2019年2月9日土曜日

カーター・ディクスン作「殺人者と恐喝者」(Seeing is Believing by Carter Dickson)–その3

東京創元社が発行する創元推理文庫「殺人者と恐喝者」の表紙に描かれている
「小道具A:ゴム製の短剣」と「小道具B:弾丸が込められた拳銃(ウェブリー38口径リヴァルバー)」−
    カバーイラスト:ヤマモト マサアキ氏
カバーデザイン:折原 若緒氏
  カバーフォーマット:本山 木犀氏

リチャード・リッチ博士は、客間に居る人達に対して、「実験として、ヴィッキーに催眠術を施し、彼女の夫のアーサーを殺せと命令する。」と言い放つと、客間を横切って戸口へと行き、ドアを開けて、ヴィッキーを招き入れると、催眠術の実験が始まったのである。
リチャード・リッチ博士は、「客間を中座してホールに居た際に立ち聞きしてしまった話の内容に基づいて、ヴィッキーは、小道具Bを実弾が入った本物の拳銃で、非常に危険だと、彼女の潜在意識下で捉えてい流ので、催眠術を施して、夫のアーサー・フェインを殺すように命令された場合、間違いなく、彼女は全くの無害である小道具Aのゴム製の短剣を使用する筈だ。」と考えていた。

その時、予期しない邪魔が入り、ホールへと通じるドアが開いて、メイドのデイジーが顔を覗かせた。彼女によると、ノミ屋のドナルド・マクナルドという男が突然やって来て、「ヒューバート・フェインに会わせろ!」と、戸口でごねている、とのことだった。それを受けて、ヒューバート・フェインは、「昼間、銀行へ行き損ねた。」と言って、甥のアーサー・フェインからつけの額に該る5ポンドを無心すると、客間から出て行った。

ヒューバート・フェインが客間から去った後、リチャード・リッチ博士による催眠術の実験が再開された。
まず最初に、リチャード・リッチ博士は、催眠術を施したヴィッキーに対して、客間の中央にあるテーブルへ行き、その上に置いてある拳銃を手に取り、アーサー・フェインの心臓を打ち抜くよう、命令した。ヴィッキーは拳銃を手に取るものの、拳銃の引き金にかけた指の小刻みな震えは、次第に彼女の全身へと広がり、やがて拳銃は、大きな音とともに、床の上に落ちた。リチャード・リッチ博士の予想通り、ヴィッキーの潜在意識が、彼女に拳銃の引き金を引かせなかったのである。
次に、リチャード・リッチ博士は、ヴィッキーに対して、同じくテーブルの上にある短剣を手に取り、アーサー・フェインの心臓を突き刺すよう、命令した。ヴィッキーは、ためらいも見せずに、手にした短剣を夫アーサーの胸に突き刺した。
ところが、実際には、ヴィッキーが夫アーサーの胸に突き刺した短剣は、ゴム製のおもちゃではなかった。何故ならば、短剣が突き刺さったアーサーの胸から、赤い血が滲み出てきたからである。アーサーは、前のめりに倒れた。
皆が見ている状況下、何者かがゴム製の短剣を本物の短剣にすり替えたのだ。しかし、どうやって?その上、恐喝者と思われる叔父のヒューバート・フェインが命を狙われるのであれば、話は判るが、殺人者と思われる夫のアーサーが殺された理由は何故か?

催眠術の実験に参加していたフランク・シャープレス大尉は、昼間、チェルトナム市内で偶然出会った友人のフィリップ・コートニーに対して、助けを求める。フィリップ・コートニーは、ゴーストライターを家業としていて、現在、近所のアダムズ少佐宅に滞在している元陸軍省情報部長だったヘンリー・メリヴェール卿(Sir Henry Merrivale)の回想録を執筆していたのである。

「殺人者と恐喝者(Seeing is Believing)」(1941年)は、作者のジョン・ディクスン・カー / カーター・ディクスンがメイントリック一つのシンプルなストーリー構成で魅せた1940年代の作品に属している。

(1)恐喝者と思われる叔父のヒューバート・フェインではなく、殺人者と思われる夫のアーサー・フェインが殺された理由と(2)客間のテーブルの上に置いてあったゴム製の短剣が、本物の短剣にすり替えられたトリックの詳細が、物語の最後に、ヘンリー・メリヴェール卿によって、関係者全員に説明される。ただし、(1)については、作者カーター・ディクスンによる地の文書のことを考えると、正直ベース、「アンフェアに近いのではないか?」と、個人的には思われる。また、(2)に関しては、一応、作者による伏線は張られているものの、文章だけでは、客間内の見取り図や客間内に居た人達の位置関係等が、今一つハッキリしないこともあって、「やや現実的ではないのでは?」と思えてしまう。

0 件のコメント:

コメントを投稿