2024年1月23日火曜日

アガサ・クリスティー エルキュール・ポワロ 2024年カレンダー(Agatha Christie - Hercule Poirot - Calendar 2024)- 「白昼の悪魔(Evil Under the Sun)」

デヴォン州の密輸業者島を背景にした表紙が、

Jolly Roger Hotel の海岸に置かれているベンチの形に切り取られている。


アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)の作品を出版している英国の Harper Collins Publishers 社から出ているエルキュール・ポワロ(Hercule Poirot)シリーズのペーパーバック版の表紙を使った2024年カレンダーのうち、7番目を紹介したい。


(7)長編「白昼の悪魔(Evil Under the Sun)」(1941年)


本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第29作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第20作目に該っている。



名探偵エルキュール・ポワロは、デヴォン州(Devon)の密輸業者島(Smugglers' Island)にある Jolly Roger Hotel に滞在して、静かな休暇を楽しんでいた。

同ホテルには、美貌の元女優で、実業家ケネス・マーシャル(Kenneth Marshall)の後妻となったアリーナ・マーシャル(Arlena Marshall)も宿泊しており、周囲の異性に対して、魅力を振り撒きながら、避暑地を満喫していた。


Jolly Roger Hotel には、ポワロとアリーナ・マーシャルの他に、以下の人物が宿泊していた。


(1)ケネス・マーシャル(実業家 - 以前、ロザモンド・ダーンリーと交際していたが、アリーナ・マーシャルと結婚)

(2)リンダ・マーシャル(Linda Marshall - ケネス・マーシャルの娘 / 継母のアリーナを疎ましく感じている)

(3)ホーレス・ブラット(Horace Blatt - ヨットが趣味)

(4)バリー少佐(Major Barry - 退役将校)

(5)ロザモンド・ダーンリー(Rosamund Darnley - ドレスメーカー / 以前、ケネス・マーシャルと交際していた)

(6)パトリック・レッドファン(Patrick Redfern - アリーナ・マーシャルと不倫関係にある)

(7)クリスティーン・レッドファン(Christine Redfern - パトリックの妻で、元教師。夫の不倫のため、アリーナ・マーシャルを恨んでいる)

(8)オーデル・C・ガードナー(Odell C. Gardener - 米国人)

(9)キャリー・ガードナー(Carrie Gardener - オーデルの妻)

(10)スティーヴン・レーン(Stephen Lane - 元牧師)

(11)エミリー・ブルースター(Emily Brewster - スポーツが趣味。以前、投資話でアリーナ・マーシャルに損害を負わされたため、彼女を恨んでいる)


ホテルの宿泊客の数名が、アリーナ・マーシャルの存在を疎ましく感じており、そんな不穏な空気の中、ポワロは、「白昼にも、悪魔は居る。(There is evil everywhere under the sun.)」と呟くのであった。


ある朝、アリーナ・マーシャルは、内密の待ち合わせのため、Pixy Cove へと向かう。

午前中、アリーナを除くホテルの宿泊客達は、各々、自由な時間を過ごしていた。

昼前、エミリー・ブルースターを伴って、アリーナを探しに、手漕ぎボートで出かけたパトリック・レッドファンは、Pixy Cove の浜辺に、水着の女性が倒れているのを発見する。パトリックを現場に残して、エミリー・ブルースターは、ボートを漕いで、ホテルへ助けを求めに戻った。

ホテルからの連絡を受けて、Pixy Cove へと駆け付けた地元警察によると、Pixy Cove の浜辺に倒れていた女性は、アリーナ・マーシャルで、男の手で絞殺されていたとの検死結果だった。


アリーナに対して殺害動機を有する容疑者が浮かび上がるものの、完璧なアリバイがあるため、地元警察の捜査は難航する。

アリーナ・マーシャルを殺害した犯人を見つけ出すには、ポワロの登場が必要だった。


2024年1月22日月曜日

ロビン・スティーヴンス作「グッゲンハイムの謎」(The Guggenheim Mystery by Robin Stevens) - その1

2018年に英国の Penguin Random House UK 社から出版された
シヴォーン・ダウド原案 / ロビン・スティーヴンス作
「グッゲンハイムの謎」の
ペーパーバック版の表紙
(Cover illustration : David Dean
) -
グッゲンハイム美術館(Geggenheim Museum)において、
偽の火災が発生している間に、
ワシリー・カンディンスキー(Vassily Kandinsky)の絵画が
盗難に遭うと言う事件が発生する。
画面手前の人物として、左側から、従兄弟のサリム・マククラウド、
主人公のテッド・スパーク、
そして、彼の姉であるカトリーナが描かれている。


