2015年12月27日日曜日

ロンドン アドミラルティーアーチ(Admiralty Arch)

トラファルガースクエア側から見たアドミラルティーアーチ全景

アガサ・クリスティー作「クリスマスプディングの冒険 / 盗まれたロイヤルルビー(The Adventure of the Christmas Pudding / The Theft of the Royal Ruby)」の冒頭、ある東洋の国の王位継承者である王子がロンドンで知り合った若く魅力的な女性にその国に伝わる由緒あるルビーを持ち逃げされてしまう。間もなく、王子は従姉妹と結婚する予定で、このことが公になった場合、大変なスキャンダルになる可能性が非常に高かった。その国との関係を重要視する英国政府(外務省)の説得を受けたエルキュール・ポワロは、ルビーを持ち逃げした女性が潜んでいるというキングスレイシー(Kings Lacey)の屋敷で開催されるクリスマスパーティーに参加するのであった。

地下鉄チャリングクロス駅(Charing Cross Tube Station)へ向かう
地下道の壁に描かれたアドミラルティーアーチ

英国のTV会社ITV1で放映されたポワロシリーズ「Agatha Christie's Poirot」の「盗まれたロイヤルルビー」(1991年)の回では、アーサー・ヘイスティングス大尉とミス・フェリシティー・レモンの二人が不在となるクリスマスを一人で楽しもうと、ポワロはロンドン市内のチョコレート店へやって来た。自分用のチョコレートを購入して帰宅しようとしたポワロは、店の前で突然謎の男二人によって車内へ押し込められ、連れ去られてしまう。その車が向かった先は英国外務省で、外務次官のジェスモンド氏(Mr Jesmond)の指示によるものであった。その際、ポワロを乗せた車が通過したのが、アドミラルティーアーチ(Admiralty Arch)である。

夕陽を背にしたアドミラルティーアーチ

アドミラルティーアーチは、トラファルガースクエア(Trafalgar Square)の南西側に位置しており、英国王エドワード7世(Edward Ⅶ:1841年ー1910年 在位期間:1901年ー1910年)が母親であるヴィクトリア女王(Queen Victoria:1819年ー1901年 在位期間:1837年ー1901年)を讃えて建設した門で、英国の建築家サー・アストン・ウェッブ(Sir Aston Webb:1849年ー1930年)が設計を担当した。アドミラルティーアーチが完成したのは1912年で、残念ながら、自分の存命中にエドワード7世が完成したアーチを観ることは叶わなかったのである。

アドミラルティーアーチ中央上部のアップ

トラファルガースクエア側に面したアドミラルティーアーチの中央上部には、ラテン語で次のように書かれている。
: ANNO : DECIMO : EDWARADI : SEPTIMI : REGIS :
: VICTORIAE : REGINAE : CIVES : GRATISSIMI : MDCCCX
(In the tenth year of King Edward Ⅶ, to Queen Victoria, from most grateful citizens, 1910)
日本語で言うと、「エドワード7世の在位10年目に、親愛なる市民よりヴィクトリア女王へ送るー1910年」という意味になる。

ザ・マルからアドミラルティーアーチ(右側)を望む

トラファルガースクエアとバッキングガム宮殿(Buckingham Palace)を繫ぐ通りであるザ・マル(The Mall)の正面玄関に該るアドミラルティーアーチの中央にある通用門は通常閉じられており、英国王/女王専用ともっている。よって、現在、中央の通用門を使用できるのは、エリザベス2世のみである。一般人は、左右にある通用門を使用することになる。

夕方のラッシュアワーのため、
トラファルガースクエアへと向かう
アドミラルティーアーチの通用門が混雑している

アドミラルティーとは、日本語で「海軍提督」を意味し、門の一部が隣に位置している国防省(Ministry of Defence)の建物と繋がっている。よって、アドミラルティーアーチは一般公開されていないため、内部を見学することはできない。

以前より英国政府が使用しており、2000年からは内閣府が所在していたが、緊縮財政の一環として、2011年に内閣府も退去し、75百万ポンドの価格で買い手を募った。2012年10月にスペイン人の不動産開発業者ラファエル・セラーノ・クウェヴェード(Rafael Serrano Quevedo:1966年ー)が英国政府から25年間の借用権を購入した。2013年8月にシティー・オブ・ウェストミンスター区の議会(City of Westminster Council)が建設許可を出したので、数年後に、アドミラルティーアーチは100室を超えるホテルへと大改装される予定である。

ザ・マル中央(横断歩道の途中)から見たアドミラルティーアーチ

2015年12月26日土曜日

ロンドン エンデルストリート(Endell Street)

