ケンブリッジアベニュー(Cambridge Avenue)沿いのバス停 |
サー・アーサー・コナン・ドイル作「青いガーネット(The Blue Carbuncle)」では、クリスマスの早朝、宴席から帰る途中の退役軍人ピータースン(Peterson)が、トッテナムコートロード(Tottenham Court Road)とグッジストリート(Goodge Street)の角で発生した喧嘩の現場に残された帽子とガチョウを、ベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元に届けて来た。ホームズに言われて、ピータースンは拾ったガチョウを持って帰ったが、その餌袋の中から、ホテルコスモポリタン(Hotel Cosmopolitan)に滞在していたモーカー伯爵夫人(Countess of Morcar)の元から12月22日に盗まれて、懸賞金がかかっている「青いガーネット」が出てきたのだ。
ケンブリッジアヴェニュー沿いにある 地下鉄キルバーンパーク駅(Kilburn Park Tube Station) |
ホームズは早速新聞に広告を載せて、ガチョウの落とし主を探したところ、ヘンリー・ベイカー氏(Mr Henry Baker)が名乗り出て来た。ベーカー氏によると、大英博物館(British Museum)の近くにあるパブ「アルファイン(Alpha Inn)」の主人ウィンディゲート(Windigate)がガチョウクラブを始め、毎週数ペンスずつ積み立てていくと、各人クリスマスにガチョウを一羽ずつ受け取れる仕組みだと言う。
ジョン・ワトスンを連れて、アルファインに赴いたホームズは、そこで主人のウィンディゲートから、「問題のガチョウは、コヴェントガーデンマーケット(Covent Garden Market)にあるブレッキンリッジ(Breckinridge)の店から仕入れた」ことを聞きつける。
そこで、二人はブレッキンリッジの店へと向かった。
ブレッキンリッジの店に着いたホームズ達は、店仕舞いをしていた経営者から訝るような視線を受けながらも、パブ「アルファイン」に販売したガチョウの仕入れ先について尋ねたところ、ブリクストンロード117番地(117 Brixton Road)にあるオークショット夫人(Mrs Oakshott)の飼育場だとという回答を得る。
キルバーンハイロード沿いに建つパブ「The Old Bell」 |
ブリクストンロード117番地へ向かおうとするホームズとワトスンであったが、ブレッキンリッジの店で同じようにガチョウのことを尋ねる男が目に入った。ホームズが彼を詰問すると、当初はジョン・ロビンソン(John Robinson)という偽名を使ったが、ホームズの目をごまかすことはできず、自分の本名がジェイムズ・ライダー(James Ryder)であることを明かす。彼はホテルコスモポリタンの接客係主任(Head attendant)で、彼こそがモーカー伯爵夫人から「青いガーネット」を盗んだ犯人だったのだ。彼のホームズへの自白が始まった。スコットヤードに容疑者として逮捕された配管工ジョン・ホーナー(John Horner)は無実だったのである。
キルバーンハイロード沿いに建つ Kilburn Library Centre |
「昔、モーズリーという名前の友人が居ました。彼は悪事の道へ走り、ペントンヴィル刑務所に服役して、ちょうど出所したばかりでした。ある日、彼と会った際、盗みのやり方や盗品をどのように処分するかという話になりました。私は彼の秘密を一つ二つ握っていたので、彼が私に忠実であることを知っていました。そこで、私は彼が住んでいるキルバーンへ行って、逆に、彼に私の秘密を打ち明けようと決心したのです。私が盗んだ宝石をどのように換金するのかを、彼は私に教えてくれるだろうと思いました。しかし、問題は、どうやって彼のところまで安全に行けるかでした。私は、ホテルからここへやって来るまでに、どれ程の大変な思いをしたのかを考えました。私はいつ何時逮捕されれ、身体検査をされるかもしれません。その場合、私のポケットに入れた宝石が見つかってしまいます。私は壁にもたれて、私の足元をよたよたと歩いているガチョウを見ていた時、突然、あるアイデアが降ってわいたのです。そのアイデアは、過去に存在した如何なる最高の探偵さえも出し抜くことができる程、すばらしいものでした。」
キルバーンハイロードに面する マリオットホテル(Marriott Hotel) |
'I had a friend once called Maudsley, who went to the bad, and has just been serving his time in Pentonville. One day he had met me, and fell into talk about the ways of thieves, and how they could get rid of what they stole. I knew that he would be true to me, for I knew one or two things about him, so I made up my mind to go right on to Kilburn, where he lived, and take him into my confidence. He would show me how to turn the stone into money. But how to get to him in safety? I thought of the agonies I had gone through in coming from the hotel. I might at any moment be seized and searched, and there would be the stone in my waist pocket. I was leaning against the wall at the time and looking at the geese which were waddling about round my feet, and suddenly an idea came into my head which showed me how I could beat the best detective that ever lived.'
キルバーンハイロード(北側)からマリオットホテルを望む |
ジェイムズ・ライダーの友人であるモーズリー(Maudsley)が住んでいるキルバーン地区(Kilburn)は、ロンドン北西部に位置しており、ロンドン・ブレント区(London Borough of Brent)、ロンドン・カムデン区(London Borough of Camden)とシティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)の3区に分かれている。
キルバーン地区の中心部を北西から南東へ向けて横断するキルバーンハイロード(Kilburn High Road)がメインストリートであり、ロンドン・ブレント区(西側)とロンドン・カムデン区(東側)を2つに分ける境界線となっている。通りの起源はローマ時代まで遡る、とのこと。元々は、ロンドン北西のハートフォード州(Hertfordshire)セントアルバンス(St. Albans)にあるセントアルバンス大聖堂(St. Albans Cathedral)へと向かう道として開発されたもので、当時は、ワトリングストリート(Watling Street)と呼ばれていた。
南側から見たキルバーンハイロード |
キルバーン地区は、ハムステッド(Hampstead)からハイドパーク(Hyde Park)を通ってテムズ河(River Thames)へと流れるウェストボーン川(River Westbourne)沿いの街として始まった。記録上、キルバーンの名前は、12世紀前半に登場する。1714年に、鉄分を多く含み、薬用効果がある源泉/井戸が発見されたことに伴い、キルバーンへ湯治に来る習慣が流行した。そのため、キルバーンハイロード沿いには、庭園や宿泊施設等が次々に設けられた。
19世紀に入ると、肝心な源泉が枯渇してしまうが、ソロモン・バーネット(Solomon Barnet)がキルバーン地区一帯の開発を行い、彼が住んでいた英国西部や当時有名だった詩人の名前等にちなんで、通りを命名した。
キルバーンハイロード沿いに建つパブ「Queens Arms」 |
現在、キルバーン地区には、アイルランド、カリブ海、インド、バングラディシュ、パキスタンやエチオピア等の出身者が数多く住んでいて、国際色豊かな場所になっている。特に、アイルランド出身者はキルバーン地区住民の15%弱を占めており、毎年3月の St. Patrick's Day はキルバーン地区内では盛大に祝われている。
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