2014年7月2日から同年9月15日まで、「ブックス・アバウト・タウン(Books about Town)」というイべントがナショナルリテラシートラスト(The National Literacy Trust)によって開催されていて、以下の4つの地区に、本の形をしたベンチ(BookBench)が、全部で50個展示されている。ロンドン市民、特に子供達に本を読む楽しみをもっと知ってもらう目的のためである。
(1)ブルームズベリー(Bloomsbury)
(2)シティー・オブ・ロンドン(City of London)
(3)ロンドン橋(London Bridge)近辺のテムズ河南岸(Riverside)
(4)グリニッジ(Greenwich)
ブルームズベリーは、19世紀から20世紀にかけて、多くの芸術家や学者が住む文教地区として発展してきた地区で、現在、世界最大級のコレクションを誇る大英博物館(British Museum)を初めとして、ロンドン大学(University of London)、国立病院(National Hospital)、劇場や大小様々な博物館(ウェルカム医療博物館、パージヴァル・デイヴィッド中国美術財団美術館やポロック玩具博物館)等が当地区内に点在している。
大英博物館から地下鉄のホルボーン駅(Holborn Tube Station)に向かう途中にあるブルームズベリー スクエア ガーデンズ(Bloomsbury Square Gardens)内に、アガサ・クリスティーのブックベンチが展示されている。
・ベンチ名: Hercule Poirot and the Greenshore Folly(エルキュール・ポワロとグリーンショア屋敷の阿房宮)
・スポンサー: Agatha Christie Estate(アガサ・クリスティー財団)
・アーティスト: Tom Adams(トム・アダムズ)
なお、「阿房宮」とは、英国の大庭園等に装飾目的で城や寺院等を模して建設された模造建築物である。
1954年、アガサ・クリスティーは、ある中編を執筆して、その印税収入を自分の生まれ故郷の教会に寄付しようとした。そのため、彼女は、デヴォン(Devon)州にある自分の住まいのグリーンウェイ(Greenway)を小説の舞台にした。なお、この中編は、雑誌掲載には難しい長さであったため、残念ながら、未発表のままに終わっている。
そのため、アガサ_クリスティーはそれを長編にして、2年後に出版している。それが、エルキュール・ポワロが、人気探偵作家で昔なじみのアリアドニ・オリヴァー夫人と一緒に活躍する「死者のあやまち(Dead Man's Folly)」(1956年)である。
上記の中編の代わりに、アガサ・クリスティーは、ミス・ジェイン・マープル(Miss Jane Marple)を主人公とした短編「グリーンショウ氏の阿房宮(Greenshaw's Folly)」を教会に寄付している。ちなみに、「グリーンショウ氏の阿房宮」は、現在、早川書房クリスティー文庫の「クリスマスプディングの冒険(The Adventure of the Christmas Pudding)」(1960年)の一遍として収録されている。
話をブックベンチに戻すと、ベンチの表側には、グリーンウェイにあるクリスティーの住まいをモデルにしたと思われる邸宅、阿房宮、「死者のあやまち」において殺人事件の舞台と成るボート小屋や砲台等が描かれている。左下の老婦人は、クリスティーだろうか?そして、ベンチの裏側に描かれているのは、「死者のあやまち」に出てくるハティー(Lady Hattie Stubbs:ナス屋敷(Nasse House)を所有するサー・ジョージ・スタッブス(Sir George Stubbs)の妻で、洒落たドレスや宝石を身に着けることばかりを考えていて、自分のことしか頭にないと周りの人から見られている人物)ではないかと思われる。
個人的には、アガサ・クリスティーの作品を題材にしたベンチにしては、ややおどろおどろし過ぎる感じがする。特に子供達に本を読んでもらうようにするのであれば、もう少し軽いタッチの方が良かったのではないかと思う。探偵役のポワロが描かれていないのも残念で、ベンチの表か裏側のどちらかに大きく描いてほしかった。
ブックス・アバウト・ タウンのサイトによると、このベンチの題材となった「エルキュール・ポワロとクリーンショア氏の阿房宮」は、執筆から60年の歳月を経て、今年(2014年)出版されたということなので、是非読んでみたいと思う。
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