ハイホルボーン通り側から見たエンデルストリート

サー・アーサー・コナン・ドイル作「青いガーネット(The Blue Carbuncle)」では、クリスマスの早朝、宴席から帰る途中の退役軍人ピータースン(Peterson)が、トッテナムコートロード(Tottenham Court Road)とグッジストリート(Goodge Street)の角で発生した喧嘩の現場に残された帽子とガチョウを、ベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元に届けて来た。ホームズに言われて、ピータースンは拾ったガチョウを持って帰ったが、その餌袋の中から、ホテルコスモポリタン(Hotel Cosmopolitan)に滞在していたモーカー伯爵夫人(Countess of Morcar)の元から12月22日に盗まれて、懸賞金がかかっている「青いガーネット」が出てきたのだ。

エンデルストリートの北側はロンドン・カムデン区に属している
エンデルストリートの南側は
シティー・オブ・ウェストミンスター区に属している

ホームズは早速新聞に広告を載せて、ガチョウの落とし主を探したところ、ヘンリー・ベイカー氏(Mr Henry Baker)が名乗り出て来た。ベーカー氏によると、大英博物館(British Museum)の近くにあるパブ「アルファイン(Alpha Inn)」の主人ウィンディゲート(Windigate)がガチョウクラブを始め、毎週数ペンスずつ積み立てていくと、各人クリスマスにガチョウを一羽ずつ受け取れる仕組みだと言う。

右側の通りがエンデルストリートで、
左側の通りが直角に交差するシェルトンストリート(Shelton Street)

ジョン・ワトスンを連れて、アルファインに赴いたホームズは、そこで主人のウィンディゲートから、「問題のガチョウは、コヴェントガーデンマーケット(Covent Garden Market)にあるブレッキンリッジ(Breckinridge)の店から仕入れた」ことを聞きつける。
そこで、二人はブレッキンリッジの店へと向かった。

シェルトンストリートからエンデルストリート(北側)を望む

私達はホルボーンを横切り、エンデルストリートを下り、スラム街をジグザグに抜けて、コヴェントガーデンマーケットへと向かった。最も大きな店の一軒がブレッキンリッジという看板を掲げており、そこでは、きちんと整えた頬髭を生やして、鋭い顔つきをした馬面の経営者が店仕舞いをする少年を手伝っていた。
「こんばんは。コニャは冷え込むね。」と、ホームズは声をかけた。
経営者は頷いて、いぶかるような視線をホームズに向けた。
「ガチョウは全部売れ切れたようだね。」と、ホームズは空の大理石の台を指差して続けた。

シェルトンストリートからエンデルストリート(南側)を望む

We passed across Holborn, down Endell Street, and so through a zigzag of slums to Covent Garden Market. One of the largest stalls bore the name of Breckinridge upon it, and the proprietor, a horse-looking man, with a sharp face and trim-side-whiskers, was helping a boy to put up the shutters.
'Good-evening. It's a cold night,' said Holmes.
The salesman nodded and shot a questioning glance at my companion.
'Sold out of geese, I see,' continued Holmes, pointing at the bare slabs of marble.

左手のビルには、貸しオフィスやホテル等が入居している

エンデルストリート(Endell Street)は、北側が地下鉄ホルボーン駅(Holborn Tube Station)から地下鉄ピカデリーサーカス駅(Piccadilly Circus Tube Station)へ向かって南西へ延びるハイホルボーン通り(High Holborn)から始まり、南側はロイヤルオペラハウス(Royal Opera House)の近くを東西に延びるロングエイカー通り(Long Acre)で終わる通りである。その後、ボウストリート(Bow Street)へと名前を変えて、ロイヤルオペラハウスの前を通っている。
エンデルストリートの北側は、ロンドン・カムデン区(London Borough of Camden)内に、そして、南側はshティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)内に属している。

エンデルストリートは、左右に延びるロングエイカー通りに交差して、
ボウストリートに名前を変える

エンデルストリートの一部は17世紀前半に既にできていたが、当初は、ベルトンストリート(Belton Street)として知られていた。1846年に通りの幅が拡げられ、かつ、ハイホルボーン通り方面へ通りが延びた際、当時の教区牧師であるジェイムズ・エンデル・タイラー(James Endell Tyler)に因んで、エンデルストリートと呼ばれるようになったと言われている。

ロングエイカー通り側から見たエンデルストリート

現在、エンデルストリートの一本西側にあるニールストリート(Neal Street)が賑わっていて、エンデルストリートはやや裏通りに近く、人通りはそれ程ではないが、タクシーの抜け道(の一部)となっているため、車の往来は割合とあり、また、レストランやショップ等もある程度軒を連ねている。

2015年12月20日日曜日

ロンドン セントマーティンズレーン(St. Martin's Lane)

