トラファルガースクウェア(Trafalgar Square)近くのチャリングクロス駅(Charing Cross Tube Station)で地下鉄を降りて、テムズ河(River Thames)方面に向かい、ノーサンバーランド アヴェニュー(Northumberland Avenue)を下ると、途中で左手から延びてくるノーサンバーランド ストリート(Northumberland Street)に合流する。ノーサンバーランド アヴェニューに合流したノーサンバーランド ストリートの角に、シャーロック・ホームズ パブ(Sherlock Holmes Pub)は建っている。
サー・アーサー・コナン・ドイルが「バスカヴィル家の犬(The Hound of the Baskervilles)」を「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」に連載していた当時(1901年8月 - 1902年4月)、この建物はノーサンバーランド ホテル(Northumberland Hotel)と呼ばれていた。
「バスカヴィル家の犬」(事件発生年月:1888年9月)において、シャーロック・ホームズへの相談のため、ウォータールー駅(Waterloo Station)に到着したヘンリー・バスカヴィル卿(Sir Henry Baskervilles)は、このホテルに滞在した。翌朝、彼宛にたった一文だけの手紙が届く。ありふれた、そして、灰色掛かった色の封筒の中には、新聞から切り抜いた文字を貼り付けて、「自分の生命と正気が惜しければ、(ダート)ムーアから去れ!(As you value your life or your reason keep away from the moor.)」と書かれてあった。ただし、「ムーア」という単語だけは、インクで印刷されていたのである。ホームズは、「ムーア」という単語は特殊で、新聞ではあまり使用されないため、犯人は新聞から切り抜くことができず、やむを得ずインクで印刷したものと推理する。謎めいた事件は更に続き、ヘンリー・バスカヴィル卿は、ホテルの滞在中に、靴の片方を無くしてしまう(盗まれてしまう)。物語の終盤、犯人が彼の靴の片方を何故盗んだのか、その理由がホームズによって明らかにされる。
上記のように、ホームズ作品では一番有名で、かつ人気がある「バスカヴィル家の犬」の舞台の一つとなったノーサンバーランド ホテルは、後にノーサンバーランド アーム(Northumberland Arm)という名に変わり、1957年からは現在の店名になったそうである。
建物の外壁に掲げられたパブの看板は、表裏で絵が異なっている。また、1階のガラス窓には、原作者であるコナン・ドイル(正面の顔)、ホームズ(右を向いた横顔)、そして、ジョン・ワトスン(左を向いた横顔)が描かれていて、道行く人が歩みを止めて、写真撮影をしているのをよく見かける。
1階のパブ内部の壁には、シャーロック・ホームズのコレクションが所狭しと飾られ、新しいアイテムも逐次増えている。更に、2階には、ホームズとワトスンが共同生活を送ったベーカーストリート221Bの書斎が再現されており、ホームズファンならずとも、コナン・ドイルによって小説に描かれた19世紀末の時代にタイムスリップすることができる。