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セントバーソロミュー病院の特別病棟に入院していた患者の一人である エリナー・ランガムが住む邸宅に一番イメージが近い住居。 |
英国の作家であるミシェル・バークビー(Michelle Birkby)作の長編第2作目に該る「ベイカー街の女たちと幽霊少年団(The Women of Baker Street → 2025年5月2日 / 5月24日 / 5月29日 / 6月4日付ブログで紹介済)」(2017年)の場合、ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)の家主であるハドスン夫人(Mrs. Hudson - マーサ・ハドスン(Martha Hudson))は、腹部の閉塞症のため、セントバーソロミュー病院(St. Bartholomew's Hospital → 2014年6月14日付ブログで紹介済)で緊急手術を受けるところから、物語が始まる。
同病院の特別病棟内のベッドの上で目を覚ましたハドスン夫人は、モルヒネと麻酔薬の投与により、目が覚めた後も頭にまだ霞がかかったようになっていた。
その時、ハドスン夫人は、病室のとりわけ暗い一角に、うごめく影のかたまりを見た。ハドスン夫人が目を凝らしていると、影のかたまりは、彼女のベッドの裾を横切り、彼女の斜向かいにあるベッドへと向かった。朦朧とする意識のなか、ハドスン夫人は、その影のかたまりがそのベッドの上に覆いかぶさるのを目撃した後、突如、深い眠りへ引きずり込まれると、意識が遠のく。
翌朝、ハドスン夫人が再度目覚めると、シスターと若い医師が、彼女の斜向かいの空っぽのベッドの側に立って、話し合いをしているのが聞こえた。昨夜、ハドスン夫人が目撃した通り、影のかたまりが覆いかぶさっていたベッドの女性は、今朝、亡くなっているのが見つかったのである。
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英国の Pam Macmillan 社から2017年に出版された ミシェル・バークビー作「ベイカー街の女たちと幽霊少年団」の ペーパーバック版内に付されている セントバーソロミュー病院の特別病棟の見取り図 |
それから数日後の夜、ハドスン夫人は、消灯後、眠りに落ちたが、午前3時頃、悪夢に襲われて、目が覚めた。目が覚めたものの、何故か、身体が全く動かず、また、助けを呼ぼうにも声も出なかった。
すると、入院初日の晩と全く同じことが起きる。病室の隅の黒いかたまりから、人の形をしたものがすうっと出て来たのだ。そして、エマ・フォーダイス(Emma Fordyce - ミランダ・ローガン(Miranda Logan)の正面に居る患者 / 歳を召していて、あちこち悪いところがあるみたいだが、老いを楽しんでいる様子 / 過去に非凡な面白い体験をしていて、思い出話を他の人に聞かせるのが大好き)が眠るベッドの側に立った。その時、エマ・フォーダイスが目を覚まして、はっと息をのんだ後、悲鳴を上げようとしたが、その人影は、いきなり側にあった枕を掴むと、彼女の顔に押し付けた。エマ・フォーダイスは激しく暴れた、次第に抵抗が弱くなり、最後は、ぐったりとして動かなくなった。
ハドスン夫人は、入院初日に続き、2つ目の殺人現場を目撃したことになる。
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画面奥左側に建つパブ「ウィンザー城(Windsor Castle)」は、既に閉鎖済で、 画面奥中央から画面奥右側にかけての建物には、 ロンドンビジネススクール(London Business School)が以前入居していた。 なお、画面奥右の方面へ進むと、地下鉄ベイカーストリート駅へと至る。 |
一方、ワトスン夫人(Mrs. Watson)となったメアリー・ワトスン(Mary Watson - 旧姓:モースタン(Morstan))は、ベイカーストリート221B の給仕のビリー(Billy)経由、ベイカーストリート不正規隊(Baker Street Irregulars)のウィギンズ(Wiggins)から聞いた話が気になっていた。
それは、「幽霊少年団(The Pale Boys)」のことだった。
(1)夜間だけ、街角に姿を見せる。
(2)街灯の明かりには決して近付かない。
(3)往来の激しい大通りには、足を踏み入れない。
(4)全員、青白い顔をして、闇に溶け込みそうな黒づくめの服装をしている。
(5)薄暗い道端や人気の無い路地を彷徨く。
(6)何年経っても、歳をとらないし、飲んだり食べたりもしない。
(7)彼らの姿を見た者は、死んでしまう。
(She told me the tale of the Pale Boys. Boys who came onto the street only at night. They never came into the light. They never went onto the Main Street. They had pale faces, and all black clothes, and they melted into the shadows. They walked in dark corners and deserted alleyways. They never grew old, and never ate or drank and if you saw them, you would die.)