イングリッシュナショナルオペラやイングリッシュナショナルバレエが本拠地とする
コロッセウム劇場の尖塔

アガサ・クリスティー作「クリスマスプディングの冒険 / 盗まれたロイヤルルビー(The Adventure of the Christmas Pudding / The Theft of the Royal Ruby)」の冒頭、ある東洋の国の王位継承者である王子がロンドンで知り合った若く魅力的な女性にその国に伝わる由緒あるルビーを持ち逃げされてしまう。間もなく、王子は従姉妹と結婚する予定で、このことが公になった場合、大変なスキャンダルになる可能性が非常に高かった。その国との関係を重要視する英国政府(外務省)の説得を受けたエルキュール・ポワロは、ルビーを持ち逃げした女性が潜んでいるというキングスレイシー(Kings Lacey)の屋敷で開催されるクリスマスパーティーに参加するのであった。


英国のTV会社ITV1で放映されたポワロシリーズ「Agatha Christie's Poirot」の「盗まれたロイヤルルビー」(1991年)の回では、アーサー・ヘイスティングス大尉とミス・フェリシティー・レモンの二人が不在となるクリスマスを一人で楽しもうと、ポワロはロンドン市内のチョコレート店へやって来た。自分用のチョコレートを購入して帰宅しようとしたポワロは、店の前で突然謎の男二人によって車内へ押し込められ、連れ去られてしまうのであった。

セントマーティンズレーンの北側から
コロッセウム劇場を見たところ
セントマーティンズレーンの南側から
コロッセウム劇場を望む

ポワロが謎の男二人に連れ去られた場面は、セントマーティンズレーン(St. Martin's Lane)で撮影されている。
セントマーティンズレーンは、シティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)のストランド地区(Strand)内にあり、南側はナショナルギャラリー(National Gallery)近くのウィリアム4世ストリート(William IV Street)から始まって、北側は地下鉄レスタースクエア駅(Leicester Square Tube Station)と地下鉄コヴェントガーデン駅(Covent Garden Tube Station)を結ぶロングエイカー通り(Long Acre)で終わる通りである。

セントマーティンズレーンを行き交う人々の流れ
セントマーティンズレーンと
ウィリアム4世ストリートが交差する角に建つ
パブ「ザ・チャンドス(The Chados)」
画面右手前がパブ「ザ・チャンドス」で、
画面左手奥がコロッセウム劇場

セントマーティンズレーンの両側には、劇場が数多く集中している。
通りの西側には、ヨーク公爵劇場(Duke of York's Theatre)やノエルコワード劇場(Noel Coward Theatre)が、通りの東側には、イングリッシュナショナルオペラ(English National Opera)やイングリッシュナショナルバレエ(English National Ballet)が本拠地とするコロッセウム劇場(Coliseum Theatre)が建っていて、観劇客や観光客等で賑わっている。

セントマーティンズレーン沿いに建つ
ヨーク公爵劇場
女優ニコール・キッドマン(Nicole Kidman)主演の
舞台「Photograph 51」が上演されていたノエルコワード劇場

トラファルガースクエア(Trafalgar Square)から地下鉄トッテナムコートロード駅(Tottenham Court Road Tube Station)へ向かって北へ延びるチャリングクロスロード(Charing Cross Road)の途中から東へ延びるセントマーティンズコート通り(St. Martin's Courtー車道ではなく、歩行者専用の通り)がセントマーティンズレーンに突き当たった辺りで、ポワロは謎の男二人によって車内へ押し込められている。画面の右側には、ノエルコワード劇場の一部が映り込んでいる。

2015年12月19日土曜日

ロンドン アルファイン(Alpha Inn)

「アルファイン」のモデルになったと一般に言われているパブ「ミュージアム・タバーン」

サー・アーサー・コナン・ドイル作「青いガーネット(The Blue Carbuncle)」では、クリスマスの早朝、宴席から帰る途中の退役軍人ピータースン(Peterson)が、トッテナムコートロード(Tottenham Court Road)とグッジストリート(Goodge Street)の角で発生した喧嘩の現場(→2014年12月27日付「ロンドン トッテナムコートロード/グッジストリート」を御参照)に残された帽子とガチョウを、ベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元に届けて来た。ホームズに言われて、ピータースンは拾ったガチョウを持って帰ったが、その餌袋の中から、ホテルコスモポリタン(Hotel Cosmopolitan)に滞在していたモーカー伯爵夫人(Countess of Morcar)の元から12月22日に盗まれて、懸賞金がかかっている「青いガーネット」が出てきたのだ。ホームズは早速新聞に広告を載せて、ガチョウの落とし主を捜したところ、ヘンリー・ベイカー氏(Mr Henry Baker)が名乗り出て来たのである。


