line)やメトロポリタンライン(Metropolitan Line)が停車)から地下鉄ハムステッド駅(Hampstead Tube Stationーノーザンライン(Northern Line)が停車)へ向かって坂道を上って行くと、通りはカレッジクレセント通り(College Crescent)、フィッツジョンズアヴェニュー(Fitzjohn's Avenue)、そして、ヒースストリート(Heath Street)へと名前を変えていく。地下鉄ハムステッド駅の少し手前の道を左手に入ると、そこがチャーチロウ(Church Row)である。
チャーチロウの両側には、ジョージ王朝様式のテラスハウスが並んでいる。ジョージ王朝とは、英国王室ハノーヴァー朝のジョージ1世(George I)からジョージ4世(George IV)が在位した1714年から1830年までの時代を指す。地下鉄ハムステッド駅へと至るヒースストリートは車の往来が多いが、一歩チャーチロウに入ると、抜け道として使用するような通りではないこと、また、途中、車が通過するにはギリギリの幅の箇所があること等から、車の往来は少なく、ヒースストリートの喧騒が嘘のように感じられる位、閑静な場所である。
通りの途中、ヒースストリート側からみて左側に、パリッシュ・チャーチ・オブ・セントジョン・アット・ハムステッド(Parish Church of St. John-at-Hampstead)という教会が建っている。伝承によると、10世紀後半には既に教会があったようではあるが、教会が正式な記録上に出てくるのは14世紀前半である。現在の教会の尖塔は18世紀後半に建てられた模様。英国の風景画家ジョン・コンスタブル(John Constable:1776年ー1837年)は、妻マリアと一緒に、この教会前の墓地に埋葬されている。教会前の墓地、また、チャーチロウを間にして教会の反対側にある墓地は、日中でもひっそりしている。週末や休日等は、ハムステッドを訪れる観光客が墓地の散策をしていたりする。
ジョン・コンスタブルと妻マリアが埋葬されている墓 |
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