セントバーソロミュー病院を退院したハドスン夫人と同席するメアリー・ワトスンは、セントバーソロミュー病院の特別病棟内で発生した殺人事件とロンドン市内に姿を現す「幽霊少年団」の2つの謎を追うことになった。
I had asked Grace for Eleanor Langham’s address, saying I wanted to visit her now we were both home. I felt the only way to continue my investigation, and also to shake away the dread of the hospital ward, was to visit these women. I wanted to see them not as fellow patients, but as people in their own homes, surrounded by their own things, with heir own family. I knew how different people could be in those circumstances. I certainly was. Outside of that ward, I was stronger, no longer the weak, trembling creature afraid of a hospital bed. To my relief, Eleanor handily lives just round the corner, on Park Road.
(中略)
Eleanor Langham lived in a huge White House on the western edge of Regent’s Park. It was ornamented and curlicued and obviously very expensive. It made me pause for a moment - but only a moment.
そこで、お互い退院して自宅にいるのだからお見舞いに行きたい、という口実でグレイスにエリナー・ランガムの住所を教えてもらった。私が病院で目撃した不可解な死を調べるうえで、あそこに居合わせた患者と話すことが唯一のとっかかりと考えたからだ。あの病室に対して今も感じている恐怖を吹き飛ばすためにも、彼女たちと会わなければならない。病室ではなく、相手が自分の物に囲まれて家族と一緒に過ごしている場所を訪ねて。人は入院中と自宅に戻ったときとでは全然ちがう。わたし自身もそうだ。病院のベッドを震えるほど怖がっていたのが嘘のように、いまはこのとおり心身ともにしっかりしている。幸いにして、エリナーの家はここベイカー街から近いパーク・ロード沿いにあった。
(中略)
エリナー・ランガムはリージェンツ・パークの西端に建つ大きな邸宅に住んでいた。渦巻き形などの凝った装飾をほどこされた、明らかにお金のかかっている高級な建物だった。その堂々たる外観に気圧され、思わず足が止まったが、もちろんほんの一瞬のこと。ここまで来て迷っている場合ではない。
(駒月 雅子訳)
セントバーソロミュー病院の特別病棟でハドスン夫人と同室だったエリナー・ランガム(Eleanor Langham - ベティー・ソランド(Betty Soland)の正面に居る患者 / 心臓病のため、最近手術を受けたばかり / ベッドの脇にある椅子が定位置で、大抵の時間は、ただ椅子に腰掛けて、周りの様子を眺めている)が住む邸宅があるパークロード(Park Road)は、実在する通りで、リージェンツパークの西側を囲んでいる。
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この環状道路が、パークロードの北端に該る。 画面右側へ進むと、プリンスアルバートロード(Prince Albert Road → 2025年6月9日付ブログで紹介済)へと至る。 画面左奥へ進むと、パークロードは、 ウェリントンロードへと名前を変えて、更に北上していく。 |
地下鉄ベイカーストリート駅(Baker Street Tube Station → 2014年4月18日 / 4月21日 / 4月26日 / 4月27日 / 5月3日 / 5月10日 / 5月11日 / 5月18日付ブログで紹介済)の前を通り、ロンドン市内から北上してきたベイカーストリート(Baker Street → 2016年10月1日付ブログで紹介済)は、リージェンツパークの南西の角にあたったところで終わり、パークロードへと名前を変え、セントジョンズウッド地区(St. John’s Wood→2014年6月17日付ブログで紹介済)へと向かって北上する。
そして、パークロードは、リージェンツパークの北西の角にあたったところで終わり、ウェリントンロード(Wellington Road)へと名前を変え、更に、地下鉄セントジョンズウッド駅(St. John’s Wood Tube Station)の前を通過したところで、フィンチリーロード(Finchley Road)へと変わり、北上を続けていく。
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パークロード沿いに建つルドルフ・シュタイナーハウスの建物外観 |
パークロード(Park Road)沿いの35番地(35 Park Road, Marylebone, London NW1 6XT)には、以前に御紹介した「ルドルフ・シュタイナーハウス(Rudolf Steiner House → 2019年8月18日付ブログで紹介済)」が建っている。
本屋入居スペースの窓ガラス上部にある庇部分に、 19世紀末から20世紀前半にかけて、オーストリアやドイツで活動した哲学者、教育者、建築家、経済学者で、 神秘思想家でもあったルドルフ・シュタイナー(Rudolf Steiner:1861年ー1925年)が用いた 「ゲーテアヌム」という独特の形容が見受けられる。 |