本作品「グッゲンハイムの謎(The Guggenheim Mystery)」は、米国カリフォルニア州出身で、現在、英国オックスフォード(Oxford)在住の作家であるロビン・スティーヴンス(Robin Stevens: 1988年ー)が2017年に発表したものである。


英国の小説家で、人権擁護活動家でもあるシヴォーン・ダウド(Siobhan Dowd:1960年ー2007年)は、オックスフォード大学(Lady Margaret Hall, Oxford University)とグリニッジ大学(Greenwich Univeristy)を卒業した後、国際ペンクラブに所属の上、作家達の人権擁護活動を経て、2006年に作家デビューした。彼女は、第2作目に該るジュヴナイル向けの推理小説「ロンドンアイの謎(The London Eye Mystery → 2024年1月11日 / 1月15日 / 1月19日付ブログで紹介済)」(2007年)の発表直後の2007年8月21日に、乳癌のために亡くなった。なお、「ロンドンアイの謎」は、2007 NANSEN & TES Special Educational Needs Children’s Book Award を受賞している。


また、「ロンドンアイの謎」の日本語翻訳版が、2022年7月に、東京創元社から刊行されている。

なお、本作品は、


*第3位「2023本格ミステリ・ベスト10」海外篇

*第7位「このミステリーがすごい!2023年版」海外編

*第9位<週刊文春>2022ミステリーベスト10 海外部門


に選出された。


作者のシヴォーン・ダウドは、「ロンドンアイの謎」を出版した時点で、少年のテッド・スパーク(Ted Spark)を主人公とする第2作目に該る「グッゲンハイムの謎」を執筆する契約を既に交わしていた。ところが、その直後に、シヴォーン・ダウドは亡くなったため、テッド・スパークシリーズの第2作目が宙に浮いてしまった。

そこで、シヴォーン・ダウド基金(Siobhan Dowd Trust)は、「ロンドンアイの謎」の続編を執筆できる作家を選定の上、2015年にロビン・スティーヴンスに白羽の矢を立てたのである。


ロビン・スティーヴンスは、米国カリフォルニア州に生まれた後、3歳から英国オックスフォードで育った。

彼女は、大学で推理小説を専攻した後、ジュヴナイル向けの本の出版に携わった。

そして、彼女の作家デビュー作に該る「お嬢さま学校にはふさわしくない死体(The Murder Most Unladylike)」(2014年)が好評を博して、シリーズ化され、2021年までに、全12作が発表された。2022年からは、新シリーズとなる The Ministry of Unladylike Activity Series が開始している。


シヴォーン・ダウド基金から「ロンドンアイの謎」の続編執筆を依頼されたロビン・スティーヴンスは、シヴォーン・ダウドが残した「The Guggenheim Mystery」と言う3つの単語だけをベースにして、構想を練り、2017年に「グッゲンハイムの謎」を発表したのである。

なお「ゲッゲンハイムの謎」の日本語翻訳版が、2022年12月に、「ロンドンアイの謎」と同様に、東京創元社から刊行されている。


2024年1月20日土曜日

アガサ・クリスティーのトランプ(Agatha Christie - Playing Cards)- その4

英国の Laurence King Publishing Group Ltd. より、昨年(2023年)に発行されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)をテーマにしたトランプの各カードについて、引き続き、紹介したい。

(9)3 ♠️「バトル警視(Superintendent Battle)」



彼は、スコットランドヤードの警視で、主に政治に関係する重要な問題を取り扱う。大柄の体格、彫りが深くて無表情な顔、そして、エルキュール・ポワロに匹敵する口髭が特徴。

バトル警視には、妻のメアリー(Mary Battle)との間に、5人の子供が居て、末娘の名前は、シルヴィア(Sylvia Battle)である。また、甥には、バトル警視と同じく、スコットランドヤードに所属するジェイムズ・リーチ警部(Inspector James Leach)が居る。


登場作品

<長編>

*「チムニーズ館の秘密(The Secret of Chimneys)」(1925年)

