トランパー化粧品店が営業しているカーゾンストリート9番地の建物 |
アガサ・クリスティー作「あなたの庭はどんな庭?(How Does Your Garden Grow ?)」(1935年ー短編集「レガッタデーの事件(The Regatta Mystery)」に収録)は、エルキュール・ポワロの事務所にアメリア・バロウビー(Amelia Barrowby)という独身の老婦人から依頼の手紙が届くところから、物語の幕が上がる。
彼女から来た手紙に書かれている依頼の内容は、「自分の身を案じているので、自宅に来てほしい。」という非常に曖昧なものであった。この奇妙な依頼の手紙に興味を持ったポワロは、秘書のミス・レモン(Miss Lemon)に指示して、「いつでも相談に応じる。(I will do myself the honour to call upon you at any time you suggest.)」と返信をするが、その後、彼女からは何も音信もなかった。
暫くして、ミス・レモンが手紙の差出人であるアメリア・バロウビーが死亡したことを新聞記事で偶然見つけ、ポワロに知らせる。アメリア・バロウビーが亡くなった際,
姪のデラフォンテーン夫妻(Mr. and Mrs. Delafontaine)と一緒に食事をしていたのだが、(1)アーティチョークのスープ、(2)魚のパイと(3)アップルタルト以外、何も口にしていなかった。ところが、彼女の遺体からは、ストリキニーネが発見されたのである。ストリキニーネはとても苦い味がするため、アーティチョークのスープ、魚のパイやアップルタルトに混入されていたとは思えなかった。また、彼女は珈琲も飲まず、水だけを飲んでいた。ストリキニーネが混入したと考えられるのは、彼女が飲んでいた持病用のカプセル薬だけだった。そのカプセル薬に触れたのは、ロシア人の話相手(コンパニオン)のカトリーナ・リーガー(Katrina Rieger)のみだったため、彼女へ疑いの目が向けられた。
アメリア・バロウビーの死に疑問を感じたポワロは現地へ赴き、調査を始めるのであった。
英国のTV会社 ITV1 で放映されたポワロシリーズ「Agatha Christie's Poirot」の「あなたの庭はどんな庭?」(1991年)の回では、物語の冒頭、アメリア・バロウビーの話相手(コンパニオン)であるカトリーナ・レイガー(Katrina Reiger)の(旧)ソビエト連邦の大使館との繋がりが描かれる。それに続いて、王立園芸協会(Royal Horticultural Society)主催のチェルシーフラワーショー(RHS Chelsea Flower Show)において、自分の名前を冠したピンクローズが披露される際にスピーチを行うことになったポワロは張り切って、ある店でコロンを買い入れる。このコロンが、物語の間ずーっと、アーサー・ヘイスティングス大尉に謎の花粉症状を引き起こすことになる。
トランパー化粧品店の右側には、 Third Church of Christ Scientist が建っている |
ポワロがコロンを買い入れるシーンは、トランパー化粧品店(Geo F Trumper)において撮影されている。トランパー化粧品店は、理髪店を兼ねた男性用化粧品店で、1875年創業の老舗である。
トランパー化粧品店の全景(その1) |
トランパー化粧品店は、ロンドンの中心部シティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)のメイフェア地区(Mayfair)にある。バークリースクエア(Berkeley Squareー2014年11月29日付ブログで紹介済)からパークレーン(Park Laneー2015年6月27日付ブログで紹介済)へ向かって西に延びるカーゾンストリート(Curzon Streetー2015年9月12日付ブログで紹介済)に対して、ピカデリーサーカス(Piccadilly Circus)から地下鉄ハイドパークコーナー駅(Hyde Park Corner Tube Stationー2015年6月14日付ブログで紹介済)へ向かって西に延びるピカデリー通り(Piccadilly)が地下鉄グリーンパーク駅(Green Park Tube Station)を過ぎた辺りから北に延びるハーフムーンストリート(Half Moon Streetー2014年12月21日付ブログで紹介済)が突き当たったところが、「カーゾンストリート9番地(9 Curzon Street)」に該り、トランパー化粧品店は現在もここで営業を続けている。
トランパー化粧品店の全景(その2) |