2019年3月3日日曜日

カーター・ディクスン作「九人と死で十人だ」(Nine - and Death makes Ten by Carter Dickson)–その2

東京創元社が発行する創元推理文庫「九人と死で十人だ」の表紙−
    カバーイラスト:ヤマモト マサアキ氏
カバーデザイン:折原 若緒氏
  カバーフォーマット:本山 木犀氏

航海初日が何事もなく過ぎた翌日(1月20日(土))の午前11時、エドワーディック号の甲板では、三等航海士クルクシャンクの指導の下、緊急時に備えた救命ボート訓練が、一般人の乗客8名も含めて、実施された。全員参加が必須であったが、ヴァレリー・チャトフォードとジェローム・ケンワージーの2人が結成して、クルクシャンクの機嫌が非常に悪くなる。彼は「これは生死に関わる重大な問題だ。」と言って、手伝いのボーイに2人を船室から引きずり出すよう、命じる。そうこうしている間に、今度はフランス人のピエール・ブノワ大尉が、いつの間にか、姿を消してしまった。

同日の午後9時、食堂で夕食を終えたマックス・マシューズとエステル・ジア・ベイの二人は、休憩室でブランデーを飲み始め、一緒に酔いつぶれた。
甲板で暫く風にあたって酔いを冷ました二人は、社交室を通り抜けて、中央階段があるホールまでやって来た。すると、ジア・ベイ夫人は、お化粧直しと肩に羽織るものを取って来るため、一旦船室へ戻って行った。その時、中央階段の向かい側にあるエレベーターの上の掛け時計は、午後9時45分を指していた。

ジア・ベイ夫人が船室へ戻ってから、マックス・マシューズは彼女を十数分間待ったが、戻って来ないため、彼女のことが心配になってきた。マックス・マシューズは、ジア・ベイ夫人の様子を見に行くために、階段を下りて、B甲板へと着いた。マックス・マシューズは、ジア・ベイ夫人の部屋B37号室をノックするが、内から全く返事がなかった。三度目のノックの後、マックス・マシューズはドアを開けて、ジア・ベイ夫人の部屋へ入った。
室内は暗く、右隅の浴室内に灯る薄明かりで、ジア・ベイ夫人が化粧机の前にスツールにこちらへ背を向けて座り、机に顔を伏せているのが、朧げに見えた。一見すると、彼女は化粧直しをしている最中に寝入ってしまったかのようだった。マックス・マシューズが寝室の明かりをつけると、化粧机の鏡に飛び散った血しぶきが、彼の目に飛び込んできた。彼が彼女の周りを見ると、一面血の海だった。ジア・ベイ夫人は、何者かによって、喉を掻き切られていたのである。

マックス・マシューズは、部屋を出ると、近くに居た船室係に、兄で船長のフランシス・マシューズ海軍中佐を至急呼んでくるように伝えた。5分も経たないうちに、フランシス・マシューズ海軍中佐がやって来て、マックス・マシューズと一緒に、ジア・ベイ夫人の遺体を調べ始めた。すると、彼女の白いドレスの右肩に、親指と思われる血染めの指紋が、明瞭に残されていたのである。それに、ややぼやけているいるものの、遺体の左腰にも、指紋がもう一つあった。これらの指紋は、ジア・ベイ夫人の喉を掻き切った犯人のもので、ジア・ベイ夫人の喉から飛び散った血しぶきの量に動転した犯人が慌てて逃げる際に、誤って残したのだと、二人には推測できた。

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