*「七つの時計(The Seven Dials Mystery)」(1929年)

*「ひらいたトランプ(Cards on the Table)」(1936年)- エルキュール・ポワロ シリーズ

*「殺人は容易だ(Murder is Easy)」(1939年)

*「ゼロ時間へ(Towards Zero)」(1944年)


(10)3 ❤️「匿名の怪文書(Anonymous Letter)」



長編「動く指(The Moving Finger)」(1942年)において、戦時中の飛行機事故によって重傷を負ったジェリー・バートン(Jerry Burton)は、医者の勧めを受けて、妹のジョアナ(Joanna Burton)の介護の下、ロンドンからリムストック(Lymstock)へ静養にやって来るが、二人が丘の上の家に落ち着いて、まもなく、「ジェリーとジョアナは、本当の兄妹ではない。」と言う匿名の手紙を受け取る。リムストック内では、以前から住民を誹謗中傷する怪文書が出回っていた。そして、匿名の怪文書は、新たなる悲劇を引き起こす。リムストックの住民達が恐れていたことが、遂に、手紙の受取人の自殺という形で、現実のものとなるのであった。


本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第33作目に該り、ミス・ジェイン・マープルシリーズの長編のうち、第3作目に該っている。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作ミス・ジェイン・マープルシリーズ
「動く指」のペーパーバック版の表紙
<イラスト:ビル・ブラッグ氏(Mr. Bill Bragg)>


(11)3 ♣️「吹き矢とその筒(Blowpipe and Dart)」



長編「雲をつかむ死(Death in the Clouds)」(1935年)において、名探偵エルキュール・ポワロは、パリ(Le Bourget Airfield)からロンドン(Croydon Airport)へと戻る飛行機の機上の人となっていた。機内では、ポワロは、ほとんどの時間、眠っていたが、飛行機が英国側に着陸する間近になると、ポワロが座る後部区画内をスズメバチが飛び回り始めたため、スチュワードがそのスズメバチを捕まえようとしたところ、乗客の一人であるマダム・ジゼル(Madame Giselle - フランス人の金貸し / 本名:マリー・モリソー(Marie Morisot))が死んでいるのを発見する。

目が覚めたポワロは、マダム・ジゼルが亡くなっていることを聞くと、彼女がスズメバチに刺されたショックで死亡したとういう説を否定する。ポワロの指摘通り、亡くなったマダム・ジゼルが座っていた座席の近くの床の上に、毒が塗られた矢の先端が落ちており、その矢で首を刺されたことが、マダム・ジゼルの死亡原因であることが判明する。

更に、驚くことには、ポワロが座っていた座席の脇から、毒が塗られた矢の先端を発射したと思われる小さな吹き矢の筒が見つかった。

マダム・ジゼル殺害の容疑者とされたことに立腹したポワロは、汚名を返上するべく、事件を解決することを誓うのであった。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ
「雲をつかむ死」のペーパーバック版の表紙

本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第17作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第10作目に該っている。


(12)3 ♦️「エジプトのお守り(Egyptian Amulet)」



長編「死が最後にやってくる(Death Comes As the End)」(1945年)は、紀元前二千年のナイル河畔に所在するエジプトの古代都市を舞台に惨劇が展開する異色ミステリーで、お守りは、本作品に登場する。


本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第35作目に該る。


2024年1月19日金曜日

シヴォーン・ダウド作「ロンドンアイの謎」(The London Eye Mystery by Siobhan Dowd) - その3

2016年に英国の Penguin Random House UK 社から出版された
シヴォーン・ダウド作「ロンドンアイの謎」の
ペーパーバック版の内扉


読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆☆(3.0)


「チケットを買ったものの、高所恐怖症なので、乗りたくなくなった。」と言う見知らぬ若い男性からもらったチケットを使い、従兄弟のサリム・マククラウド(Salim McCloud)は、多くの観光客と一緒に、ロンドンアイ(London Eye - テムズ河の南岸に建つ巨大な観覧車)のカプセルに乗り込んで行った。

12歳のテッド・スパーク(Ted Spark)と姉のカトリーナ(Katrina - 愛称:カット(Kat))が見守る中、一周して、下に降りてきたカプセルから、他の観光客は出て来たが、何故か、サリムだけが出て来なかった。彼だけが、どこかに消えてしまったのである。

