エッジウェアロードが始まるマーブルアーチの角に建つビル― 地上階には映画館オデオン(Odeon)やカフェ等が入居しているが、 現在、再開発の対象となっている |
サー・アーサー・コナン・ドイル作「三人のガリデブ(The Three Garridebs)」では、ロンドンに長期滞在している米国人の法廷弁護士ジョン・ガリデブ(John Garrideb)が、ベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を訪れる。彼によると、「ガリデブ」という名前が自慢だった米国人の大地主アレグザンダー・ハミルトン・ガリデブ(Alexander Hamilton Garrideb)が、自分の全財産を「ガリデブ」という姓を持つ成人男性の三人に遺すと明記した遺言書を残したらしい。ジョン・ガリデブは。同姓の二人を米国中で探し回ったが、残念ながら、一人も見つからなかった。そこで、彼はロンドンへやって来て、幸いにして、リトルライダーストリート156番地(156 Little Ryder Streetー2015年5月2日付ブログを御参照)に住むネイサン・ガリデブ(Nathan Garrideb)を見つけ出したのであった。本来であれば、ネイサン・ガリデブがホームズの元を相談に訪れる予定であったが、彼からその話を聞いたジョン・ガリデブが探偵の関与を良しとせず、彼の代わりにホームズのところに来た次第であった。
ジョン・ガリデブが帰った後、このうまい話を怪しんだホームズは、ネイサン・ガリデブに連絡をとり、彼が住むエッジウェアロード(Edgware Road)に近いリトルライダーストリート156番地を、ジョン・ワトスンと一緒に訪問する。そこへジョン・ガリデブが興奮の体で飛び込んで来た。バーミンガム(Birmingham)で農業機械の製作をしているハワード・ガリデブ(Howard Garrideb)、つまり、三人目のガリデブ氏を見つけたと言うのだ。ジョン・ガリデブは、(1)自分は米国人なので、ハワード・ガリデブには身元がはっきりした英国人が話をした方が良いこと、また、(2)明日、自分には別の予定が入っていることを理由に、ネイサン・ガリデブに対して、自分の代わりにバーミンガムへ出かけてほしいと依頼する。ジョン・ガリデブの話を聞いたホームズもネイサン・ガリデブに、バーミンガムのハワード・ガリデブに会いに行くよう、進めるのであった。
ジョン・ガリデブが再度帰った後、ホームズは、小博物館とも言えるネイサン・ガリデブのコレクションの話を再開する。
ネイサン・ガリデブが住む 「リトルライダーストリート156番地」(架空の住所)の候補地である コノートプレイス(Connaught Place) |
「ガリデブさん、あなたのコレクションを見せていただけますか?」と、彼(ホームズ)は言った。
「職業柄、あらゆる種類の雑学が役に立ちますし、あなたのこの部屋は、正にその宝庫と言えます。」
私達の依頼人(ネイサン・ガリデブ)の顔が喜びに輝き、大きな眼鏡の奥で目がきらめいた。
「お噂では、あなたが大変聡明な方だと、いつも聞いております。」と、彼は言った。「もしお時間があれば、今から私のコレクションを御案内しますよ。」
「残念ながら、今日は時間が空いていないのです。しかし、これらの標本はきちんとラベル付けして分類されていますので、あなたに個別に御説明いただく必要はあまりないようです。もし明日時間ができて、ここに寄ることができれば、あなたのコレクションをゆっくり見せていただいても宜しいでしょうか?」
「全く問題ありません。大歓迎です。もちろん、この部屋には鍵がかかっていますが、サンダース夫人が午後4時まで地下に居ますので、彼女の鍵で開けて入れてくれますよ。」
「明日の午後、時間が空くかもしれません。もしあなたからサンダース夫人に一言声をかけておいてただければ、大変助かります。ところで、この家の管理事務所はどちらですか?」
ホームズの唐突な質問に、私達の依頼人は驚いた。
「エッジウェアロードにあるハロウェイ&スティールです。でも、どうしてですか?」
「建物に関して、私はちょっとした考古学者でして。」と、ホームズは笑いながら言った。「この家がクイーンアン王朝様式とジョージ王朝様式のどちらかと思いましてね。」
「間違いなく、ジョージ王朝様式です。」
「そうですか。もう少し前かと思ったのですが...でも、簡単に確かめられますね。ガリデブさん、それではおいとまします。バーミンガム行きがうまくいくことを祈っていますよ。」
マーブルアーチから北上するエッジウェアロードを望む |
'I wish I could look over your collection, Mr Garrideb,' said he. 'In my profession all sorts of odd knowledge comes useful, and this room of yours is a storehouse of it.'
