東側から見たハムステッドハイストリート(Hampstead High Street)― この坂を上って行くと、右手に地下鉄ハムステッド駅がある |
サー・アーサー・コナン・ドイル作「チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン(Charles Augustus Milverton)」(出版社によっては、「犯人は二人」や「恐喝王ミルヴァートン」と訳しているケースあり)では、シャーロック・ホームズとジョン・ワトスンが夕方の散策からベーカーストリート221Bに戻って来るところから、話が始まる。
ハムステッドハイストリート側からみた ダウンシャーヒル通り(Downshire Hill)― この通りの突き当たりにハムステッドヒースがある |
ホームズと私は夕方の散策に出かけ、ベーカーストリート221Bに戻って来たのは、寒く凍りつくような冬の午後6時頃だった。部屋に入ったホームズがランプを点けると、テーブルの上の名刺がランプの灯りに照らし出された。ホームズはテーブルの上の名刺をちらりと見て、それから不快気な声を上げると、それを床に投げ捨てた。私はその名刺を拾い上げると、次のように書かれていた。
チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン
仲介業
アップルドアタワーズ ハムステッド
「彼は何者なんだい?」と、私は尋ねた。
「ロンドン一の悪党さ!」と、ホームズは座って暖炉の前に足を伸ばしながら答えた。
「名刺の裏に何か書いてあるかい?」
私は名刺を裏返した。
「『午後6時半にまた来る。ーC.A.M.』と書いてある。」と、私は答えた。
ミルヴァートンの屋敷の雰囲気がある住宅(その1) |
We had been out for one of our evening rambles , Holmes and I, and had returned about six o'clock on a cold, frosty winter's evening. As Holmes turned up the lamp the light fell upon a card on the table. He glanced at it, and then, with an ejaculation of disgust, threw it on the floor. I picked it up and read:
Charles Augustus Milverton
Agent Appledore Towers
Hampstead
'Who is he?' I asked.
'The worst man in London,' Holmes answered, as he sat down and stretched his legs before the fire. 'Is anything on the back of the card?'
I turned it over.
'Will call at 6.30 - C.A.M.,' I read.
ミルヴァートンの屋敷の雰囲気がある住宅(その2) |
チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン(Charles Augustus Milverton)の屋敷があるハムステッド(Hampstead)はロンドン北部の閑静な高級住宅地で、地下鉄ノーザンライン(Northern Line)が通るハムズテッド駅(Hampstead Tube Station)を中心として、何本もの通りが起伏を描いて広がるとともに、それらの通り沿いには18世紀のタウンハウスが整然と並んでいる。
ミルヴァートンの屋敷の雰囲気がある住宅(その3) |
ミルヴァートンの屋敷アップルドアタワーズ(Appledore Towers)は架空の建物で、ハムステッド内には存在していない。
ミルヴァートンの屋敷の雰囲気がある住宅(その4) |
ただし、物語の後半で、(1)ホームズとワトスンがレディー・エヴァ・ブラックウェル(Lady Eva Brackwell)の手紙を取り戻すべく、ミルヴァートンの屋敷へ侵入するために、地下鉄ハムステッド駅の南側にあるチャーチロウ(Church Row)から彼の屋敷まで15分歩いていること、そして、(2)ホームズとワトスンにとって全く予期せぬ出来事が発生したものの、彼らはレディー・エヴァ・ブラックウェルの手紙を処分した後、ハムステッドヒース(Hampstead Heath)を横切って逃去ったことを考慮すると、チャーチロウと地下鉄ハムステッド駅の北東方向に広がるハムステッドヒースに挟まれた地域内、更に言えば、ハムステッドヒース近辺の住宅地外れに、ミルヴァートンの屋敷はあったと思われる。実際、この一帯はハムステッドの中でもより高級な住宅地であり、辺りを散策すると、(原作通りに、家の前に私設車道はないものの、)ミルヴァートンの屋敷の雰囲気がある住宅がいくつか点在している。
ミルヴァートンの屋敷の雰囲気がある住宅(その5)― 家の前に私設車道はないが、広い庭があり、 今までの中では一番それらしい |
この一帯には、以下の有名な建物がある。
「キーツハウス」の全景(その1) |
春が遂に到来したキーツハウス前の庭 |
「キーツハウス」の全景(その2) |
1つ目は、キーツグローブ(Keats Grove)にある「キーツハウス(Keats House)」。
英国ロマン派の詩人ジョン・キーツ(John Keats:1795年ー1821年)が、1818年から約2年間、この白い屋敷の一室に住み、様々な先品を書き上げている。この地を去って2年後、ジョン・キーツは旅先であるイタリアのローマで息を引き取っているが、この建物が博物館として彼の足跡を大事に守っている。
「2 ウィローロード」の全景(その1)― 博物館になっているのは、真ん中の住宅で、左右の住宅は個人所有 |
「2 ウィローロード」の全景(その2) |
2つ目は、ウィローロード(Willow Road)沿いにある「2 ウィローロード(2 Willow Road)」。
この近代的なモダン住宅は、ハンガリー生まれの建築家エルノ・ゴールドフィンガー(Erno Goldfinger:1902年ー1987年→1930年代に英国に移住)が家族のために設計した、とのこと。1939年の完成以降、1987年に亡くなるまでの約半世紀、彼はここで家族と共に過ごしたそうである。「2 ウィローロード」は、設計者の名前に因んで、「ゴールドフィンガーハウス(Goldfinger House)」とも呼ばれている。
「2 ウィローロード」は、1994年にナショナルトラスト(National Trust)によって初めての現代建築物(住宅)として取得され、保護されている。
ブルームズベリースクエアガーデンズ内に設置されていた 007をテーマにしたブックベンチの正面 |
ブルームズベリースクエアガーデンズ内に設置されていた 007をテーマにしたブックベンチの裏面 |
ちなみに、エルノ・ゴールドフィンガーは、007シリーズの原作者イアン・ランカスター・フレミング(Ian Lancaster Fleming:1908年ー1964年)と交友関係にあり、イアン・フレミング作「ゴールドフィンガー(Goldfinger:1959年)」はエルノ・ゴールドフィンガーをモデルにしたのではないかと言われている。
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