パリの予審判事のアンリ・バンコラン(Henri Bencolin)やギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)を、また、カーター・ディクスン(Carter Dickson)と言う別名義の作品では、ヘンリー・メルヴェール卿(Sir Henry Merrivale)を探偵役として活躍させ、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)が非常に好みそうな「密室状況」における人間消失事件と言える。

正直ベース、密室や不可能犯罪に関する推理小説、特に、ジョン・ディクスン・カー作品を読み慣れた大人の読者であれば、一周して、下に降りてきたカプセルから、サリムだけが出て来なかったトリックについては、その時点で簡単に看破可能だと思う。何故ならば、サリムを含め、ロンドンアイの観覧車に乗り込んで行った観光客の人数は、一周して、下に降りてきたカプセルから出て来た人数と、全く変わらないからである。

英国の場合、9歳から12歳を対象とするコーナーに、本作品は置かれているので、その位の年齢の子達には、十分面白いのかもしれないが、大人が推理小説として楽しむには、少しばかり難しいように思える。


(2)物語の展開について ☆☆半(2.5)


本作品は、「密室状況」における人間消失と言うたった一つのトリックで成り立っている。

筆者の場合、サリムがロンドンアイのカプセルから姿を消してしまった謎が、その時点(約60ページ目)で判ってしまった。ただし、物語の最後までに、260ページ近くが残っていた。

息子が消失してしまった叔母のグロリア(Gloria)による騒ぎを受けて、テッドと姉のカットの2人が、自分達だけで、サリムが消失した謎を解こうと、乗り出していく。彼らは、色々と仮説を提示するものの、残念ながら、なかなか話が進展しない。

物語のかなり早い段階で、謎が解けてしまっていたので、残りの260ページ近くを読み進めて行くのは、大変ではあった。


(3)テッド・スパークの活躍について ☆☆☆(3.0)


姉のカットと一緒に、謎の解明に取り組み始めたテッドは、早速、ありそうもないものを含めて、8通りの仮説を提示する。

テッドは、「白面の兵士(The Blanched Soldier → 2022年9月3日 / 9月6日 / 9月21日付ブログで紹介済)」において、シャーロック・ホームズが語った非常に有名な台詞である「不可能な事柄を全て消去していった時、どんなにありそうもないことであっても、残ったもの、それこそが真実である。(when you have eliminated all which is impossible, then whatever remains, however improbable, must be the truth.)」を引用している。

8通りの仮説で、謎を解明できなかったテッドは、更に9番目の仮説を考え出す。

作者であるシヴォーン・ダウド(Siobhan Dowd:1960年ー2007年)は、フェアに謎の手掛かりを提示しているので、密室や不可能犯罪に関する推理小説を読み慣れた大人の読者であれば、簡単に謎を解明することが可能である。

気象学の知識は専門家並みと言う少し「変わった」頭脳を持つテッドが、カプセルと言う密室からサリムが消失した謎に挑むと言う点が、新基軸とは言える。


(4)総合評価 ☆☆☆(3.0)


本作品「ロンドンアイの謎」の日本語翻訳版が、2022年7月に、東京創元社から刊行されており、


*第3位「2023本格ミステリ・ベスト10」海外篇

*第7位「このミステリーがすごい!2023年版」海外編

*第9位<週刊文春>2022ミステリーベスト10 海外部門


に選出された。

ただ、内容的には、英国における陳列通り、ジュヴナイル作品であり、大人向けとしては、なかなか難しいように感じる。日本における本作品の評価は、かなり高いようだが、推理小説としてだけで言えば、筆者的には、正直ベース、「☆☆半(2.5)」を付けたいところである。


本作品の場合、


・気象学の知識は専門家並みと言う少し「変わった」頭脳を持つテッドが主人公であること

・テッドの姉のカットは、この時点で、13歳位であるが、両親に隠れて、タバコを吸っていること

・従兄弟のサリムは、インド人の父(医師)と英国人の母のハーフであるが、学校では、パキスタン人を蔑視する名前で、他の生徒達から苛められていたこと(なお、サリムの両親は離婚しており、サリムは、母のグロリアと一緒に、生活している)

・サリムの失踪に伴う彼の家族の再生


等、現代におけるいろいろな世相を背景としており、「子供達には、子供達の世界がある。」と言う重要なメッセージを打ち出しているので、総合評価を「☆☆☆(3.0)」に戻した。