Our client shone with pleasure and his eyes gleamed from behind his big glasses.
'I had always heard, sir, that you were a very intelligent man,' said he. 'I could take you round now, if you have the time.'
'Unfortunately, I have not. But these specimens are so well labelled and classified that they hardly need your personal explanation. If I should be able to look in tomorrow, I presume that there would be no objection to my glancing over them?'
'None at all. You are most welcome. The place will, of course, be shut up, but Mrs Sanders is in the basement up to four o'clock and would let you in with her key.'
'Well, I happen to be clear tomorrow afternoon. If you would say a word to Mrs Sanders it would be quite in order. By the way, who is your house-agent?'
Our client was amazed at the sudden question.
'Holloway and Steele, in the Edgware Road, But why?'
'I am a bit of an archaeologist myself when it comes to houses,' said Holmes, laughing. 'I was wondering if this was Queen Anne or Georgian.'
'Georgian, beyond doubt.'
'Really. I should have thought a little earlier. However, it is easily ascertained. Well, goodbye, Mr Garrideb, and may you have every success in your Birmingham journey.'
最近再開発されたオフィスビル― 地上階には、各種店舗が入居している |
マリルボーン・フライオーバー手前に建つホテル 「Hilton London Metropole」 |
エッジウェアロードは、ロンドン中心部のシティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)内にある通りで、ハイドパーク(Hyde Park)の北東の角にあるマーブルアーチ(Marble Arch)から北西へ延びている。この通りは、地下鉄ベーカーストリート駅(Baker Street Tube Station)の前を通って西へ向かうマリルボーンロード(Marylebone Road)の高架(通称ー「マリルボーン・フライオーバー(Marylebone flyover)」)下をくぐって、最終的には、ロンドン・バーネット区(London Borough of Barnet)内にあるエッジウェア地区(Edgware)へと至る。ただし、この通りがエッジウェアロードと呼ばれるのは、メイダヴェール地区(Maida Vale)までで、隣り合うセントジョンズウッド地区(St. John's Wood)からメイダヴェール地区へ向かって下りてくるセントジョンズウッドロード(St. John's Wood Road)と交差したところからは、メイダーヴェール通り(Maida Vale)、そして、キルバーン地区(Kilburn)に入ると、キルバーンハイロード(Kilburn High Road)と名前を変える。
中東系の薬局が地上階で営業しているビル |
エッジウェアロードの起源は、ローマ時代まで遡り、当時はワトリングストリート(Watling Street)と呼ばれていた。前述の通り、エッジウェア地区までほぼ真っ直ぐに延びる通りであることから、エッジウェアロードと呼ばれるようになったものと思われる。
19世紀後半に入ると、アラブ系の移民がエッジウェアロード一帯に多数流入するようになり、1950年代にはエジプト系の移民も増え、1970年代には移民の居住地域が拡大していく。エッジウェアロード一帯は「リトルカイロ(Little Cairo)」や「リトルベイルート(Little Beirut)」という通称で呼ばれている。
現在も、エッジウェアロード沿いには、中東系のカフェ、レストランや薬局等が軒を並べているが、最近はビルの再開発が行われ、オフィスが上階に入居し、地上階には英国のチェーン店舗等が入っているので、中東色は若干弱まっている。ただ、マリルボーン・フライオーバーを通り過ぎたエッジウェアロードの北側部分の両側は、いまだに中東色が非常に強い。
サークルライン/ディストリクトライン/ハマースミス&シティーラインが 停車する地下鉄エッジウェアロード駅 |
地下鉄エッジウェアロード駅前に設置されている ブロンズ像「窓拭き」(The Window Cleaner) |
エッジウェアロード近辺には、地下鉄エッジウェアロード駅(Edgware Road Tube Station)が2つあい、マリルボーン・フライオーバーの南側にある駅には、サークルライン(Circle Line)、ディストリクトライン(District Line)とハマースミス&シティーライン(Hammersmith & City Line)の3線が停車し、マリルボーン・フライオーバーの北側にある駅には、ベーカールーライン(Bakerloo Line)のみが停車する。ただし、これらの両駅は地下通路等でつながっていないため、乗り換えの際には、一旦駅外へ出て、徒歩で移動する必要がある。あるいは、地下鉄パディントン駅(Paddington Tube Station)であれば、サークルライン(Circle Line)/ディストリクトライン(District Line)とベーカールーライン(Bakerloo Line)の乗り換えは可能である。
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