ルコック(Lecoq)は、フランスの大衆小説家であるエティエンヌ・エミール・ガボリオ(Etienne Emile Gaboriau:1832年ー1873年)が創造した探偵である。
米国の小説家/詩人/雑誌編集者であるエドガー・アラン・ポー(Edgar Allan Poe:1809年ー1849年)が生み出したC・オーギュスト・デュパン(C. Auguste Dupin)は、世界最初の素人探偵(民間人)であるのに対して、ルコックの職業はパリ警察庁の(若手)警官であり、世界最初の職業探偵と言える。
ルコックは、以下の作品に登場する。
(1)「ルルージュ事件(L'Affaire Lerouge)」(1866年)
(2)「書類百十三(Le Dossier 113)」(1867年)
(3)「オルシヴァルの犯罪(Le Crime d'Orcival)」(1867年)
(4)「パリの奴隷(Les Esclaves de Paris)」(1867年)
(5)「シャンドース家の秘密(Le Secret des Champdoce)」(1867年)
(6)「ルコック探偵(Monsieur Lecoq)」(1869年)
「ルルージュ事件」の場合、主人公は素人探偵のダバレ老人で、ルコックは脇役に過ぎなかった。ルコックが主人公として活躍するのは、「書類百十三」以降である。
ルコックものの日本語訳版は、現在、入手が非常に困難であるが、「ルルージュ事件」が国書刊行会から2008年に、また、「ルコック探偵」が旺文社文庫から1979年に出版されている。
「ルコック探偵」は、シュパン女将の居酒屋で、恐ろしい悲鳴ともに、三発の銃声が響き渡ることで、その事件の幕があがる。三人の男が射殺され、拳銃を所持していた男が逮捕される。事件現場に駆け付けた若き警官ルコックは、辻馬車で逃げる女性二人を追うが、見失ってしまう。現場で逮捕された男も、そして、捜査線上に現れる関係者達も、皆口をつぐんだまま、何も語ろうとしない。ルコックによる地味で、執拗な捜査の結果、浮かび上がるのは、ナポレオン時代に遡る貴族達の血塗られた歴史であった...
ここまでが、「ルコック探偵」の物語導入部分であって、本作品の本質は、その後に書かれる貴族達の血塗られた歴史である。本作品の大半は、物語の冒頭で発生した事件に関係する人達に関する過去の因縁話に、ページが費やされている。そして、この長い因縁話の後、現代に戻り、ルコックが事件の真相を突き止める話が書かれる構成となっている。
この物語構成は、作者であるガボリオが編み出したのであろうが、特に、本作品の大半を占める過去の因縁話を含む構成は、個人的には、非常にフランスらしい気がする。
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