2015年1月11日日曜日

シャーロック・ホームズの更なる冒険 / シャーロック・ホームズ対ドラキュラ (Sherlock Holmes vs. Dracula)


シャーロック・ホームズの更なる冒険 / シャーロック・ホームズ対ドラキュラ
(The further adventures of Sherlock Holmes / Sherlock Holmes vs. Dracula)
著者  Loren D. Estleman 1978年
出版  Titan Books     2012年

本作品は、映画や後の小説等に大きな影響を与え続けているアイルランド人の作家ブラム・ストーカー(Bram Stoker:1847年ー1912年)による小説「吸血鬼ドラキュラ(Dracula)」(1897年)をベースにしている。
1890年8月初めの蒸し暑いある日、シャーロック・ホームズとジョン・ワトスンは調査依頼の電報を受け取る。続いて、依頼人本人の訪問を受ける。彼は、デイリーグラフ(Daily Graph)のジャーナリストをしているトマス・パーカー(Thomas Parker)で、取材のため、英国北東部の港街ウィットビー(Whitby)に居た。嵐が近づく中、外国船が港に入って来る。港のサーチライトが甲板に横たわる男の死体を浮かび上がらせる。その時、パーカーは、甲板の下から巨大な犬に似た何かが飛び出して暗闇の中に姿を消し去るのを目撃したのである。ホームズとワトスンは、早速ウィットビーに赴き調査を開始するものの、残念ながら、めぼしい進展はみられなかった。

一方、9月末、ロンドン北部のハムステッドヒース(Hampstead Heath)では、子供が白いドレスを着たブロンドの女性に誘われて行方不明になる事件が、4件連続して発生していた。しばらくして子供達は戻って来るのだが、命に別状はないものの、非常に衰弱していたり、喉には何かの動物に咬まれた傷痕が残っていた。これらがウィットビーでの事件と何か関連があると考えたホームズとワトスンは、ハムステッドヒースに向かう。ヒース全体を眺望できる場所で待つこと数時間、ヒースの中から突如叫び声があがった。ホームズ達が駆けつけてみると、喉に咬まれた傷痕がある子供を発見した。翌日一人で捜査に出かけ陽が暮れても戻って来ないホームズの身を案じたワトスンは、単身ハムステッドヒースへ再度出かける。そこでワトスンはついに白いドレスを着たブロンドの女性を見つけた。浮浪者に変装の上、既にヒース内を捜索していたホームズがワトスンに合流して、一緒に女性の後を追う。

霧と暗闇に包まれた地下埋葬室(礼拝・納骨堂)内に入ったホームズとワトスンはそこで、アムステルダム大学のエイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授(Professor Abraham Van Helsing)、精神病院長のジャック・セワード医師(Dr. Jack Seward)、アーサー・ホルムウッド(ゴダルミング卿)(Arthur Holmwood, Lord Godalming)、そして米国テキサス州の大地主であるクウィンシー・モリス(Quincey Morris)に出会う。ヴァン・ヘルシング教授の口からドラキュラ伯爵(Count Dracula)のことが語られる。彼らも、ホームズ達と同様に、ゴダルミング卿の婚約者で、ウィットビーに住んでいたルーシー・ウェステンラ(Lucy Westenra)を追っていたのであるが、彼女は吸血鬼となっていた。彼女を吸血鬼に変えたのは、8月8日嵐をついてウィットビー港に入港した外国船に乗船していたドラキュラ伯爵の仕業であった。
これで、2つの事件が一つに収束したのである。更に、ヴァン・ヘルシング教授は、ドラキュラ伯爵がロンドンの住居(カーファックス屋敷)の購入を計画していること、そして、ある依頼を受け、同年5月にトランシルヴァニア(Transylvania)のドラキュラ城(Castle Dracula)に出向き、囚われの身となっていた新人事務弁護士ジョナサン・ハーカー(Jonathan Harker)を救出したことについても言及した。ただし、ヴァン・ヘルシング教授達は本件を秘密裡に処理する方針で、ホームズとワトスンに対して、本件を自分達に委ねて手を引くように要求した。果たして、ホームズ達の反応は如何に?