2024年1月18日木曜日

アガサ・クリスティー エルキュール・ポワロ 2024年カレンダー(Agatha Christie - Hercule Poirot - Calendar 2024)- 「ABC 殺人事件(The ABC Murders)」

ABC と名乗る犯人の策略により、ストッキングのセールスマンとして、

英国内を巡っているアレクサンダー・ボナパルト・カスト

(Alexander Bonaparte Cust)が従軍した

第一次世界大戦の戦場跡(?)と思われる草原の表紙が、

ABC と名乗る犯人がエルキュール・ポワロ宛に送り付けた超戦場を

タイプするのに使用されたタイプライターの形に切り取られている。

もしかすると、表紙の草原は、

サー・カーマイケル・クラークが引退したチャーストンにある屋敷の敷地なのかもしれない。


アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)の作品を出版している英国の Harper Collins Publishers 社から出ているエルキュール・ポワロ(Hercule Poirot)シリーズのペーパーバック版の表紙を使った2024年カレンダーのうち、6番目を紹介したい。


(6)長編「ABC 殺人事件(The ABC Murders)」(1935年)


本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第18作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第11作目に該っている。



南アフリカから戻ったアーサー・ヘイスティングス大尉(Captain Arthur Hastings)は、ロンドンに新しいフラットを構えた友人エルキュール・ポワロの元を訪れた。

そんなポワロの元に、ABC と名乗る謎の人物から、「アンドーヴァー(Andover)を警戒せよ。」と警告する手紙が届いていたのだ。


そして、その手紙通り、「A」で始まるアンドーヴァーにおいて、小さなタバコ屋を切り盛りしていた老女で、イニシャルが「A. A.」のアリス・アッシャー(Alice Asher)が殺害されたのである。その上、彼女の死体の傍らには、「ABC 鉄道案内(ABC Railway Guide)」が置かれていた。

アリス・アッシャーの殺害犯として、大酒飲みで、妻の彼女に度々お金をせびっていた夫のフランツ・アッシャー(Franz Ascher)が、警察によって疑われる。


その最中、ABC と名乗る謎の人物からポワロの元に、第2、そして、第3の犯行を予告する手紙が届く。


第2の殺人事件として、「B」で始まるべクスヒル(Bexhill)において、カフェのウェイトレスとして働いていた若い女性で、イニシャルが「B. B.」のエリザベス(ベティー)・バーナード(Elizabeth (Betty) Barnard)が殺害される。

今度は、ベティー・バーナードの殺害犯として、彼女の婚約者で、不動産関係の仕事をしているドナルド・フレーザー(Donald Fraser)が、警察によって疑われる。何故なら、殺されたベティー・バーナードの場合、異性関係に少々だらしなかったため、彼女の異性関係に着いて、2人の間で、何度も言い争いが起きていたからである。


続いて、第3の殺人事件として、「C」で始まるチャーストン(Churston)において、かつて医師として成功した大富豪で、イニシャルが「C. C.」のサー・カーマイケル・クラーク(Sir Carmichael Clarke)が殺害された。


ベティー・バーナードとサー・カーマイケル・クラークの死体の傍にも、「ABC 鉄道案内」が置かれていたのである。


ポワロは、ABC と名乗る犯人が、住んでいる場所の頭文字とイニシャルが合致する人物を、アルファベット順に選び出した上で、殺害しているものと推測した。

ところが、それぞれの被害者に対して、殺害動機を有する者は存在しているが、全ての被害者に対して、殺害動機を有する人物は居なかった。また、被害者達には、ABC 以外の関連性はなく、ABC と名乗る犯人の正体とその動機については、判らなかった。


ポワロは、以下の事件関係者達を集まると、ABC と名乗る犯人の正体を捕まえるチームを結成するのであった。


(1)メアリー・ドローワー(Mary Drower)- アリス・アッシャーの姪で、アンドーヴァー近郊の屋敷でメイドとして働いている。

(2)ドナルド・フレーザー - ベティー・バーナードの婚約者

(3)メーガン・バーナード(Megan Barnard)- ベティー・バーナードの姉で、ロンドンでタイピストとして働いている。

(4)フランクリン・クラーク(Franklin Clarke)- サー・カーマイケル・クラークの弟で、兄の右腕として、兄が趣味としている骨董品を、世界中から買い集めている。