「ところで、あのガチョウをどこで手に入れたのかを私に教えていただけないですか?私はちょっとした鳥の愛好家でして、あれよりよく育ったガチョウを見たことがほとんどなかったので...」
「もちろん、かまいませんよ。」と、ベイカー氏は立ち上がって、新しく受け取ったガチョウを脇の下に抱えて言った。「大英博物館の近くにあるアルファインへ、仲間達とよく飲みに行くんです。私達は昼間大英博物館で過ごしています。アルファインのウィンディゲートという気のいい主人が今年ガチョウクラブを始めました。それは、毎週数ペンスずつ積み立てていくと、各人クリスマスにガチョウを一羽ずつ受け取れるという仕組みです。私はきちんとお金を積み立てて、後はあなたも御存知の通りです。本当に有り難うございました。ベレー帽は、私の年齢にも、私の真面目な性格にも会わなかったようです。」今日に大げさな態度で、ベイカー氏は私達に向かい、真面目くさって御辞儀をすると、大股で歩き去ったのである。

グレートラッセルストリート越しに
「ミュージアム・タバーン」を望む

'By the way, would it bore you to tell me where you got the other one from? I am somewhat of a fowl fancier, and I have seldom seen a better grown goose.'
'Certainly, sir,' said Baker, who had risen and tucked his newly gained property under his arm. 'There are a few of us who frequent the Alpha Inn, near the Museum - we are to be found in the Museum itself during the day, you understand. This year our god host, Windigate by name, instituted a goose club, by which on consideration of some few pence every week, we were each to receive a bird at Christmas. My pence were duly paid, and the rest is familiar to you. I am much indebted to you, sir, for a Scotch bonnet is fitted neither to my years for my gravity.' With comical pomposity of manner he bowed solemnly to both of us and strode off upon his way.

グレートラッセルストリートと
ミュージアムストリートが交差する角から
見上げた「ミュージアム・タバーン」

その夜は身を刺す程の寒さだったので、私達はアルスター外套を羽織り、首巻きをした。外に出ると、雲一つない空に星々が冷たく輝き、通行人が吐く息が拳銃が発する煙のようだった。私達が歩き出すと、カツカツと大きな足音がした。私達は医者が集まっている地区であるウィンポールストリートとハーレーストリートを、更にウィグモアストリートを抜けて、オックスフォードストリートに至った。15分程すると、私達はブルームズベリー地区のアルファインに着いた。そこは、ホルボーンへと下るある通りの角にある小さなパブ(酒場)だった。ホームズはパブの扉を押し開けて、赤ら顔で白いエプロンをつけた主人にビールを二杯注文したのである。

「ミュージアム・タバーン」は大英博物館への観光客等で賑わっている

It was a bitter night, so we drew on our ulsters and wrapped cravats bout our throats. Outside, the stars were shining coldly in a cloudless sky, and the breath of the passers-by blew out into smoke like so many pistil shots. Our footfalls rang out crisply and loudly as we swung through the doctors' quarter, Wimpole Street and Harley Street, and so through Wigmore Street into Oxford Street. In a quarter of an hour we were in Bloomsbury at the Alpha Inn, which is a small public-house at the corner of one of the streets which runs down into Holborn. Holmes pushed open the door of the private bar and ordered two glasses of beer from the ruddy-faced, white-aproned landlord.

ミュージアム・ストリート越しに見た「ミュージアム・タバーン」

ホームズとジョン・ワトスンが訪れたブルームズベリー地区(Bloomsbury)にあるアルファイン(Alpha Inn)というパブは架空の酒場で、残念ながら、実在していない。ただし、大英博物館(British Museum)の正面入口近くにある「ミュージアム・タバーン(Museum Tavern)」というパブがアルファインのモデルだったのではないかと一般に言われている。
「ミュージアム・タバーン」は、大英博物館の前を通るグレートラッセルストリート(Great Russell Street)と、ハイホルボーン通り(High Holborn)から北上してくるミュージアムストリート(Museum Street)が交差した角に建つパブである。具体的な住所は、「49 Great Russell Street, Bloomsbury, London WC1B 3BA」となっている。

ミュージアムストリートの南側から
「ミュージアム・タバーン」を望む

「ミュージアム・タバーン」は、18世紀初期からここで既に営業していて、大英博物館がオープンするまでは「The Dog & Duck」と呼ばれていたが、1759年に大英博物館がオープンしたのに伴い、現在の名前に変更された。
ホームズシリーズの作者であるコナン・ドイルもこのパブの常連であったことが知られており、そのことから、彼がこの「ミュージアム・タバーン」をアルファインのモデルにしたものと考えられている。実際、コナン・ドイルの原作上、アルファインの場所に言及した部分があるが、「ミュージアム・タバーン」の位置は彼の原作にうまくマッチしている。