ラッセルスクエアの西側にある ギルフォードストリート(Guildford Street)沿いに建つフラット |
テッド・ランポール(Ted Rampole)経由、彼の友人で、新聞記者でもあるボイド・マンガン(Boyd Mangan)の話を聞き、その話にただならぬ事態を予感し、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)は、その場に居合わせたテッド・ランポールとスコットランドヤード犯罪捜査課(CID)のハドリー警視(Superintendent Hadley)を伴って、ラッセルスクエア(Russell Square)の西側に所在するシャルル・ヴェルネ・グリモー教授(Professor Charles Vernet Grimaud)の邸へと急行する。
銃声が聞こえた3階のシャルル・グリモー教授の書斎へと向かって、ハドリー警視とテッド・ランポールの二人が、階段を駆け上がった。内側から鍵がかかった書斎の扉を二人が破って中に入ると、絨毯の上には、拳銃で胸を撃たれて、瀕死の教授が倒れていたのである。
彼らからの連絡を受けて、瀕死の教授は病院へと緊急搬送されるものの、残念ながら、病院で息を引き取った。
シャルル・グリモー教授の経歴について、元教師で、グリモー家の居候であるヒューバート・ドレイマン(Hubert Drayman)をギディオン・フェル博士達が追及するした結果、ヒューバート・ドレイマンから、教授から聞いた話を含め、以下の証言を得た。
・教授の本名は、カロリー・グリモー・ホーバート(Karoly Grimaud Horvath)。
・フランスから英国へとやって来たので、フランス人だと思われていたが、実際には、ハンガリー出身のマジャール人(Magyar)。
・三人兄弟の長兄。
・ホーバート兄弟三人は、政治犯として、ハンガリーの刑務所に投獄されていたが、弟二人が刑務所内において伝染病で死亡したことに乗じて、自分も死んだふりをして、脱獄を計画。ヒューバート・ドレイマンがハンガリー国内を旅行していた際、ある山中において、三つ並んだ墓の一つから這い出ようとしていた彼を助け出した。
ヒューバート・ドレイマンから話を聞いたギディオン・フェル博士達は、証言全てが真実だとは捉えなかった。実際には、ホーバート兄弟三人全員が投獄中に死んだふりをして脱獄を図ったものの、偶然、教授だけがヒューバート・ドレイマンに救い出されたが、教授は弟二人を墓下の棺内に閉じ込めたまま、見捨てて逃げたのではないかと推測した。そして、弟二人は、脱獄に気付いた刑務所員達によって救出され、自分達を見捨てて逃げた兄を恨み、出所後、復讐のため、英国にやって来たのではないかと考えた。また、大英博物館(British Museum)の近くにあるパブ「ウォーリックタヴァーン(Warwick Tavern)」において、教授を脅迫した奇術師(illusionist)のピエール・フレイ(Pierre Fley)こそ、ホーバート兄弟の次兄ではないかと。
ラッセルスクエアの西側にある グレンヴィルストリート(Grenville Street)と バーナードストリート(Bernard Street)の角に建つフラット |
ギディオン・フェル博士達は、早速、ピエール・フレイの居所を探そうとしたが、不可解なことに、ピエール・フレイも、同じ夜に拳銃で射殺されていたのである。場所は、グリモー邸から徒歩で直ぐで、ラッセルスクエアの反対側にあるカリオストロストリート(Cagliostro Street)の真ん中だった。
カリオストロストリートは、先が行き止まりの200ヤード程の通りで、バーミンガム(Birmingham)からやって来たジェス・ショート(Jesse Short)とR・G・ブラックウィン(R. G. Blackwin)の二人が、通りの奥に住む友人のところを訪ねようとしていた。また、ヘンリー・ウィザース巡査(PC Henry Withers)が巡回中で、ちょうどカリオストロストリートの入口に達した時だった。
「二発目は、お前にだ。(The Second Bullet is for you.)」という声とともに、銃声が鳴り響いた。カリオストロストリートの奥へと向かっていたジェス・ショートとR・G・ブラックウィンが通りの入口の方へ振り返り、ヘンリー・ウィザース巡査が通りの入口の方から駆け寄って来た。カリオストロストリートの真ん中、宝石商のショーウィンドの灯りに照らされた路上に、ピエール・フレイが倒れていたのである。ヘンリー・ウィザース巡査がピエール・フレイの身体を調べたところ、ピエール・フレイは、背中を至近距離から拳銃で撃たれて、死亡していた。通りは暗かったものの、現場の路上には、ジェス・ショート / R・G・ブラックウィンの二人とヘンリー・ウィザース巡査以外には、誰も居なかった。また、現場は、身を隠せる建物から数メートルも離れており、銃声が鳴り響いてから、彼らが現場に駆け付ける間に、身を隠せる時間的な余裕はなかった。目撃者である彼らによると、午後10時25分とのことだった。
司法解剖の結果、ピエール・フレイの背中の致命傷は、自分で拳銃を撃つには無理な場所にあり、「自殺」とは考えられず、「他殺」と判断せざるを得なかった。ところが、ピエール・フレイの殺害現場であるカリオストロストリートの路上で、ジェス・ショート / R・G・ブラックウィンの二人とヘンリー・ウィザース巡査の誰も、ピエール・フレイを拳銃で撃った加害者を見ていない上に、現場周辺の雪の上には、被害者であるピエール・フレイ以外の足跡は全くなかったのである。また、ピエール・フレイの傍らに落ちていた拳銃は、グリモー邸において、シャルル・グリモー教授を射殺した凶器であると鑑定された。
ジェス・ショート / R・G・ブラックウィンの二人とヘンリー・ウィザース巡査に挟まれたカリオストロストリートの路上において、犯人は、被害者であるピエール・フレイの背中を至近距離から拳銃で撃った後、どのようにして姿を隠したのだろうか?グリモー邸の書斎において発生した密室状況の事件に加えて、カリオストロストリートの路上における事件も、不可能状況と言えた。
この難事件を、ギディオン・フェル博士が解き明かすのであった。
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