2015年4月18日土曜日

ロンドン チャーチロウ(Church Row)

パリッシュ・チャーチ・オブ・セントジョン・アット・ハムステッドから東方面に見たチャーチロウ
通りの突き当たりがヒースストリートで、左に曲がると、地下鉄ハムステッド駅がある

サー・アーサー・コナン・ドイル作「チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン(Charles Augustus Milverton)」(出版社によっては、「犯人は二人」や「恐喝王ミルヴァートン」と訳しているケースあり)において、シャーロック・ホームズは、レディー・エヴァ・ブラックウェル(Lady Eva Brackwell)からの依頼を受けて、彼女が昔出した手紙をロンドン一の悪党かつ恐喝王であるチャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン(Charles Augustus Milverton)から取り戻そうしていた。彼女は2週間後にドーヴァーコート伯爵(Earl of Dovercourt)との結婚式を控えていた。残念ながら、彼女には、ミルヴァートンによる恐喝に対処できるだけの金銭的な余裕はない上、彼女が昔出した手紙が表に出てスキャンダルになった場合、2週間後に予定されている結婚が破談になることは間違いなかった。
レディー・エヴァ・ブラックウェルを絶望的な状況から救い出すために、ホームズとジョン・ワトスンはミルヴァートンの屋敷に夜間侵入して、彼女の手紙を盗み出す計画を立てたのであった。そのため、ホームズは職人に変装して、ミルヴァートンの屋敷のメイドを口説き、屋敷に侵入するのに必要な情報を入手した。


「よし、ワトスン、そうしよう。僕達二人は長い間この同じ部屋に一緒に住んできた訳だし、同じ牢屋に一緒に住むことになるのも面白いかもしれない。ワトスン、君にだけは打ち明けるが、僕は非常に有能な犯罪者になっていたかもしれないと、ずーっと思ってきた。今回は、その才能を示す一生一代の機会だ。これを見てくれ!」と言って、ホームズは引き出しから小綺麗な革のケースを取り出すと、それを開いて、光り輝く道具の数々を私に披露した。「これは一級品の最新侵入キットだ。まず、ニッケルでメッキした組み立て鉄梃(かなてこ)、ダイヤモンドが先に付いたガラス切り、そして、万能鍵。どれもが、文明の進歩に呼応して、近代的な改良が加えられたものばかりだ。これが灯りを外に通さない手提げランプだ。どれも整備が出来ている。ワトスン、君が音がしない靴を持っているかい?」
「ゴム底のテニス靴なら持っているよ。」
「素晴らしい!それでは、マスクは?」
「黒い絹から2つ作ることができるが...」
「君もこの件にかなり乗り気になっているようだな。よし、そのマスクを準備してくれ。それでは、出かける前に、なにか夕食をとろう。今午後9時半だ。11時にチャーチロウまで馬車で行こう。そこからアップルドアタワーズまで歩いて15分だ。12時前には仕事に取り掛れるだろう。ミルヴァートンは眠りが深く、10時半きっかりに寝室へ下がる。運が良ければ、レディー・エヴァの手紙をポケットに入れて、午前2時までにここに戻って来られるさ。」

パリッシュ・チャーチ・オブ・セントジョン・アット・ハムステッドの正面

'Well, well, my dear fellow, be it so. We have shared the same room for some years, and it would be amusing if we ended by sharing the same cell. You know, Watson, I don't mind confessing to you that I have always had an idea that I would have made a highly efficient criminal, this is the chance of my lifetime in that direction. See here!' He took a neat little leather case out of a drawer, and opening it he exhibited a number of shining instruments. 'This is a first-class, up-to-date burgling kit, with nickel-plated jimmy, diamond-tipped glass-cutter, adaptable keys, and every modern improvement which the march of civilization demands. Here, too, is my dark lantern. Everything is in order. Have you a pair of silent shoes?'
'I have rubber-soled tennis shoes.'
'Excellent. And a mask?'
'I can make a couple out of black silk.'
'I can see that you have a strong natural turn for this sort of thing. Very good; do you make the masks. We shall have some cold supper before we start. It is now nine-thirty. At eleven we shall drive as far as Church Row. It is a quarter of an hour's walk from there to Appledore Towers. We shall beat work before midnight. Milverton is a heavy sleeper and retires punctually at ten-thirty. With any luck we should be back here by two, with the Lady Eva's letters in my pocket!'

教会前のチャーチロウの南側住宅棟
教会前のチャーチロウの北側住宅棟

地下鉄スイスコテージ駅(Swiss Cottage Tube Stationージュビリーライン(Jubilee Line)やメトロポリタンライン(Metropolitan Line)が停車)から地下鉄ハムステッド駅(Hampstead Tube Stationーノーザンライン(Northern Line)が停車)へ向かって坂道を上って行くと、通りはカレッジクレセント通り(College Crescent)、フィッツジョンズアヴェニュー(Fitzjohn's Avenue)、そして、ヒースストリート(Heath Street)へと名前を変えていく。地下鉄ハムステッド駅の少し手前の道を左手に入ると、そこがチャーチロウ(Church Row)である。

パリッシュ・チャーチ・オブ・セントジョン・アット・ハムステッドの側面
パリッシュ・チャーチ・オブ・セントジョン・アット・ハムステッドの裏面

チャーチロウの両側には、ジョージ王朝様式のテラスハウスが並んでいる。ジョージ王朝とは、英国王室ハノーヴァー朝のジョージ1世(George I)からジョージ4世(George IV)が在位した1714年から1830年までの時代を指す。地下鉄ハムステッド駅へと至るヒースストリートは車の往来が多いが、一歩チャーチロウに入ると、抜け道として使用するような通りではないこと、また、途中、車が通過するにはギリギリの幅の箇所があること等から、車の往来は少なく、ヒースストリートの喧騒が嘘のように感じられる位、閑静な場所である。

教会の反対側にある墓地入口
教会の反対側にある墓地内は、静謐な場所となっている

通りの途中、ヒースストリート側からみて左側に、パリッシュ・チャーチ・オブ・セントジョン・アット・ハムステッド(Parish Church of St. John-at-Hampstead)という教会が建っている。伝承によると、10世紀後半には既に教会があったようではあるが、教会が正式な記録上に出てくるのは14世紀前半である。現在の教会の尖塔は18世紀後半に建てられた模様。英国の風景画家ジョン・コンスタブル(John Constable:1776年ー1837年)は、妻マリアと一緒に、この教会前の墓地に埋葬されている。教会前の墓地、また、チャーチロウを間にして教会の反対側にある墓地は、日中でもひっそりしている。週末や休日等は、ハムステッドを訪れる観光客が墓地の散策をしていたりする。

ジョン・コンスタブルと妻マリアが埋葬されている墓

 チャーチローは、ヒースストリートとほぼ並行して走るフログナル通り(Frognal)に突き当たったところで終わる。ヒースストリート側から言うと、住宅街、教会と墓地、そして、また住宅街という構成になっている。

教会と墓地を抜けたところにある住宅街

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