(5)ソーラ・グレイ(Thora Grey)- サー・カーマイケル・クラークの秘書


「ABC 殺人事件」は、ミッシングリンクをテーマにしたミステリー作品の中でも、最高峰と評価される作品で、知名度・評価ともに非常に高く、アガサ・クリスティーの代表作の一つとなっている。


2024年1月17日水曜日

シャーロック・ホームズのトランプ(Sherlock Holmes - Playing Cards)- その7

英国の Laurence King Publishing Group Ltd. より、一昨年(2022年)に発行されたシャーロック・ホームズをテーマにしたトランプの各カードについて、前回に引き続き、紹介したい。


(21)6 ❤️拡大鏡(Magnifying Glass)」



拡大鏡は、シャーロック・ホームズにとって、事件捜査を進める上で、必要不可欠な道具である。


英国で出版された「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」
1901年8月号「バスカヴィル家の犬」に掲載された挿絵 -
第1章「シャーロック・ホームズ氏(Mr Sherlock Holmes)」
シャーロック・ホームズは、
サー・ヘンリー・バスカヴィル(Sir Henry Baskervilles)の主治医である
ジェイムズ・モーティマー医師(Dr. James Mortimer)が
ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 /
6月29日付ブログで紹介済)に忘れて行ったステッキを
窓の側まで持って行き、拡大鏡で調べた。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット
(Sidney Edward Paget:1860年ー1908年)

(22)6 ♠️「フォン・ボルクVon Bork)」



フォン・ボルク(Von Bork)は、「最後の挨拶(His Last Bow → 2021年6月3日付ブログで紹介済)」事件に登場するドイツ人のスパイである。


英国で出版された「ストランドマガジン」
1917年9月号「最後の挨拶」に掲載された挿絵 -
画面手前右の人物は、アイルランド系米国人のスパイである
アルタモントに変装していたシャーロック・ホームズで、
画面手前左の人物が、アルタモントの運転手に変装していたジョン・H・ワトスン。
そして、画面奥の人物は、ホームズに縛り上げられた
ドイツ人のスパイであるフォン・ボルク。


「最後の挨拶」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、44番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1917年9月号に、また、米国では、「コリアーズ ウィークリー(Collier’s Weekly)」の1917年9月22日号に掲載された。

また、同作品は、同年(1917年)に発行されたホームズシリーズの第4短編集「シャーロック・ホームズ 最後の挨拶(His Last Bow)」に収録されている。その際、タイトルに、「シャーロック・ホームズの軍務(The War Service of Sherlock Holmes)」、そして、「シャーロック・ホームズのエピローグ(An Epilogue of Sherlock Holmes)」という副題が付け加えられている。


(23)6 ♦️「沼マムシ(Swamp Adder)」



沼マムシ(swamp adder)は、「まだらの紐(The Speckled Band)」事件に出てくる蛇である。


英国で出版された「ストランドマガジン」
1892年2月号「まだらの紐」に掲載された挿絵 -

シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンが、
グリムズビー・ロイロット博士(Dr. Grimesby Roylott)の部屋に入ると、
彼は沼マムシに噛まれて、既に死んでいた。
画面左側から、ワトスン、ホームズ、そして、グリムズビー・ロイロット博士。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット
(1860年 - 1908年)


「まだらの紐」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、8番目に発表された作品で、英国の「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1892年2月号に掲載された。

また、同作品は、1892年に発行されたホームズシリーズの第1短編集「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」に収録されている。


(24)6 ♣️バーカー(Barker)



バーカーは、「隠居絵具屋(The Retired Colourman)」事件に登場するシャーロック・ホームズの友人で、かつ、ライヴァルの探偵である。


英国で出版された「ストランドマガジン」
1927年1月号「隠居絵具屋」に掲載された挿絵 -
シャーロック・ホームズが、朝早く、
画材製造業ブリックホール&アンバリー(Brickhall & Amberley)の経営者の一人から
引退したジョサイア・アンバリー(Josiah Amberley)の家にある
食料保管室の窓から抜け出そうとした際、
何者かに襟の内側を掴まれた。
色付きの眼鏡(サングラス)を掛けたその人物は、
ホームズの友人で、かつ、ライヴァルのバーカーであった。
彼は、レイ・アーネスト医師(Dr. Ray Ernest)の家族からの依頼を受けて、
ジョサイア・アンバリーの家を見張っていたのである。
左側の人物がホームズで、右側の人物がバーカー。


