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英国で出版された「ストランドマガジン」 1892年1月号に掲載された挿絵(その4) -
トッテナムコートロードとグッジストリートの角で起きた喧嘩の現場に残された ガチョウと帽子の持ち主であるヘンリー・ベイカーが、 今回の事件の鍵を握っていると考えたシャーロック・ホームズは、 ロンドン中の新聞に、ガチョウと帽子の持ち主を探す広告を載せると、 指定の日時に、ヘンリー・ベイカー本人が、ホームズの元に名乗り出て来た。 画面左側から、シャーロック・ホームズ、ジョン・H・ワトスン、 そして、ヘンリー・ベイカーが描かれている。 挿絵:シドニー・エドワード・パジェット (Sidney Edward Paget:1860年 - 1908年) |
サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作「青いガーネット(The Blue Carbuncle)」は、ある年のクリスマスから2日目の朝(on the second morning after Christmas)である12月27日、ジョン・H・ワトスンがベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)のシャーロック・ホームズの元を訪れるところから、その物語が始まる。
ワトスンが部屋に入ると、紫色の化粧着を着て、ソファーの上で寛ぐシャーロック・ホームズは、ソファーの隣りに置かれた木製椅子の背もたれの角に掛けられている薄れてボロボロになった固いフェルト製帽子を、拡大鏡とピンセットで調べている最中だった。
ワトスンの問いに、ホームズは「この帽子は、退役軍人(commissionaire)のピータースン(Peterson)が置いていったものだ。」と答える。そして、ホームズは、ワトスンに対して、トッテナムコートロード(Tottenham Court Road → 2015年8月15日付ブログで紹介済)とグッジストリート(Goodge Street → 2014年12月27日付ブログで紹介済)の角において、ピータースンがボロボロになった帽子と丸々と太った白いガチョウを手に入れることになった経緯を語り始める。
トッテナムコートロードとグッジストリートの角で起きた喧嘩の現場に残されていた帽子には、「H. B.」のイニシャルが、そして、ガチョウの左脚には、「ヘンリー・ベイカー夫人へ(For Mrs. Henry Baker)」と書かれた札が付いており、それらが今判る情報の全てだった。
帽子については、ホームズがピータースンから預かり、ガチョウに関しては、そのままの状態で長く保管しておくことができないため、ホームズはピータースンに持ち帰らせていた。
丁度そこへ、退役軍人のピータースンが慌てて駆け込んで来る。彼は、「料理するために、妻がガチョウの腹を裂いたところ、その餌袋の中から、青い宝石が出てきた。」と報告した。
ピータースンから宝石を見せられたホームズは、新聞に毎日掲載されている事件のことを説明する。この宝石は、ホテルコスモポリタン(Hotel Cosmopolitan)に滞在していたモーカー伯爵夫人(Countess of Morcar)の元から12月22日に盗まれて、千ポンドの懸賞金がかけられている「青いガーネット(blue carbuncle)」だったのだ。
喧嘩の現場に問題のガチョウを落とした後、居なくなったヘンリー・ベイカー(Mr. Henry Baker)が、今回の事件の鍵を握っていると考えたホームズは、ロンドン中の新聞(Globe / Star / Pall Mall / St. James’s Gazette / Evening News / Standard / Echo 等)に、ガチョウと帽子の持ち主を探す広告を載せる。
そして、指定の日時(当日の午後6時半)に、ヘンリー・ベイカー本人が、ホームズの元に名乗り出て来たのである。
「ところで、あのガチョウをどこで手に入れたのかを私に教えていただけないですか?私はちょっとした鳥の愛好家でして、あれよりよく育ったガチョウを見たことがほとんどなかったので...」
「もちろん、かまいませんよ。」と、ベイカー氏は立ち上がって、新しく受け取ったガチョウを脇の下に抱えて言った。「大英博物館の近くにあるアルファインへ、仲間達とよく飲みに行くんです。私達は昼間大英博物館で過ごしています。アルファインのウィンディゲートという気のいい主人が今年ガチョウクラブを始めました。それは、毎週数ペンスずつ積み立てていくと、各人クリスマスにガチョウを一羽ずつ受け取れるという仕組みです。私はきちんとお金を積み立てて、後はあなたも御存知の通りです。本当に有り難うございました。ベレー帽は、私の年齢にも、私の真面目な性格にも会わなかったようです。」今日に大げさな態度で、ベイカー氏は私達に向かい、真面目くさって御辞儀をすると、大股で歩き去ったのである。
'By the way, would it bore you to tell me where you got the other one from? I am somewhat of a fowl fancier, and I have seldom seen a better grown goose.'
'Certainly, sir,' said Baker, who had risen and tucked his newly gained property under his arm. 'There are a few of us who frequent the Alpha Inn, near the Museum - we are to be found in the Museum itself during the day, you understand. This year our god host, Windigate by name, instituted a goose club, by which on consideration of some few pence every week, we were each to receive a bird at Christmas. My pence were duly paid, and the rest is familiar to you. I am much indebted to you, sir, for a Scotch bonnet is fitted neither to my years for my gravity.' With comical pomposity of manner he bowed solemnly to both of us and strode off upon his way.
ホームズが話をした限りでは、ヘンリー・ベイカーが、ホテルコスモポリタンでの宝石盗難事件と無関係であることは、確実だった。
そこで、ホームズは、ワトスンを誘い、ヘンリー・ベイカーが問題のガチョウを入手したアルファイン(Alpha Inn → 2015年12月19日付ブログで紹介済)へと向かうのであった。
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ホームズとワトスンが訪れたブルームズベリー地区にあるアルファインと言うパブは架空の酒場で、 残念ながら、実在していない。 ただし、グレートラッセルストリート(Great Russell Street)を挟んで、 大英博物館(British Museum)の正面入口近くにある 「ミュージアム・タバーン(Museum Tavern)」と言うパブが、 アルファインのモデルだったのではないかと、一般に言われている。 |
その夜は身を刺す程の寒さだったので、私達はアルスター外套を羽織り、首巻きをした。外に出ると、雲一つない空に星々が冷たく輝き、通行人が吐く息が拳銃が発する煙のようだった。私達が歩き出すと、カツカツと大きな足音がした。私達は医者が集まっている地区であるウィンポールストリートとハーレーストリートを、更にウィグモアストリートを抜けて、オックスフォードストリートに至った。15分程すると、私達はブルームズベリー地区のアルファインに着いた。そこは、ホルボーンへと下るある通りの角にある小さなパブ(酒場)だった。ホームズはパブの扉を押し開けて、赤ら顔で白いエプロンをつけた主人にビールを二杯注文したのである。
It was a bitter night, so we drew on our ulsters and wrapped cravats bout our throats. Outside, the stars were shining coldly in a cloudless sky, and the breath of the passers-by blew out into smoke like so many pistil shots. Our footfalls rang out crisply and loudly as we swung through the doctors' quarter, Wimpole Street and Harley Street, and so through Wigmore Street into Oxford Street. In a quarter of an hour we were in Bloomsbury at the Alpha Inn, which is a small public-house at the corner of one of the streets which runs down into Holborn. Holmes pushed open the door of the private bar and ordered two glasses of beer from the ruddy-faced, white-aproned landlord.