ここまでで物語の半分辺りで、残念ながら、物語のもう一人の主人公であるドラキュラ伯爵はまだその姿を現していない。読者としては、ホームズとドラキュラ伯爵の戦いを早く読みたくて、待ち遠しいところである。ウィットビーでの事件、ロンドンのハムステッドヒースでの事件、そして、ヴァン・ヘルシング教授達との出会いを経て、ドラキュラ伯爵が英国の闇の奥で暗躍する様が、次第に明らかになってくる。読む側としては既に予想できているが、非常にわくわくする。ややもどかしい感じはあるものの、いくつかの流れが一つに収束するように物語を徐々に盛り上げて行く著者の腕前はなかなかのものだと思う。

皆さんが推測する通り、ヴァン・ヘルシング教授達の指示に従うホームズとワトスンではなく、彼らに先んじて、ロンドン・パディントン駅(Paddington Station)に到着する前のミナ・ハーカー(Mina Harker:ジョナサン・ハーカーの妻ーブラム・ストーカーの原作では婚約者)に接触し、ドラキュラ伯爵の情報を得る。そして、100ページを過ぎたところで、ベーカー街221Bにドラキュラ伯爵がついにその姿を現すのである。ここから物語は舞台をロンドンからウィットビーへと移し、ホームズとドラキュラ伯爵の戦いは展開する。ホームズが如何にしてドラキュラ伯爵を英国から彼の故郷であるトランシルヴァニアへ撃退するのかが、物語の肝となる。あまり詳しくは書かないが、ホームズは、ドラキュラ伯爵がトランシルヴァニアからウィットビーに持って来たある重要なもの、ドラキュラ伯爵が英国にその身を定住させるのに必要なものを処分することによって、ドラキュラ伯爵にトランシルヴァニアへお帰り願うのである。ホームズファンには非常に残念ではあるが、著者としても、ストーカーの原作にある程度忠実に倣う必要があったためか、最終的にドラキュラ伯爵をトランシルヴァニアで退治するのは、原作通り、ヴァン・ヘルシング教授達なのである。ホームズファンとしては、ホームズがドラキュラ伯爵を退治するところを読みたい気持ちがあるが、「餅は餅屋」でヴァンパイア・ハンターが本業であるヴァン・ヘルシング教授達に委ねる方が、物語的には無難かと思われる。決して、ヴァン・ヘルシング教授達を貶める意図はないが、ホームズにはドラキュラ伯爵との頭脳戦に勝利してもらうのが、彼の役どころなのではないかと考える。そういった意味では、ストーカーの原作および設定をうまく活かしつつ、ホームズがその身を置く推理小説の土俵の上に物語をうまく着地させた訳で、なかなかおもしろかった。


読後の私的評価(満点=5.0)

1)事件や背景の設定について ☆☆☆☆半(4.5)
ホームズとドラキュラの対決が実現。ホームズファンとしては、これも是非読みたかった対決の一つである。ブラム・ストーカーの小説は1897年に出版されており、ちょうどうまくホームズが生きた時代とマッチしている。

2)物語の展開について ☆☆☆☆☆(5.0)
英国北部の港街ウィットビーへのドラキュラ伯爵の上陸、ロンドン北部のハムステッドヒースでの女性吸血鬼事件、そして、ドラキュラ伯爵を追うヴァン・ヘルシング教授達との出会いと舞台を展開しつつ、複数の流れが物語の中盤でついに一つに収束して、ついにドラキュラ伯爵が登場。ここから、物語の終盤、つまり、ホームズがドラキュラ伯爵をどのようにして英国から撃退するのかに向けて、物語をうまく盛り上げている。

3)ホームズ / ワトスンの活躍について ☆☆☆☆半(4.5)
ブラム・ストーカーの原作があるため、最終的にトランシルヴァニアでドラキュラ伯爵を退治するのを、ヴァン・ヘルシング教授達に譲っているものの、ホームズは、彼が最も得意とする頭脳戦でドラキュラ伯爵を英国から撃退しており、活躍度は非常に高い。

4)総合 ☆☆☆☆半(4.5)
ブラム・ストーカーの原作の設定を活かしつつ、ドラキュラ伯爵が属するホラー小説ではなく、ホームズが属する推理小説という土俵内で、物語をうまく着地させており、非常に面白かった。本著者は、先に紹介した「ジキル博士とホームズ(Dr. Jekyll and Mr. Holmes)」(1979年)と同じ人ではあるが、本作品の出来の方が遥かに良かった。正直、「ジキル博士とホームズ」に比べて、本作品の方が非常にのびのびと書かれているように感じる。「ジキル博士とホームズ」の方は、スティーヴンソンの原作に非常に忠実であったことが、逆にかなり制約を受けてしまったものと思われる。

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