「隠居絵具屋」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、54番目に発表された作品で、英国の「ストランドマガジン」の1927年1月号に、また、米国では、「リバティー(Liberty)」の1926年12月18日号に掲載された。

また、同作品は、1927年に発行されたホームズシリーズの第5短編集「シャーロック・ホームズの事件簿(The Case-Book of Sherlock Holmes)」に収録されている。なお、本作品は、同短編集への収録順における最終エピソードとなっている。


2024年1月16日火曜日

アガサ・クリスティーのトランプ(Agatha Christie - Playing Cards)- その3

英国の Laurence King Publishing Group Ltd. より、昨年(2023年)に発行されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)をテーマにしたトランプの各カードについて、引き続き、紹介したい。


(5)2 ♠️「サタースウェイト氏(Mr. Satterthwaite)」



金持ちの初老の男性で、アガサ・クリスティーのシリーズ探偵の一人であるハーリー・クィン(Harley Quin)の作品に主に登場するが、エルキュール・ポワロの作品にも登場している。

ハーリー・クィンシリーズの場合、クィン氏は自分で謎を解くことはしないで、サタースウェイト氏に対して、示唆を与えるだけである。クィン氏による示唆を受けて、実際に、謎を解くのは、サタースウェイト氏自身である。

なお、サタースウェイト氏の名前は、残念ながら、不明のままである。


登場作品

<長編>

*「三幕の悲劇(Three Act Tragedy)」(1935年)- エルキュール・ポワロシリーズ

<短編集>

*「謎のクィン氏(The Mysterious Mr. Quin)」(1930年)- ハーリー・クィンシリーズ

 ・「クィン氏登場(The Coming of Mr. Quin)」

 ・「窓ガラスに映る影(The Shadow on the Glass)」

 ・「<鈴と道化服>亭奇聞(At the ‘Bells and Motley’)」

 ・「空のしるし(The Sign in the Sky)」

 ・「クルピエの真情(The Soul of the Croupler)」

 ・「海から来た男(The Man from the Sea)」

 ・「闇からの声(The Voice in the Dark)」

 ・「ヘレンの顔(The Face of Helen)」

 ・「死んだ道化役者(The Dead Harlequin)」

 ・「翼の折れた鳥(The Bird with the Broken Wing)」

 ・「世界の果て(The World’s End)」

 ・「道化師の小径(Harlequin’s Lane)」

*「死人の鏡(Murder in the Mews)」(1937年)

 ・「死人の鏡(Dead Man’s Mirror)」- エルキュール・ポワロシリーズ

*「愛の探偵たち(Three Blind Mice and Other Stories)」(1950年)

 ・「愛の探偵たち(The Love Detectives)」ハーリー・クィンシリーズ

*「マン島の黄金(While the Light Last)」(1997年)

 ・「クィン氏のティーセット(The Harlequin Tea Set)」ハーリー・クィンシリーズ


(6)2 ❤️「ボールを咥えた犬(Dog with Ball)」



ボールを口に咥えた犬は、エミリー・アランデル(Emily Arundell)の飼い犬であるテリア犬ボブ(Bob)で、長編「もの言えぬ証人(Dumb Witness)」(1937年)に登場する。


本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第21作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第14作目に該っている。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ
「もの言えぬ証人」のペーパーバック版の表紙

(7)2 ♣️「暖炉の火搔き棒(Fireplace Poker)」



長編「無実はさいなむ( Ordeal by Innocence)」(1958年)において、暖炉の火搔き棒は、サニーポイント邸(Sunny Point)の書斎で、資産家のレイチェル・アージル(Rachel Argyle)が、後頭部を殴られて、殺害される凶器として使用されている。


本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第50作目に該る。


(8)2 ♦️「現金の隠し場所(Stash of Cash)」



長編「アクロイド殺し(The Murder of Roger Ackroyd)」(1926年)において、フェルンリーパーク館(Fernly Park)の書斎で、富豪のロジャー・アクロイド(Roger Ackroyd)が刺殺されて、彼の部屋から現金が盗まれる。


本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第6作目に該り、そして、エルキュール・ポワロシリーズの長編としては、第3作目に該る。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ
「アクロイド殺し」のペーパーバック版の表紙